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転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件  作者: 想いの力のその先へ
第二章 16歳、領地飛躍の時

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三十話

 季節が移ろい秋を過ぎて、冬の寒い空気が肌を撫でる頃。娘、エレインがアイン坊の差配する辺境領から帰ってきた。


「お父様、ただいま戻りました」

「うむ、ごくろう」


 約半年か、この娘があちらに赴いて。

 男児、イクリルもであるが、子供の成長が著しいものだ。帰ってきたエレインの顔立ちが少し、凛々しく感じるようになった。あの領地で、なにか思うことがあったのだろう。おそらく、件のモンスター襲撃で何かあったか。

 顔は厳しく引き締めたまま、内心、少し、綻びそうになる。ただ、もう少し欲張るなら、もう少し淑やかになってほしいものだが。


「お父様……?」


 いかん、いかん。どうやら少し顔に出ていたようだ。娘が不思議そうに見つめてくる。


「なんでもない。では、報告を聞こう」

「はいっ、では、まず――」





 それから、娘の口から色々聞いた。

 モンスターの襲撃でアイン坊が負傷したこと。マーネン商会の、いや。あの女狐。マイア・ディオスクロイの暗躍。もっとも、それにはアイン坊もエレインも気付いていないようだ。もしかしたら、アイン坊は誰かしら後ろにいる、と勘づいて泳がせている可能性もあるが。


 アイン坊――。

 あれは昔から聡い、いや、そら恐ろしい子供だった。

 あれも、トラスも愚かしいものだ。アイン坊を手放すなどと。まぁ、こちらが、そして王家が誘導した結果でもあるが。


 アイン坊は見えていたぞ。王国の屋台骨が揺らいでいることを。だからこそ、あのようなそら恐ろしい提案が出来た。


 ――イオス、アルデバラン間ブロック経済構想。


 いつ、王国が終わっても良いように、自身たちだけで経済を、内政を回す準備をしておこう、などと。そのための産業基盤の整備。軍事力の配備。最悪、独立のための準備。これらをまだ幼い時。齢9歳で公爵家当主相手に説くとは。


 これはおそらく、あの女狐も気付いていまい。我らが独立を視野に動いていることは。まぁ、王国が危ないことくらいは気付いていようが。でなければ、妹姫を。ライナ嬢を助けるため動く、などすることもあるまい。

