6話(2)
「えっと……どういうことですか?」
わたしは状況を飲み込めず、問い返した。
「そのままだ。アタシは、この店で色々な能力を持ったアクセサリーを販売している。そのルビーの指輪も、その一つだ。……もっとも、アクセサリーではなく宝石そのものに力があるのだが……それはともかくとして、アタシには馬鹿娘が居てね。誰に似たんだか、魔法や魔女が好きなんだ」
そこで一旦話を区切ると、自分の前にだけ置いてあるカップを持ち、優雅に中身を飲む。中身は水のようだが。
「それでな、困ったことに、アイツには魔法のような不思議な力が使えた。簡単な風魔法や水魔法しか使えないらしいが。だが、そのせいで魔女だとか魔法使いだとか言って、勝手に商品を売り捌くんだ。しかも、金を取らずに」
心底辟易したように深くため息をつく店主を見て、わたしは悪いことをした気分になる。
「大事な商品でしたのに、申し訳ありません」
お辞儀すると、店主は初めて焦ったような、驚いたような顔をした。
「……生まれが良い客でここまで態度がいいのは初めてだ」
「それは……」
何と言えばいいのか、反応に困る。
「で、あんたはまだ何か悩んでいるようだが?」
「そ、その……数字が何を表しているのかわからなくて……婚約者の方からも、何と思われているのか不安で……」
ルイス様の顔を思い出すと、胸が苦しくなる。それも、苦しいだけではなく、どこか甘やかで、
胸を焦がす、そんな感覚。
「……ふうん」
複雑な心境の中、店主は何やら考えているようだ。と、他人事のように思っていたが、しなければいけないことを思い出す。
「その、この指輪は返した方が良いですわね。お金も支払いますわ」
わたしがそう提案すると、意外なことに、店主は断った。
「いや、金はいらん。返す必要もないさ」
「へ?どうして……?」
意味がわからず聞き返すと、店主は続けた。もっとも、その言葉の意味も全く理解できないものだったが。
「いや、やっぱり、アイツも客を見る目だけはあるようだからね」
「?」
「ま、いいさ。用事が済んだなら、お行き。侍女が待っているよ」
「あっ、そうだわ」
店主のその言葉に、外でまたせてしまっている侍女を思い出し、わたしは慌てて椅子から立ち上がる。
「あっ、でも、最後に一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
やはり諦め切れず、一度足を止める。すると、店主は怪訝そうに首を傾ける。
「何だい?」
「……その、不思議な数字が表しているのは何なのですか?どうしても知りたくて」
思い切ってそう言うと、店主はスッと目を細めた。
「聞いて、後悔しないかい?」
「は、はい!」
そう言われると躊躇う気持ちが芽生えたものの、自分で決めたことだ。
だが、店主のケラケラとした笑い声に、試されていたのだと悟った。
「ま、いいさ。ちょいと耳を貸しな」
「はい」
大人しく従うと、店主か耳元でボソッと囁いた。
「愛の深さ、だよ」
その言葉に、わたしは目を丸くする。
「え……!?」
「話は終わりだ。婚約者と上手くやることだな」
捨て台詞のようにそう言うと、店主は店の扉を勢いよく閉めてしまった。
「アリシア様?どうかなさいました?」
何も知らない、侍女が尋ねる。だが、それに答えられるほどの余裕は、わたしにはなかった。
「あ、いえ……何でもないわ……戻りましょう」
そうして、わたしたちはもと来た道を引き返し、通りがかった衣服店にて、結局ネクタイを買うのだった。




