新しい物語へ
優依が、怒ってくれるのが好きだった。
誰かには、ハマるけど…
誰かには、ハマらない…
俺は、ずっとそんな作品を書いていた。
不妊で苦しんでいた時に、出会ったのは、鼓動の速さでわかる事を書いた人だった。
その人の小説を読んだ時に、俺の悩みが小さくなった。
俺達、夫婦は、スタートラインにも立てなかった。
不妊は、治療してる人の方が偉く大変だと私と梨華は思っていた。
嫌、家族や友人にそう思わされていたのかも知れない……。
しかし、違うのではないかと最近思うのだ。
私や梨華のように、スタートラインに立てない人もいるのだ。
優依も、その一人だ。
「しん、また小説書いてみたら?」
「そんな時間ないよ」
「何年かかってもいいから、小説書いてみなよ。僕が、手伝うから…。」
「優依」
「何?」
「俺の子供が欲しいって、まだ思う?」
「当たり前だよ。しんの子供欲しいよ。僕は、しんが大好きだもん。」
「それでも、出来ないのをわかってどう思った?」
「嫌だよ!それは、嫌だよ。でも、それでもしんの子供が欲しいよ。僕も、スタートラインにも、立てないけどね。」
「スタートラインに立てなくたっていいよ。俺は、優依といるのが幸せだよ。二人で生きていくだけで充分だよ。」
「しん、嬉しいよ。」
優依が、抱き締めてくれる。
「スタートラインに立たなくてもいいよ。俺は、もう子供が出来ない事、いない事に苦しめられたくないんだ。」
「しんは、充分苦しんだんだよ。梨華さんも…。僕は、二人が好きだよ。出会った時から、好きだよ。梨華さんの事も…。」
「ありがとう、優依」
私も、優依を抱き締める。
「しん、眠たくなってきちゃったよ。眠っていい?」
「いいよ、どうぞ」
「じゃあ、おやすみ」
私は、優依の隣でパソコンに向き合った。
【禁断の愛】は、かなり難しかった。
それを否定する作品を書いたのに…。
難しい。
優依を見つめながら、書いては消して、書いては消して、思い付かない。
それでも、書いてみたいのはしんとして求められていると信じたいからかもしれない。
こんな綺麗な優依を傷付けたりは俺には出来ないよ。
それでも、もし優依が女で、私が孝輔だったなら…。
優依を傷付けただろう…。
もしも、優依が私を傷付けたら?
同じ傷をつけただろう。
嫌、それ以上の傷をつけただろう。
優依は、従兄弟と不倫していたと言っていた。
その話をまだ聞いていなかった。
優依の従兄弟も、優依を縛り付けたのだろうか?
【愛してる】って言葉で、優依も繋ぎ止められていたのだろうか?
難しい。
禁断の愛を描く、自分の姿が浮かばない。
それを美しい愛の物語に、私は出来るのだろうか?
頭を掻いた。
無理だ…。
梨華が、苦しんで泣いていたのを知ってる。
自分が、不倫の最中に出来た子供である事に悩んでいた。
それを、見ていたから、私は書けるかわからない。
どうしても、悪のような気がする。
あー、難しい。
どうして、不倫をあんなに美しい愛に描けるのだろうか?
「しん、また悩んでるの?」
「起こしちゃったね」
「ううん」
「禁断の愛って、不倫だろ?基本的に、そうなるよな!不倫か、恋人がいるか、略奪か…。」
「それは、駄目だよ」
優依にまた怒られてしまう。
「年の差なら、いけるかな?」
「だから、駄目だって」
「不倫は苦手なんだよ」
「でも、ここに要望あるよ。相手がいる人でお願いします。」
「恋人か?既婚者か?」
「梨華さんが、苦しんだから書けないんでしょ?あのノートに書いてたから…。無理しなくていいんじゃない?」
「頑張ってみたいんだ。新しい自分を見たいから」
「しん、無理しないで」
優依は、そう言って俺のパソコンにある手を握りしめてくれる。
「僕の話をするよ!しん」
「優依」
「時間は、まだあるじゃない!話すから、聞いてくれる?」
「わかった」
次回作の為に、俺は優依に話を聞く事にした。
そして、三日月さんにも話を聞きに行く約束をした。
新しい作品の為に、自分の苦しみと向き合ってみよう。
そう思いながら、しんは優依の話を聞くのだった。
ドラマや映画で放送している感じを見ていると言う設定をした、不思議な短編作品を集めた物語を最後まで読んでいただきありがとうございます。
最初は、【蛹は、蝶の夢を見る】だけを書くつもりだったのですか…。
こちらを考えている時に、三日月宝珠が登場する【不思議な桜が繋いだ縁【仮】】を思いつきました。
そこで、短編を集めた作品にしてみようと思いました。
どうしても、三日月宝珠としんという人物を繋げたいと思いました。
続きを読みたいと思っていただけたら、また、しんの作品を書いてみようかな?とは思います。
【温度】は、もう少し長編にしたかったかな?とか考えたりもしましたが、あえて短く終わらせました。
不妊とBLと言う作品でありますので、好き嫌いが別れる作品だったと思います。
それでも、最後まで、読んでいただきありがとうございました。