 いや、いっそあの女狐も巻き込むべきか。あれの持つ経済力。そして、マーネン商会は魅力的だ。


 ……まぁ、良い。あれの対応はイクリルに任せておる。あるいはあやつも同じ結論に至るかもしれん。手並みを拝見、といったところか。


「ふむ、わかった。下がって良いぞ」

「はい、失礼します。お父様」


 その姿に騎士が板についてきた、と少し寂しくなる。出来れば、令嬢。姫として健やかにすごしてほしいものだが。あぁ、そうだ。


「待て、エレイン」

「……? なんでしょう?」


 振り返るエレイン。凛々しく、愛らしい娘を見て、息を飲む。……いかんな、感傷に浸りすぎる。


「お前には今後のことを話しておこう」

「今後のこと?」

「あぁ、そうだ。あれには話しておらんが――」


 あれ、と言ってなんのことか察したのだろう。エレインはさらに困惑顔になる。


「イクリルのこと?」

「そうだ。あれには話しておらんが、早ければわしは再来年には隠居して、あれに家督を譲る」

「………………はぁ??」


 娘のぽかん、とした顔に、思わず笑いがこぼれそうになる。違う、そうではない。


「ちょ、ちょっと待ってよ。お父様! 再来年って言っても、イクリルはまだその頃、19歳よ?! 流石に早すぎると――」

「エレイン。当主相手にその口は――」

「……ぁ、ごめんなさい。――じゃなくて!」


 わたわた慌てているのが、とても娘らしくて嘆息したくなった。この程度で揺らされては、騎士として大成しまい。やはり、留めるべきか。


「――そ、それに、そう! お父様だって、まだお若いじゃないですかっ!」

「……ふむ」


 いまの言葉は確かに一理ある。

 わしはまだ四十半ば。第一線として働ける歳だ。だが、そもそも……。


「なにも、すべて任せるというわけではない。隠居後も、後見としてしばらくの合間は面倒をみよう」

「……あっ、そうなんですか?」


 今度はホッとしたのだろう。安堵の表情を見せる娘。

 流石に、そのような無責任な真似はせん。それに、若いからこそ、後見としてあれを当主として鍛えられるのだ。

 あれも不憫ではある。アイン坊がいなければ稀代の才として、讃えられていたであろう。もっとも、アイン坊がいたからこそ、あそこまでの才が研かれたのかしれん。


 そんな感傷に浸っている暇はない。陛下の体調で政務が滞り、王子たちバラバラに、自らが後継だと政務を行う。こんな有り様では、早晩王国は終わりを迎えるだろう。

 王都の腰巾着どもも自らの権勢拡大に腐心し、讒言もしないと来た。それでも嫡男のダレス派閥はまだマシだろう。

 問題はアクラ派閥。あれはもうダメだ。足元すら見えていない。あれが王国を継承しようものなら、即座に離れなければ巻き添えを食うだろう。没落、で済めば御の字。命が残るかすら怪しい。そのためにも――。


「ともかく、そういうことだ。覚えて――」


 こんこんこん、と扉がノックされる。いま、わしがエレインと話していることは家中の誰もが知っている。つまり、家臣であれば特別急ぐことでなければ、ここに来ることはあるまい。そして、そのような報告は上がってきていなかった。ならば、来たのは。


「開いておるぞ」

「父上、勘弁してくださいよ」


 やはり、イクリルであったか。先ほどまで女狐と会談していたはず。それが終わった、ということだ。


「イ、イクリル……」

「姉さん、まだ話し終わってなかったんだ?」

「いや、いま終わった。エレイン、もう行って良いぞ」

「は、はい……」


 エレインはそそくさと部屋を後にする。そして、イクリルへ話を促す。


「それで、あの女狐はなんと?」

「アインさんの領地ですよ。こちらも食い込ませろと」

「ほう……。それは、宣戦布告か?」

「いえ、取り分の調整をしたいと」


 ふむ、あくまで利害の調整か。


「それで、どう答えた?」

「あそこまで熱烈なラブコールするのであれば、手伝っていただこうかと」


 イクリルの差配を聞いて、くつくつ、と笑いがこみ上げてくる。


「ふ、ふふっ。なるほど、頼もしいな、イクリル」

「お褒めに預かり光栄です」

「そのまま続けよ。あれにはあの領地にどっぷり浸かってもらう」

「承知いたしました」


 そのままイクリルは部屋を出ていく。この後、担当者に指示を出しに行くのだろう。


「待て、イクリル」

「なにか、父上?」

「うむ、アマテル嬢とは連絡を取り合っておるか?」

「もちろんです。アインさんの姉上、という意味でも婚約者という意味でも重要ですから」

「ならば、問題ない。励めよ」

「はいっ!」


 ハキハキと返事をして、今度こそ部屋を出ていく。

 本当に、頼もしいものだ。あれなら大丈夫であろう。アイン坊を使う器はあるはずだ。王国から独立する時、あのアイン坊を従えるだけの力を持たなくてはならない。

 だが我が息子。イクリルならば心配ない。そう思えるほどの成長だ。


 それと、だ。今後のことを考えれば、アイン坊と直接の友誼を持つ価値がある。それを考えると――。


「あれを。エレインを側に遣る、というのも選択肢のひとつ、であるが……」


 だが、家格。というよりアイン坊が伯爵家の四男、というのが問題になる。やはり、動きを早めるべきか。

 陛下が壮健なうちに推挙する。アイン坊が家を興せるように。ちょうど伯爵家の息子で、辺境領の領主だ。


「辺境伯、か……」


 それほどの家格であればエレインと釣り合いもとれよう。ならば、早めに動く。いまなら、ただ単に親バカととられよう。その間に足場を、ブロック経済構想の足場を固める。

 イオス公爵家、アルデバラン伯爵家、女狐のディオスクロイ子爵家。そして、アイン坊の新領、辺境伯家。それだけ集えば、王国とも正面から立ち向かえる。まさしく、第二の王国となるだろう。


「アイン坊、貴様が吐いた言葉だ。貴様が責任を果たせ。本望であろう。娘を娶れ、そして……」


 あの娘を、妹姫。ライナ嬢を助けるための一助となるのだから。

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