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転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件  作者: 想いの力のその先へ
第二部 王国動乱前夜編 第一章 18歳 フェネクス男爵領領主、アイン・アルデバラン・フェネクス

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七十六話


 ……あたし、なにしてるんだろ。

 アインのフェネクス男爵領から逃げ帰って、アマテルさんに泣きついて。そして、いまはカーテンを閉めきった、薄暗い部屋に引きこもってる。

 なにもかも億劫だ。きっと、あたしの顔、ひどいことになってると思う。


 あの後、お父様は部屋で休んでるように。って、言われてそこから誰も来てない。

 ううん、一応。メイドたちが定期的に食事や服の世話でくるけど、その程度。


 ……鍛練しなきゃ。そう思うんだけど。でも、やる気も起きない。どうしたんだろ、本当に。





 アマテルさん、結婚式で綺麗、だったなぁ……。

 あたしも、綺麗に、なれるのかなぁ……。

 そう考えるだけで、じわ、って涙が滲んでくる。


「……ぅ、う」


 涙を拭くように、手の甲でごしごしって目を擦る。




 ――こん、こん、こん。



 扉を叩く音が聞こえた。誰か来たみたい。また、メイドなのかな。

 そんなあたしの考えは当たりであり、間違ってた。


「お嬢さま、よろしいでしょうか? お客様が……」

「……だ、れ?」


 自分で自分の声に驚く。泣きすぎたのか、声が嗄れていたから。

 そして、あたしが許可する前に扉が開く。

 そこには、いつもあたしの世話をしてくれていた初老のメイド長の姿。


「失礼します――」


 そのまま、メイド長はつかつか、とあたしに近づいてきた。


「お嬢さま、お召し物を変えましょう」


 そう言って、あたしがいつも着る騎士服を出した後、あたしに耳打ちをしてきた。


 ――アイン・フェネクスさまが参られてます。


 その言葉を聞いた瞬間、身じろぎする。

 いまのあたしの姿をアインに見せたくなかったから。


「……やだ、会いたくない」

「お嬢さま、そう言わずに」


 そう言いながら、メイド長はしゅるしゅる、とあたしの寝間着を脱がしていく。

 ……会いたくない、って言ってるのに。

 でも、服は着替えされられた。抵抗するのも億劫だったから。


「婆や、あたし……」

「大丈夫です、お嬢さま。婆やをご信じください」


 こうなった時のメイド長。婆やは梃子でも考えを曲げない。

 そうして、あたしはメイド長。婆やに身嗜みを整えられた後、手を引かれるよう自室を連れ出された。






 この先、客間にアインがいるらしい。

 会いたくない、って言ったのに結局、連れてこられてしまった。


「お嬢さま、この先にアインさまが――」

「婆や……」

「大丈夫です。さぁ」


 がちゃり、と扉が開く。

 部屋のなかが見えた。そこにはアイン。と、アマテルさん。

 でも、奇妙なのはアインが地面にひれ伏していること。その横で、アマテルさんがどん、と立っていること。


「えっと……?」


 困惑したあたしはなにも悪くないと思う。そんなあたしをおいてけぼりにして、アマテルさんがアインに話しかけた。


「愚弟、エレインちゃんが来たわよ。顔を上げなさい」


 アマテルさんの合図で、アインがゆっくり頭を上げた。


「……ぶっ?!」


 思わず吹き出したあたしを許して欲しい。だって、顔を上げたアイン。目のところに、立派な青タンが出来てたんだから。

 あまりの衝撃に会いたい、会いたくない。なんて考え、頭から吹き飛んだ。


「その、顔……。どうしたの?」


 思わず触れてしまったあたしは悪くない。

 でも、次のアインの答えも予想外だった。


「なんでもない。ただ、報いを受けただけだ」


 それだけじゃ意味が分からないから、詳しく聞くと。アインはここ、公爵領に来てお父様に鉄拳制裁を受けたみたい。しかも、自ら望んで。

 お父様はどうしたんだろう。嬉々としてやったのかな。それとも、やりにくかった、のかな?



「エレイン」

「……ひゃいっ!」


 真剣なアインの声。恋い焦がれた(男性)の声に知らず、心臓がドクン、と跳ねた。


「済まなかった、等と言える立場ではないが、それでも言わせてくれ。済まなかった」

「……えっと」

「姉上から話は聞いた」


 今度はさぁ、と血の気が引く。あの時の、アインと女傭兵(イオネ)が抱き合い、求め合っていた光景がフラッシュバックする。


「もう一度、済まない。と、始めに謝っておく」

「……えっ」

「はっきり言って、いまから言うのはエレイン相手にもそうだが、男として最低の言葉だ」


 そして、アインは一度言葉を切って、ふたたび話し出した。


「俺は、間違いなくイオネ。あの女性を愛している」

「はっ――」


 嫌だ、聞きたくない。アインが、好きな人があたし以外を愛してる、なんて言葉――。


「だけど、同じように俺は……。アイン・アルデバラン・フェネクスという男は、あなたを愛している」

「へぁ……?」


 ……なんて?

 頭が混乱してる。でも、それだけじゃなくて――。


「なん、で……?」


 なんで、ぽろぽろ、と涙が出てるんだろう。

 うん、そうだよ。アインは確かに最低なことを言った。でも、それでも嬉しかった。

 あたしは敗けた訳じゃなかった。捨てられた訳じゃなかった。

 確かに、アインはあたしに愛している、って言ってくれた。それが、すごく、嬉しかった。


 あたしはまだ、アインのこと。好きでいて、愛していていいんだ。そう思って。

 あたしは赦されたんだ、と、そう思って。

 白黒だった景色に色が戻るようで、すごく、嬉しかった。







 ……でも、アインはなんで白い薄手のバスローブみたいなのを着てたんだろう?

 なんだか、シショーゾク(死装束)って聞こえた気がしたけど、何だったんだろう。

 あたしはアインの不思議な姿に首をかしげることになった。

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