1話 異世界への転生
ボクは今、ママのお腹の中にいる。
なのに、前世の記憶がある。
いや、それだけじゃない。
ボクの名前、2つあるよ。
ひとつは下門快斗
そして――
カイト·ブラウン·マーシュ。
どっちが本当のボクなの?
耳に響くのは、水の中みたいなボコボコ音。
遠くから、誰かの声が聞こえる…。
ゆらゆら揺れて、世界がぼんやりしている。
「奥様、頑張って下さいませ。もうすぐですよ」
「アマナ頑張れ、もうすぐだ。私たちの待ち望んだ子だ!」
「はぁ……っ、いっ、いたい…っ、はぁ、ふー、ふー、…!」
「奥さま、大丈夫ですよ、もうすぐお子様に会えますよ!」
いろんな声が聞こえてくる。
トク、トク、トク―――ドッドッ。
これ……きっと、ママの心臓の音。
聞いていると、不思議と安心してくる。
なんだか……眠くなってきた。
あー……眠い……ムニムニ。
引っぱられる!
ちょっと苦しい――痛っ!
えっ?誰?
叩かないでってば?
おぎゃーおぎゃおぎゃー!!!|
《痛い、痛いっ!叩かないで~。》
「旦那様、奥様……おめでとうございます。ほら、元気なお坊ちゃまですよ。」
「アマナ……ありがとう!」
パパの声が震えてる。
「私たちの息子を……産んでくれて…………グスッ」
え?泣いてるの?
ボク、まだ何もしてないよ?
「もう、あなたったら。泣いてどうするの?息子が見てますよっ?」
オギャーオギャー!オギャーーー!《 え?この人たちがパパとママ?そんなに泣くほどうれしい?僕が生まれて良かった………?》
オギャー!オギャー!
《 初めましてだね。パパ、ママよろしくね》
「おーよしよし!元気ですね」
優しい声がした。
「私は主治医のグローですよ。健康そのもの、大きく育つのですよ」
優しい笑顔の先生だ。
声だけで安心しちゃう。
この先生が、ボクを取り上げてくれたんだ。
生まれるために助けてくれた先生だからうんとお礼をするんだ。
んぎゃーんぎゃー!
《先生、ボクを取り上げてくれて、ありがとう》
………ブリッ。
あ。
……やっちゃった。
わぁぁぁぁぁぁ!!
ごめんなさい、先生。
これは自然現象なんです!
赤ちゃんの不可抗力なんですぅぅぅー!
「まあまあ、お坊ちゃま、汚れてしまいましたね。」
黒髪のふくよかな女性に抱き上げられる。
大事なものを失った気分になりながらも、
ボクは温かいお湯につけられた。
ふわふわの布に包まれて、
サラサラな服を着せられていく。
そして――
体力の限界が来た。
ボクはそのまま、深い眠りに落ちていった。
「ほら、寝ちゃったわ。さっきまであんなに泣いていたのに」
「あぁ、……寝たな。寝顔も天使だ。私たちの宝だ」
「あなた、この子の名前は決まってますの?」
「もちろんだ。この子の名前は――」
少しの間をおいて、パパが言った。
「カイト!カイト·ブラウン·マーシュだ」
「カイト…………ステキな名前だわ。」
ママが優しく微笑む。
「カイトね、カイトだから、これからカイくんと呼ぶわね。ンフッ、私たちの可愛い息子。これからよろしくね」
「カイト、大きく育つんだぞ」
パパとママがそっと優しいキスをくれた。
でも、ボクはもう眠くて。
そのまま、スヤスヤと眠りについた。
ボクはまだ知らない。
この世界には――
塩しか存在しない。
砂糖もない。
味噌もない。
醤油もない。
そして、この世界の人たちは――
「美味しい」という幸せを、まだ誰も知らない。




