【温度】⑬
「ごめん」
一輝は、花香から離れた。
「謝らないで」
花香は、笑った。
「はぁ、はぁ。お待たせしました」
「誰?」
「スーパーの店員さん」
「早すぎだから、坂瀬」
「誰?」
「ここで、働いてる三崎彪伍です。」
「私、坂瀬泉です。」
「俺は、中目一輝」
「私は、三ツ村花香」
「よろしくお願いします」
眩しいぐらいキラキラした顔で泉は笑って花香の手を握りしめた。
「あのー。時間ありますか?」
「はい」
「じゃあ、四人でカラオケ行きましょう」
そう言って、泉は何故か花香の手を握りしめて歩きだす。
泉は、恋愛経験が全くない。
ただ、花香の綺麗な顔に興味を持ったのだ。
それが、恋かどうかは知らない。
ただ、また花香に再会したら絶対に話しかけてカラオケに行くと決めていた。
花香は、何故泉に手を繋がれてるかわからなかった。
ただ、その温もりは同じで、泉の悪意も欲もない態度が、心地よくて…。
胸が暖かくなるのを感じていた。
彪伍は、一輝と並んで歩く。
一輝は、ポケットにあるスマホと盗聴器を気にしながら歩いた。
「何歳?」
「27だけど」
「結婚してんだよね?それ」
「うん」
「不倫?」
「違う」
「へー」
こんな話方をしてるのに、彪伍からは何の悪意も感じない。
ただ、話してるだけなのを感じる。
「危ないよ」
石につまづきそうになった、一輝の腕を彪伍が掴んだ。
同じ温度と欲さえない人。
彪伍の優しさが痛いくらいに胸に広がる。
「ありがとう」
「別に」
彪伍は、どうして一輝に興味を持ったのかよくわからなかった。
恋愛経験がない彪伍にとって、これは何かわからない感情だった。
ただ、不思議と一輝から流れる空気感や纏ってる温度に興味をもったのだ。
坂瀬が、カラオケに行くと言ったからついてきた!
まさか、一輝がいるとは思わなくて少し嬉しかった。
カラオケに入り、一時間経った四人ー
ビールを飲んでる四人
「ってか、何これ?馬鹿にしてるっしょ!花ちゃん、綺麗だから渡したくないだけなんだって!マジ、有り得ないから!私が、ぶん殴ってやるから」
泉は、酔っぱらっていた。
花香は、泉の優しさに胸の中に温もりが広がっていくのを感じた。
「そもそもさ!これに、そんな酷いこと言ってるの間違ってるから」
彪伍も酔っていた、一輝が酔って盗聴器の中身を聞かせたのだ。
「いっちゃんは、人形じゃないよ!人だよ!なのに、こんなん酷いって」
二十歳だと言っていた、彪伍と泉は、一輝や花香よりも素直に言葉を紡いだ。
「最低だよ!不幸になれ」
「そうだ、そうだ」
悪意も欲もなく、ただ、二人を純粋に優しく包み込む。
それが、一輝も心地よかった。
「ってかさ、何で?抱くわけ!愛ないのに何で抱くわけ!キモくない?捌け口じゃないつーの」
「わかる、それ、めっちゃわかる。そもそも、何がしたいんだよな!子供出来なかったら、何してもいいのかよ!マジで、許せないから」
そんな風に、二人は怒っていた。
暫くして、彪伍は一輝の泉は花香の肩に頭を置いて眠ってしまった。
「花香、何かスッキリしたよ。俺」
「わかるよ、一輝」
「こんな風に、素直に怒ってくれる人。大人になって、初めて会ったわ」
「確かに、そうだよね。若さだよね。でも、ちゃんとしてる。私と一輝の事だけをちゃんと考えてくれてる。」
花香は、泉の顔を見ながら柔らかく笑った。
「そんな顔して笑うんだな!」
「どんな顔?」
「いい顔してた」
「ほんと?」
一輝もまた彪伍を見ながら柔らかく笑った。
「そっちも」
「俺?」
「うん、いい顔だよ」
愛とか恋とか情とか関係ない。
ただ、ここを流れる空気や温度は、花香と一輝にとって【幸せ】そのものに感じる。
自分達を思って、怒って泣いてくれた事が、堪らなく嬉しかった。
「一輝、終わらせたい。もう、嫌」
「そうだな!朝一番に、離婚届取りに行こうか?」
「うん。もう、慰謝料いらない」
「いいの?」
「こんな思いするなら、いらない」
「そうだよね」
心が磨り減っていた事を、泉と彪伍の言葉で二人は気づいてしまった。
繰り返される情事、慰謝料を手にした先に、二人の心がパリンと割れるのがわかった。
この繰り返しの日々は、何も生まないのをわかった。
一輝は、彪伍の頭に頭を置いて目を瞑った。
花香も、泉の頭に頭を置いて目を瞑った。




