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 「ナンバー35J、です」「A、A、B、C、C、C、B」「不合格」「ナンバー35K、です」「B、A、A、C、C、C、C」「不合格」「ナンバー35L、です」「DEAD」「次」「ナンバー35M、です」「DEAD」「次」「ナンバー35N、です」「B、B、A、C・・・」

 結果を読み上げる白衣の男。それに答える男も、聞き入る男や少数の女も全て白衣を着ていた。彼らは円卓を囲んで分厚いファイルを幾冊もお互いの間に胸壁のように並べ、報告の声以外紙を繰る音だけがしていた。やがて最後の結果が読み上げられると、今まで黙って聞いていた初老の男が立ち上がる。

「シリーズ35は全てNG。開発は失敗と認定する。以上」

 バタンバタンとファイルを閉じる重い音。男たちは一斉に立ち上がると台車にファイルを重ね始める。

「ちょっといいか?」

 男が一人、歳の頃は40半ば、台車にファイルを乗せていた一人に声を掛ける。声を掛けられた方は鼈甲縁の眼鏡を掛けた30代後半、2人とも研究者然としているが、40男の方は左耳から頬に掛けて紫色に変色した火傷の跡が目立ち、その目は温かみの欠片も無い濃灰色だった。

「なんでしょう?」

 30代がファイルを積む手を止め振り返ると、40男は何も言わずに顎を振って廊下へ誘う。

「どうしてこうもポテンシャルが低いんだ?」

 廊下に出るなり前置き無しで40代が言うと、

「もう、クローンで狙うのは限界だと思いますよ。姿形は合っている。しかし第4から第6要素がこうも低いのは、おっしゃる通りポテンシャルがこれ以上期待出来ないからです。何故低いのかは今後の研究次第で明らかになるでしょう・・・それはそうと、経済企画局の『バイオ研』で国大の秀才を動員してなにやらやっているそうですが、あちらとの連携は考えているのですか?」

「それはない。あちらの研究は我々軍の研究とリンクすべきでない、との上の考えだ。今は諦めろ」

「残念ですね、全くお役所と言うタテワリは」

「おい、滅多な事を言うもんじゃないぞ!」

 声を荒げた40代に30代の男は悪びれもせず頭をペコリと下げる。

「済みません。ところで、次の36でやって見たい事があるのですが・・・」

 40代は白衣のポケットから使い古されたパイプを取り出し、咥える。

「八方塞りだからね、何でも歓迎する。後で提案書を出したまえ」

「ありがとうございます」

 煙草を詰めていない飴色に光る海綿製のパイプを弄びながら、40代はじろりと30代を見る。

「おい、何を考えている?」

「出所は余りよろしくは無いのですがね。随分昔の話ですがナチスがやっていた双生児の実験で、興味深いデータがありまして」

「ほう、メンゲレたちか?」

「そうです。障害と双子のシンクロとの因果関係、とでもいうのか・・・」

「ふうん。報告書を楽しみにしているよ」


 暗闇の中、静まり返った中に水が流れる音が響いている。せせらぎの音と野鳥の声、そして微かに風の音が重なる。それは聞く者に深山幽谷しんざんゆうこくを想わせた。部屋の中央に木の背付椅子が一脚、そこに7、8歳の少女が座っている。

「36G、もう一度行く。用意はいいか」

 声が響く。マイクを通した声、中年の男の声だ。

「用意はいいです、お願いします」

「では、用意」

 暫く間が空き、深山の音が響く。やがて、

「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・スタート」

 特に変化は、ない。少女は椅子に座ったまま身動きしない。目は開けたまま、闇の奥を見つめるかのよう。その1分後。

「終了、楽にせよ」

 声が響くと、無意識に呼吸を止めていた少女は大きな溜息を付き、息を吸い込む。額の汗が珠のようにいくつも浮び、それが流れて目に入る。が、目は瞬きもせず、また、目に沁みた様子も見せない。

「36G、もう一度だ、用意はいいか」

「はい、お願いします」

「用意」

 30分後、部屋の明りが点く。この部屋は分厚い扉と防音壁で囲われ、窓の無い録音室のような3メートル四方の部屋。天井には3列に蛍光灯が並び眩しいほどの明るさだった。中央の椅子に少女は未だ座ったままだったが、頭を垂れ肩で息をしている。両手はトレーニングスーツのズボンを硬く握り締め、身体が小刻みに震えている。

 開錠の重い音と共にゴロゴロと音を立て、扉が横に開く。白衣の男たちが4人、素早く部屋に入る。更にその後ろから、陸軍の濃紺の制服を着た男と鼈甲縁の眼鏡を掛けた白衣の男が並んで入って来た。

「36G」

 声を掛けたのは後から入って来た白衣の男。その声は先程来マイクを通して流れていた声だ。

「28回中19回。68%だ。まだまだ安定度が足りない。85%までは上げないと。いいね?」

 早口の男の声に少女はゆっくりと青白い顔を上げる。

「分かりました、管理官」

 白衣の男は制服の男に、

「36Gは中々です。プラン・オーディンでは一番の成績でして」

 すると制服の男は、36Gと呼ばれる少女の方を全く見ないまま、

「よろしい。実験結果が安定次第、この方針で次回LOTを進めろ。進捗報告は速やかに上げるように」

 白衣の男が敬礼する。制服の男が早足に退室すると、少女は喉を詰まらせるような声を上げ、床に吐瀉としゃした。そんな少女を見ていた白衣の男は、感情の乏しい声で、

「36G。この後は予定通り身体訓練だ。15分間の休憩を許す。15分後、トレーニングルームで」

 そして白衣も去って行く。少女は未だ床に跪いたまま、その後姿に呟くように答えた。

「はい・・・管理官」



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