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身体の中からごっそりと魔力が抜けていく。

そして抜けた魔力を補うように熱いものが身体中を駆け巡った。


「姉上!」

悲鳴のようなフリードリヒの声が遠くで響く。

(なに……これ……眩しい……)

光に包まれているのだろうか。


何が起きたのか分からない。

ただただ熱くて眩しい。


それは一瞬の出来事なのか、長い時間だったのか。

頭の中がぐるりと回るような感覚を覚えた。

(あ……倒れる……)

ぐらりと揺れたカタリーナの身体は、けれど何か弾力のあるものに受け止められた。



「ほう、それが本当の姿か」

聞き慣れない声がすぐ側で聞こえた。


うっすらと開けた目の前に現れた金色の瞳が、カタリーナと視線が合うとす、と細められた。


それは金色の髪の男だった。

貴族か……いや王族とも思えるような、高貴な雰囲気と美しさをまとった男性。

そして何故か、自分はその腕に抱き抱えられているのだという事が分かってきた。

「え……あ……の……?」

何が起きたのか分からず呆然とするカタリーナよりも先に、同じく呆気にとられていたフリードリヒが我に返った。


「さっきの……魔狼……?」

「え……?」

この男性が魔狼だというのだろうか。

カタリーナは周囲を見回したが、魔狼はその姿を消していた。


「ああ、この姿では分からぬか」

男はそっとカタリーナを地面に下ろした。

次の瞬間、男の身体は光に包まれ———光が消えた中から現れたのは金色の毛を持つ大きな狼だった。


普通の狼や魔狼よりもはるかに大きな身体。

その毛並みは艶やかで、発光しているようにも見える。

金色の瞳は鋭い光を宿していた。

高貴な雰囲気と、魔力とは異なる、もっと強い強大な力を感じる。

この金色の、目の前の狼をカタリーナは知っている。

それは幼い頃から聞かされていた、アルムスター家に伝わる伝説の———

「聖狼リーコス……」

姉弟の声が重なった。


「名を呼ばれるのは久しぶりだな」

金色の瞳が細められた。



「……え……本物……?」

「どうして……」

どうして伝説の聖狼が目の前にいるのだろう。

あの、カタリーナに懐きパンをねだっていた魔狼は……この、目の前の聖狼だというのか。


「目覚めたら魔狼の仔の姿になっていたのだ」

ふ、とリーコスは息をついた。

「聖力は失われているし、戻り方も分からぬ。困って森や山をうろついていたら美味そうな魔力の気配がしたのだ」

リーコスはカタリーナを見た。


「……あのパン……?」

「パンというよりお前の魔力だな。お前たちはアルムスターの末裔だな」

はっとして、フリードリヒは魔法を解き——カタリーナは先刻の衝撃で解けていたようだ——本来の姿に戻った。


「この地を治めるアルムスター侯爵の嫡男、フリードリヒと申します」

「……同じく娘のカタリーナです」

膝をついて聖狼に頭を下げたフリードリヒに続いてカタリーナも膝を折った。

アルムスター家は建国当時からこの地を治めていた。

その当時の当主は聖狼から加護と共に魔獣を倒す力と技を授けられたと幼い頃から父親に聞かされていたのだ。


「カタリーナの持っていたパンからも同じ魔法の匂いがした。それを食べると力が少し戻ったのだ」

アルムスター家の先祖は代々聖狼の加護を受けていた。

そのためアルムスターの血と魔力は聖狼と相性が良い。

カタリーナの魔力を使って作られた薬草が入ったパンだから、聖狼に効果があったのだろう。


「少しずつ力が戻ってきたというのにお前がもう来れぬなどいうから。乱暴だが直接血と魔力をもらったのだ」

「……さっき噛まれた……」

カタリーナは指先を見た。

確かに牙で噛まれたはずだが、傷ひとつ残っていなかった。


「……どうして魔狼の姿になったのか、原因は分からないのですか」

フリードリヒが尋ねた。

「さあ。長く眠り過ぎたせいかもしれぬが。そういえば眠る前はひどく身体が重かったな」

「———最近領地で魔獣の数が増えつつあったのですが……それと関係は」

「あるかもしれぬな」


カタリーナとフリードリヒは顔を見合わせた。

目の前の黄金色の狼は、確かに聖狼なのであろう。

その存在感は魔物や人間と全く異なる。

そしてその身体から滲み出る力もまた、魔力とは異なっていた。

だが……地上で最も強いとされる聖狼が力を失っていたとは、どういう事だろうか。


「そうだ、礼をせねばな」

ふいにリーコスの身体が光に包まれ———人間の姿となった。

自分の指を咥えると牙をたてる。

「ほら舐めろ」

「え?」

血に滲んだ指先をカタリーナの口の中へと差し込む。

唐突な出来事に避ける間もなくそれを含んでしまい———カタリーナの身体を再び熱いものが駆け巡った。


「っ!」

「姉上!」

「熱いのは一瞬だ、すぐに治まる」

「……何をしたのですか」

ふらついたカタリーナの身体を支えてフリードリヒが睨むようにリーコスを見た。


「加護を与えたのだ」

「加護?」

「互いの血と力を交わす事で加護を与えられる。カタリーナはさっきもらったからな」

そう言って、リーコスは自身の手を握りしめた。


「———ふむ。これは面白いな」

「え?」

「お前に加護を与えたことで、私の力も完全に戻ったようだ」

二人を見てリーコスはその金の瞳を細めた。

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