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6話

 ルイスも参加した、騎士団による模擬試合から1ヶ月が経った。試合では、当然というべきか、ルイスが優勝した。決勝戦は白熱し、どちらが勝ってもおかしくは無い状況だったが、あと一歩のところでルイスが団長としての意地を見せ、相手から一本を勝ち取った。


「ねえ、今日は特に予定ないわよね?」


 わたしは、自室で寛ぎながら、侍女に尋ねる。いつもより早く起きたためまだ朝早く、少し眠い。


「はい。再来週にはお茶会が2件ありますが、今日は予定はないです」

「……そう。なら、丁度いいわ。一緒に出かけましょう」


 ソファから立ち上がり、わたしが出掛ける支度を始めると、侍女は驚いたように目を見張る。


「ア、アリシア様、出掛けられるのですか?」 

「何か、おかしいかしら?」

「い、いえ。そんなことは。ただ、こんな朝早く起きられた上、お出掛けになられるとは」


 普通に驚いた顔の侍女に、わたしはムッとする。


「わたしだって別に外が嫌いなわけじゃないわ。読書が好きなだけであって」


 そう言ってはいても、アリシアは最低限の用事でなければ外出しない。まして、朝早く起きてまで出掛けるとは、長年アリシアに仕えてきた侍女からすれば信じられないことだった。


「……来週は、ルイス様の誕生日だもの。プレゼントを用意しないと」

「そうでございましたか。それでは、すぐご用意いたしましょう!」


 何やら急にやる気を出した侍女のお陰で、手早く支度を終えたわたしは、街に繰り出すのだった。


◇◆◇


「街に来たものの、何をプレゼントしようかしら……」


 無難に、ネクタイといった装飾品を選ぼうと思っていたのだが、とても種類が多い。それなのに、ルイスらしい色合いや模様のものがあまりなかった。確かに、女性服では明るい色が今は流行っていて、男性もそれに合わせたようなデザインが多いから、仕方がないといえばそうなのだが。


「……あなたなら、どうする?確か、婚約者がいるのよね」

「わ、私ですか!?」


 突如話を振られた侍女が、びく、と肩を強張らせる。

 この侍女は、良家の子息とメイドとの間に生まれた娘だった。彼女は平民として生きていく道を選ばざるを得なかったものの、彼女の身を守るせめてもの手として、将来有望な騎士との婚約を結ぶことを薦められたらしい。その騎士は何でも決勝戦でルイスと戦った相手だというのだが、応援に来ていることを悟られたくない侍女は、当日帽子を目深に被っていた。


「……アリシア様のようなやりとりは私達にはありませんよ」

「――それでも、好きなのでしょう?」


 視線を逸らす侍女の目を無理矢理覗き込むと、彼女はうっすらと頬が赤く染まっていた。


「……、……」


 沈黙は肯定を表しているとわたしは受け取った。


「とにかく!私の話は良いのです。アリシア様、今はルイス様への贈り物です!」


 まだまだ話を聞いてみたかったものの、侍女はこう見えて意思が堅いので、わたしは追及をやめた。


「はぁい」


 それからも、わたしたちは街を探索した。そして、街の外れにまで来て、立ち止まった。


「流石に奥まで行き過ぎたかしら?」

「そうですね。引き返しましょうか」


 そう言って、もと来た道を引き返そうとしたその時。


「――おや、珍しい。客かい?」


 わたしの目の前にあった店の扉が開き、老齢の女性が姿を現した。


「えっと……」


 突然のことに狼狽えていると、店主と思われるその女性は、眉間に皺を寄せた。


「客じゃないのかい?なら、さっさと戻りな。この辺はお嬢サマが来るような場所じゃないんだ」


 冷たく突き放したような言い方に、侍女は反論しようとする。わたしはそれを止めると、一歩前に出た。


 今日は、一応街に馴染むような服装にしてきたのに見破られるとは。


「その、こちらはどういったお店なのですか?わたしは、男性への贈り物を探しているのですが」  

「なら、尚更アンタが来るような場所じゃないね。さっさと帰り、な――」


 そこで、初めて店主の表情が崩れた。はっと目を見開き、驚いたように口が開きかけている。

 だが、すぐにその顔に険しい皺を刻んだ。


「アンタ、寄っていきな。あぁ、侍女は外で待ってろ」


 急に態度を変えた店主に、複雑な気持ちと疑念を抱いたが、わたしはそれらを抑えた。


「何か事情がお有りなのですね?……あなたはここで待っていて」

「で、ですが」


 戸惑っている侍女を視線で制し、わたしは店へと足を踏み入れた。



 薄暗い店内で、わたしは老店主と向き合っていた。狭い店内は昼間であることが信じられないほどに、暗がりで満ちていた。


「……本題に入るが、その指輪はどこで手に入れた?」


 脈絡もなくそんなことを問われ、わたしは驚きの声を漏らす。


「えっ!?」


 ちなみに、わたしは今もあの夜受け取った不思議な指輪をつけている。何故、そんな話になるのかさっぱりわからないが、店主の表情がとても真剣なものだったため、わたしは一から説明した。

 1ヶ月以上前のとある夜、魔法使いを名乗る女性が現れて、指輪を渡されたこと。そして、関係あるのかはわからないが、不思議な数字が見えるようになったことも伝えた。


 そして、わたしが話し終えると、店主は難しい顔をしたまま、告げた。


「――その魔法使いとやらは、アタシの娘だよ。で、その指輪はアタシが作ったものだ」

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