65話 ダウニーの怒り
「ルーク待たせたな」
「いえ」
ダウニー様、いい匂いしてやがる、さっきの肉か?美味そうだな。
「さ、早速だか、話を聞こうか」
私は思考を切り替え、今回の詐欺事件のあらましを説明をした。
話が進むにつれ、目の前の美丈夫の顔は険しさを増す。この目が優しく柔らかい眼差しであれば、数多の女性をまた虜にするだろう。
しかしどうだ、今は獰猛な鋭い眼光、絶対服従してしまうようなこの目で一睨みされれば目を逸らすことなど出来ない。もし、万が一視線をそらすことが出来たなら、間違いなく殺られるだろう。
そんな顔もまた美しいとすら感じてしまう私は心底ダウニー様をお慕いしているからだろう。
あー、勘違いするな。私は男が好きなんじゃない。ダウニー様という存在そのものを崇めているに過ぎない。
決して好きじゃない。好きだけど、好きじゃない。難しいな。
「分かった。ではオヤジという奴を捕まえてやろう。私を怒らせるとは命知らずだな、覚悟があるんだろ」
「ルークはその貴族の目星はついているのか?」
「まだはっきりとは。アイツらのオヤジを捕り、主犯を炙り出してやります」
「あぁ、頼んだ」
「よろしいですか?旦那様」
「なんだ、セバス」
「今後の対策としては、カイト坊ちゃんの意見を聞いていただいてはいかがかと?」
「カイトをか」
カイトを同席させるのにはいいかもしれん。あの子は聡い。またイカルダの女神様の意見をまた受けるかもしれん。カイトは嫡男だ。いずれはこの辺境伯の地をおさめる当主になる。まだ早いかもしれないが幼いあの子がその場に居て、もしかしたら何かを学んでくれるかもしれん。
「カイトお坊ちゃまはいずれこの辺境伯をお継ぎになるお方。まだ難しい話かもしれませんが、このような場所に慣れて頂かなければなりません。幼いからこそ同席させるのは《《アリ》》だと私は思います。生意気なご意見を申し上げました。」
一礼をするセバスを見る。
こいつは私がカイトの同席を反対するとは露ほども思ってない。私をよく知っているからな。
「そうだな。今後の対策はカイトも同席させよう。今日はもう遅い。カイトも休んでいるだろう。明日また話すとしよう。」
「ルークよ、ご苦労だった。今日はもうゆっくりするが良い。」
「御意!」
「あ、そうだ。今日の夕食は美味かったぞ。今まで食べたことのない、凄く美味い食事だった。」
「はい、先程から私のお腹からもヨダレがたれそうです。ダウニー様から美味しそうな匂いがしてますから」
あー、食事が楽しみだ。やっと腹に入れることが出来るな。
「は?私は男は好かん。お前、《《そっち》》だったのか?」
そんなに嫌そうな顔をしなくても。
なんだ?ダウニー様、前を隠してどうしたんですか?あれか?私が《《あっち》》の趣味があるとでも?
「え?違いますよ。揶揄うのはやめてくださいよ」
「そうか? てっきり。勘違いならいいが。カイトは《《嫁》》にはやらんぞっ」
は?私はそんな幼児趣味?誓ってありなん。ましてや《《そっち》》の気もないぞ。
「何をおしゃるんですか?私には男に走る気も、幼児趣味もありません。」
「ガハハハッ、そうか分かった、分かった」
かつて背中を預けたルークの慌てっぷりは可笑しかった。
そう思う反面、ダウニーの中には戦場に立つその時のような激しい怒りの炎が宿っているのだった。
領民を欺いたこと。
パン欲しさに知らずに罪の片棒を担がされた、罪の意識のない子どもを騙したヤツら。許さんぞ。




