42話 トン汁は母の思い出の味
「快斗、母さんの作る豚汁はね、玉ねぎと、豚バラと豚ロースだけよ」
「へー。人参とか、ごぼうとか、里芋?あとなんだっけ?あ、こんにゃく?前さー、友達んちでご飯ご馳走されたの、さっきの色々入っていたよ」
「そうね、多分、一般的な豚汁はそうかもね。でも母さんの実家は、玉ねぎ、豚肉、それだけだったのよー。それだけでも充分美味しいでしょ?」
あー、今から作るのは快斗の、前世の母さんのレシピだ。あれは我が家の味だよ。
「坊っちゃま、どうなさいましたか?だいぶ目に染みるようですね、大丈夫ですか?」
「マール、ありがとう。大丈夫だよ」
「さ、ゴードン、さっきの豚肉の鍋にこれ全部入れてくれる?」
「これをですか?苦いスープにならないですか。飲めますかな」
ちょいちょい
「このナダンソウソウは、火を入れる事で甘くなるんだよ」
「へい、また坊っちゃまはどっからその知識を得たんでしょ」
いや、疑わないで、大丈夫。
「イカルダの女神様からのお告げだよ。」
もう、ゴードンも、マールもセバスも拝まないでってばっ。
ってかセバス仕事は?厨房にはセバスの仕事ないじゃんかー。
「セバス、仕事しなくていーの?」
「何をおっしゃいます、坊っちゃま。私には毒味というお仕事がありますよ」
ってセバス。さっきから豚汁から目が離れてないよ、なに?獲物を狙うような目してんのさ。あれだよねー、また狙ってるよねー、さっきみたいに食べよーったって、そうはさせないからねっ!
「さっき、パパがセバスを呼んでたよー、行かなくていーの?」
スン!あ、消えたっ。
あっ、戻ってきたじゃん、早っ。相変わらず早いからっ。
「坊っちゃま、旦那様は私を呼んでないそうですよ。わかってます、仲間はずれはダメですよ、食べさせない気ですか?わたしに食べさせないなら、泣きますよ」
いや、おっさんの泣く顔みたくなーい!
「わかったよ、セバス。1口だけね」
なんなのー、そのこの世の終わりみたいな顔しないでー。でも、さっき、ボクのあら汁奪った罰だ、1口だけしか、あーげないっ。
さぁ、どうかな?玉ねぎ、玉ねぎ~♬
「ゴードン、そろそろナダンソウソウが透明になって来てない?」
「はい、透明になってる、です。」
「じゃ、ミソを入れていくね、ボクがやるよ、お玉ちょーだい」
うん、こんな感じかな?
できたよ、できたー。豚汁ーっ。
味見だ、味見ー。
「美味しすぎるー、豚の旨み、ナダンソウソウの甘みが合わさってサイコー!」
「「「そんなに?」」」
いや、3人とも獲物狙うみたいに豚汁見ないで、あ、そこ、争わないでっ。
「ゴードン、マール味見してみて。セバスは1口だけだよ」
いや、酷いって顔してもダメだよ、セバス。
ゴードン、マール、ね、美味しいでしょ?
「「「うーん、うまっ」」」
「坊っちゃま、如何なさいました?」
嬉しいんだ、さいっこーに美味しい。
あー、母さんの味だ。
懐かしいなー。
「本当にご馳走様でした。坊っちゃま、大変美味しゅうございました」
いつまでも泣いているボクをマールが優しく抱きしめてくれた。
前世の父や母、兄妹を思い出してしまう。もう会えないんだって思うと涙がとめどなく流れちゃう。母さんの作る豚汁はもう二度と飲めないんだって現実に潰れちゃいそうだ。
会いたいな、その思いを我慢しながらボクはマールに抱きついた。
「母さんの豚汁、凄く美味しいよ」
快斗の時に伝えきれなかった言葉を、伝えておけばよかったと後悔が心残りだ。




