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転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件  作者: 想いの力のその先へ
第三章 17歳 辺境領、フェネクス

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三十一話

 あの秋の収穫祭から季節は巡り、極寒の冬を通り越し、若葉が芽吹く春が近づいてきた。

 去年の冬もなんとか、凍死者も餓死者も出さずに、年を越えることが出来た。それもこれも、やはり一番の立役者は公爵家の黒鍬隊、そしてエレインだろう。

 彼らが辺境領へ派遣されたからこそ、領民たちの家の普請が間に合い、冬を越せたと言える。

 その彼らも収穫祭が終わった後、領地である公爵家へと帰っていった。最後の仕事として、職人たちの仮設住宅を建築するおまけ付きで。


 そして、春が近づいてきた今日この頃。マーネン商会から職人、技術者の選定ならびに、こちらへ引っ越しする準備が終わったとの連絡があった。


「ふぅ、とりあえず順調、とは言えるのかな?」

「そうですね、アインさま」


 執務室で共に作業していたレグルスと確認し合う。どことなく、レグルスもホッとした顔つきをしていた。

 なにしろ、去年はイベントが目白押しだった。しかも、最後はモンスターの襲撃だ。あれ以降、なにか問題が起きるかも、と冷や冷やしていたものだが、結果として問題なく終わったのだから万々歳ではある。


 職人たちが引っ越してきたら、ひとまず仮設住宅に入ってもらい、自身たち。というか大工に各々の住居を建ててもらう予定だ。

 なにしろ、同じパルサ王国とは言え、この辺境領と公爵家では生活レベルが違う。この村の住居レベルでは満足できない可能性は十分ある。ならば、自身らで満足できる住居を建築してもらおう、という寸法だ。


 むろん、この際も報酬はきちんと支給する。自分等の住居を建てるのだから、金銭は支払わない、などとなったら間違いなく見限られるのは分かりきっている。多少痛い出費であるが、仕方ないと割り切ろう。

 そんな未来への段取りをしながら仕事をしていた俺であるが――。


「坊っちゃん。失礼しますぞ!」


 ばんっ! と勢いよく扉が開け放たれ、アスガルが中へ入ってくる。


「おい、返事を待たずに――」


 顔を上げ、注意をしようとして、アスガルが尋常ならざる顔をしていることに気づいた。何事だ?

 それによくよく考えれば、この時間は訓練の一貫として河川へ遠征していたはず。そのアスガルがなぜここに戻ってきている?


「申し訳ない。しかし、坊っちゃん。これを見てもらえますかな?」


 その言葉と共に、アスガルは手に持っていた袋を引っくり返す。……手、ちょっと待て!


「屋内に砂をぶちまけるやつがあるか!」

「これだから脳筋バカは……」


 目一杯、机の上に広がる砂。俺は反射的に怒鳴り、レグルスは呆れ返っている。しかし、アスガルの表情はまだ固い。


「よく見てください、坊っちゃん」

「……いったい、なんだと――」


 本当なら、もう少し説教をしたいところだが、まぁ、アスガルがここまで言うんだ。と思い、よく観察しようとして固まる。横で同じようにレグルスも固まっている雰囲気を感じた。それも仕方ない。

 確かにぶちまけられたのは砂だ。それは間違いない。しかし、その砂の一部。一摘まみ程度の量であるが、わずかにキラキラと、金色の輝きをみせていた。


「砂金、だと……?」


 そう、アスガルが持ち込んだもの。それは砂金。それが川で取れた。その意味に、俺とレグルスは固まっていたんだ。

 当然だ。川に砂金がある、ということ。それはつまり……。


「近くに金鉱脈。金山がある可能性が高い?」

「そう、なりますね」


 正直、頭が痛くなってきた。砂金、金鉱山があるかもしれない。というのは手放し――と言えるかは微妙だが、喜べる。

 しかも、今度移住してくる職人、技術者の中には山師。山岳地帯のエキスパートがいる。まさしく、天祐だと言える。

 ただし、問題としてその山師を紹介したのはマーネン商会。首輪がついていたとしても何らおかしくない。


「さて、どうしたものか……」


 正直、実家。アルデバラン伯爵家には伝えたくない。姉貴、アマテルなら重要度は分かるだろうが、親父どのだとなにも考えずに、そのままポッケないないしそうな怖さがある。うちの親父どのにはそんな浅慮さがあるから恐ろしい。

 かといって、マーネン商会に知られるだけ、というのも面白くない。もちろん、かの商会の力は必要だろう。ただ、独占させる義理もない。

 となると、やはり。こちらの後ろ楯になってもらいたい、という意味でも公爵家に話を通すべきか。それに、公爵家のご当主とは少なからず縁がある。


「この頃の王家。しかも、第二王子。あのアクラの醜態を見ると、本当に現実味を帯びてきたしな」


 王国の腐敗と凋落。それが現実味を帯びてきた、と言える。


 かつて、公爵閣下にご下問をいただいた時。あの時、閣下は娘、エレインの従者的な立場だった俺の為人(ひととなり)を図ろうとしたのだと思う。が、俺としても、この縁を有効的に使おうと、可能性のひとつとして王国崩壊の可能性を上げた。

 その時は、まだサルガス陛下の執務が途切れがちになる前。どちらかと言うと、戦争のしすぎで国が疲弊して革命、という可能性を示唆した。

 ……が、この頃は陛下の体調の都合で戦争頻度が減り、疲弊が少なくなる。と安堵していたのだが。


「まさか、こんなことになるとは……」


 出来れば早急に足場固めをしたい。しかし、固めるにはもろもろが足りなすぎる。

 物資、人員、文化。あらゆるものが足りない。

 物資、人員は言わずもがな。文化は言い換えれば意識。自身がこのコミュニティに所属する、という帰属意識だ。それを構成するには時間が足りない。


 時間を稼ぎたい、という思いはある。しかし、現実的には厳しいだろう。もうそろそろ、技術者たちが到着するはずだ。彼らに見つからないように、というのはまず無理だし、死蔵する、という手も取れない。正確に言うなら余裕がない。


 ……物事をうまく進めるためのコツは、悲観的に考えながら、楽観的に行動する。と、聞いた覚えがある。ならば、俺もそれに倣うべきか。

 少なくとも、マーネン商会について味方、というのは憚られるが、敵、と呼ばれるような行動はしていない。それを信用するべき、だろう。


 悩む俺の耳に、がちゃり、と扉が開く音がした。


「あの、おにーちゃん……」

「どうした、メルちゃん?」


 千客万来、だな。今度はメルが現れた。確か、この娘もアスガルと共に調練へ出てたはずだが……。

 いや、アスガルと一緒に戻ってきたのか。それより――。


「お客さん……。その、マーネン商会の人が来たよ?」

「そっかぁ……」


 どうやらタイムリミットのようだ。出迎えるしかあるまい。





 ……そう、考えていたのだが。


「毎度、領主さま?」


 目の前にはマーネン商会頭取のヴァン。そして、後ろには――。




 ――職人とその家族、にしては余りに多い人間。まさか、また奴隷を連れてきた? そちらは聞いてないんだが。


 そんな俺の思いをよそに、ヴァンはいつもの胡散臭い笑みを浮かべていた。

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