18 中洲
「よくぞここまで来た! 名は何と言う?」
中洲に辿り着いた藤一郎に、中洲の柳の木の近くにいた武士が声をかけてきた。藤一郎が緊張した面持ちで答える。
「下総国、下河辺・幸島が郎党、桜田藤一郎義之でございます」
「私は近江国の住人、佐々木四郎右衛門尉信綱だ。先程、息子が武州殿に援軍をお願いしに行った。援軍が来たら、一気に渡るぞ!」
「はい、右衛門尉殿!」
「藤一郎とやら、四郎でよい」
佐々木四郎が藤一郎に笑いながら言い、ヒョイと体を傾けた。そのすぐ横を矢が通り抜けていった。
† † †
「父上、武州殿にお会いできました。まもなく援軍が参ります!」
「でかしたぞ、太郎!」
裸同然の姿で少年が中洲に戻ってきた。佐々木四郎が喜ぶ。
太郎と呼ばれた少年は、息つく暇もなく、従者に手伝ってもらいながら大鎧を着込んだ。
そうしているうちに、中洲周辺で十数騎が一気に川を渡り始めた。
先頭は、藤一郎と同じくらいの若者だ。豪華な大鎧を着ている。確か、一昨日の酒宴で北条泰時と並んで座っていた若者だ。
「おお、武蔵太郎殿が御自ら援軍に……よし、我らも続くぞ!」
佐々木四郎は援軍の先頭に立つ若者を見て喜び、馬に乗ると中洲から向こう岸へ向かって飛び出した。
小野は小声で爺に聞いた。
「す、すみません、武蔵太郎殿って誰でしたっけ?」
「武州殿のご長男じゃよ。さあ藤一郎殿、参りましょうぞ!」
「よし、行くぞ!」
藤一郎達は官軍の待ち受ける向こう岸へ向かって、中洲から川に入った。
† † †
藤一郎達は、川の中を進んだ。官軍のいる川岸まであと少しだ。官軍は、川に綱を張っていたが、先頭を行く佐々木四郎が太刀で切り落とした。
武蔵太郎と佐々木四郎の他、川を渡り切った何騎かが川岸を馬で駆け上がる。
官軍の放つ矢が増えてきた。川を渡る武士や従者が次々と射殺される。
「矢が来ますぞ!」
藤一郎の馬の左側にいる爺が叫んだ。正面左側の川岸から藤一郎に向かって、馬に乗った一人の武士が矢を放とうとしていた。距離が近い。矢を避けきれない。
藤一郎の馬の右側にいる小野は、急いで懐から分子解離銃を取り出した。
小野は、前方に進み出ると、弓を引き絞る武士に銃口を向け、引き金を引いた。それとほぼ同時に、武士が矢を放った。
「ただいま照射中です。ご注意ください」
緊迫した今の状況にまったく合わない女性のアナウンスが分子解離銃から聞こえた。これ、サイレントにできないのだろうか。
武士が放った矢が、あっという間にボロボロと崩れて軌道がブレる。矢は藤一郎の横を力なく通り過ぎていった。
藤一郎は、素早く矢をつがえ、川岸正面左手の武士に向かって放った。第二矢を放とうとしていた武士の右肩に矢が刺さる。
武士は、顔をしかめて刺さった矢を引き抜くと、右肩を庇いながら逃げて行った。その横を藤一郎達は川岸へ駆け上がる。
藤一郎達が川岸を駆け上がると、とんでもない大声が聞こえてきた。
「なんじゃあ、先程の童と強力の所従が川から上がって来よったわ。命が惜しければさっさと帰れえ!」
声の主は、渡河中に小野が流木等を受け流すのを見て喝采していた、モジャモジャ髭に筋肉ムキムキの武士だった。
藤一郎がその武士に向かって叫んだ。
「私は下総国、下河辺・幸島が郎党、桜田藤一郎義之だ。名を名乗られい!」
「おお、下河辺の郎党か。我は西面の武士、筑後六郎左衛門尉知尚だ。童、悪いことは言わん。主のところへ戻れ!」
筑後六郎は、藤一郎を相手にする気がないらしく、馬を下流の方へ向け駆け出した。
それを見た藤一郎が必死に叫んだ。
「待ってくれ! 主や郎党は川で流された。残るは私ひとり。せめて一戦交えさせてくれ!」
筑後六郎の馬が止まった。




