9話 出汁が欲しい
ボクは1歳。
まだまだボクの食事は大人とちがう。
柔らかくて、細かく切られていて、味もすごく薄い。
……そう。
どの料理も、ほぼ塩味だけだ。
食の豊かな日本に生まれ育って、当たり前に食べていたのが、食べられない苦痛ったらありゃしない。
食も改善が必要だよね。
前世では味噌だって、醤油だってあった。砂糖も酢も、出汁を取るのも当たり前!
基本中の基本。
そーだ!!!出汁だよ、出汁!
旨み成分必要~
大事だから、もう一度言う。
旨み成分必要~!
なんでそんなふうに語るの?
1歳児は暇なんだよっ。
仕方ない、歩く練習でもするか。
最近はつかまり立ちできるんだ。
危なかっかしいよね、だって頭が重いんだもの。
今、ボクはアリアーナに急に会いたくなった。
「まーう、アリュ、いくっ?」
「はい、カイトお坊ちゃま、なんでしょうか?」
ニコニコ笑顔で、マールはいつもボクの目線に合わせてくれる。
「マールっ、アリュ、っこ、行く!」
「カイトお坊ちゃまはアリアーナお嬢様が大好きなんですね。今、アリアーナお嬢様の世話係に確認取ってきますね、少しだけお利口さんにして待っていてくださいね」
「ユーリエ」
この人ユーリエっていうんだ。
「はい!マールさま」
「いまのお話は聞きましたね。カイトお坊ちゃまはアリアーナお嬢様にお会いになりたいそうよ。まずは奥様の許可を頂いて、それからエイジーに話を通してきて」
エイジーは最近アリアーナについたもう1人の世話係の人だよね?
この間思ったんだけど、エイジーは体が大きい。
1度でいいから抱っこして欲しい。
「はい、早速奥様の許可を頂いてきます」と静かにいなくなった。
え?ヤバくない?今足音しなかったよね?
「さぁ、カイトお坊ちゃま、少しだけおめかししましょうか?」
ボクは白のシルクのシャツに、青の半ズボン、黒い靴下に、最近履く様になった黒い靴を履かせてもらう。
「御髪も整えますよ」ってマールは手際よくボクの髪をくしでといでゆく。
「カイトお坊ちゃまの御髪は本当にキレイですねぇ、旦那様に似て薄紫の髪はマーシュ家そのもの。瞳は奥様似でいらっしゃる緑ですね。」
へぇー、そうなんだ!
「お顔も物凄く可愛らしい。
はぁっ……大きくなったら絶対に美男子になりますわ。」
マール、すっごく熱弁よ。
「薄紫の貴公子と呼ばれた旦那様は男らしくていらっしゃるけど、カイトお坊ちゃまはどちらかと言うと」
ボクを見るマールの目が、めちゃくちゃ優しく慈愛に満ちている。
ボクの頭をひと撫でして、そして、
「中性的ですわね」
マールがニコッて微笑んだ。
そーなんだ、ボクの容姿ってナイスぽい?
「ほら、プクプクほっペも、ピンクのおくちも。クリクリお目目も、はぁ……尊い、天使がいるわ」
あれー、マール、どこ行ったの?
戻ってきてー。
マールの瞳、気のせいかハートマークだよ。
ね?大丈夫?戻ってきてー!
ペチペチ!ボクのお手手がマールの頬を軽く叩く。
マールの手がボクの手を包みこむ。
「お坊ちゃま、カイトお坊ちゃまは可愛すぎます、天使です。《《だ、か、ら》》絶対に気をつけてくださいませ。誘拐、……有り得ません。《《私が》》カイトお坊ちゃまを守りますからね」
ちょっとマール、鼻息荒いってば。




