番外編 三人娘の夏休み
学校も夏休みへと入り、ウェディングは早速同じく中等部に通うクリーンを寮の自室へ呼び出した。
彼女の自室には、同じ部屋に住む高等部の先輩ジャズもいる。
普段なら電気仕掛け仔羊ニコもいるのだが、ニコは今クリーンの犬たち小雪と小鉄と共にミックスの家に泊まっている。
なんでも現在外国にいるミックスの兄や姉が、ニコとリトルたちを見てみたいと言って一日だけ預かったそうだ。
バイオニクス共和国の技術なら、たとえ相手が宇宙にいようとも映像通信は可能だ。
きっと今頃ミックスは、可愛らしい動物たちの姿を兄や姉に見せているだろう。
「ジャズ姉さん、さっさと宿題を終わらせちゃってくださいよ~」
ジャズもウェディングやクリーンと同日から夏休みに入っていた。
ウェディングは夏休みをより良く楽しむために、初日ですべての宿題を終わらせてしまう。
彼女に合わせて宿題を終わらせてしまおうと思ったジャズだったが。
とてもじゃないがウェディングのように、ほんの数時間で終わらせることはできなかった。
「もうクリーンが来ちゃいますよ~。急いでください」
「あんたみたいにできるかッ!」
ジャズは思う。
このウェディングは普段からのほほんとしていて、一見頭の回転が遅そうに見えるのだが。
実はバイオニクス共和国の中でもトップクラスの学力の持ち主だった。
ウェディングは授業を真面目に受けるくらいで、部屋でろくに勉強などしないのだが。
何故かテストでは高得点を取り、共和国内でも彼女より成績が良い生徒は数えるくらいしかいない。
さすがはハザードクラス。
身体能力だけではなく、どうやら知力のほうもかなり高いようだ。
「くそッ! あたしだって帝国ではかなり優秀なほうなのにッ!」
ジャズは悔しそうに言っているが、その実彼女は共和国でも上位の成績を残している。
ただ、ウェディングが予習復習なしで良い成績を取っているというだけだ。
ジャズが物凄い形相で机に向かっていると、コンコンと扉からノックの音が鳴った。
ウェディングが扉を開けると、そこには約束通りクリーンが現れる。
「姉さん~クリーンが来ちゃいましたよ」
「はいはい、もうすぐ終わるから待ってなさい。……というか、もしかしてクリーンももう宿題は終わらせたの?」
ジャズが訊ねると彼女はコクッと頷いた。
どうやらクリーンもウェディングと同じように、かなり優秀なようだ。
「まあ、クリーンはなんとなくわかるけど……」
「ちょっと姉さんッ! それじゃ私が頭良いのがおかしいみたいじゃないですかッ!」
「ごめんごめん。そんな意味でいったんじゃないんだけどさぁ」
ジャズの発言にウェディングが頬を膨らませてプンスカ怒っていると――。
「ちなみに兄の成績は、共和国すべての学校でナンバーワンです」
クリーンがボソッと呟くようにいった。
ジャズは納得いかないといった表情で、その顔を強張らせている。
「兄ってあのブレイクよね? たしかあたしと同じクラスらしいけど、勉強をしているどころか学校に来ているところすら見たことないわ……」
ハザードクラス恐るべし。
ジャズは自分はやはり凡人なのだと肩を落とす。
その後、宿題を終わらせることを諦めたジャズは、部屋でゲームをやっている二人に声をかけた。
「ちょっと二人とも聞こえてるの?」
二人が遊んでいるのは、あの電化製品から軍事兵器まで販売しているエレクトロハーモニー社から出た新作のVRゲームだ。
ウェディングとクリーンはベットに横になりながら、ゲーム用に装着するゴーグルをかけている。
どうも二人とも仮想世界へダイブしているせいか、ジャズの言葉は届いていなさそうだ。
ジャズはしょうがないなとイスから立ち上がり、二人を起こそうと近寄る。
「うおぉぉぉッ! いけぇぇぇッ! とりゃぁぁぁッ!」
ウェディングは横になりながら叫んでいる。
実際は仮想世界で叫んでいるはずなので、本体というか彼女が叫んでいるのは何か不自然だった。
「格闘系のVRなのかな?」
ジャズは次にクリーンのほうを見る。
だがクリーンはウェディングとは違い、静かに横になっていてピクリとも動かない。
VRゲームについて詳しく知っているわけではないジャズだったが、やはり叫んでいるウェディングがおかしいのだなと思っていた。
「うん? いや、ま、まさか……」
だが、ジャズはクリーンを見てあることに気が付いた。
心地よさそうな呼吸とその閉じた口からは寝息が聞こえているのだ。
「ひょっとしてVRゲーム中に寝てるのッ!?」
ジャズのいう通りクリーンは熟睡していた。
スヤスヤとまるで母の胸に抱かれた赤子のように眠っている。
だが、たしかウェディングとクリーンは同じ仮想世界でチームプレイをしているはずなのだが。
これは一体どういうことなのか。
どんなゲームをやっているのか。
ジャズは、横になっている二人の姿からは想像もできなかった。
「見なかったことにしよう……。まあ、あたしが知らないだけでそういうものかもしれないし……」
ジャズはその事実を無視し、再び夏休みの宿題に取りかかるのであった。
――そして次の日。
ウェディングはまたクリーンを部屋に呼び出した。
ジャズはまたゲームでもやるのかと思っていると――。
「今日は泳ぎに行きましょう」
ウェディングが夏らしいことがしたいと言ってプールへ行くことに決まる。
三人が住む寮にプールはあるのだが、いつも人が多く自由に泳げないため話し合った結果、外へ行くことに。
今日は昨日のうちに宿題を終わらせたので、もちろんジャズも参加している。
「どっか良いとこなんてあるの? 今シーズン中だし、どこのプールも混んでそうだけど」
「ダイジョブダイジョブ。実はハザードクラスには特権があって、なんとプライベートプールを使用できるんです!」
その後、入ったこともない高級ホテルへと入り、ウェディングに連れられるままエレベーターに乗り、そのプライベートプールへと到着した。
ジャズは学校指定の水着に着替えながら、ハザードクラス恐るべしと昨日と同じことを思う。
ウェディングやクリーンもジャズと同じく学校指定水着だった。
「なんだ二人とも同じ水着だっただね。って……うんッ!?」
だが、ジャズはクリーンの体を見て驚愕する。
それはとても中学生とは思えない豊満な体つきをしていたからだ。
豊かな胸、ほどよく膨らんだヒップ。
ジャズのほうが一つ上だったが、スタイルでは完全にクリーンのほうが大人だった。
ウェディングもクリーンほどではないが、ジャズよりも女性らしい体型をしている。
「どうかなされましたか?」
「いや、な、なんでもないよ……」
ジャズは知力でもスタイルでも負けたかと思うと、ガクっと肩を落としていた。
そんな彼女に気が付いたウェディングは、さっとあるものをバックから取り出す。
「こ、これは……」
顔を引きつらせるジャズ。
なんとそれは豊胸用のパッドだった。
「私がいつも使ってるやつですよ。ダイジョブ、男には絶対にバレませんから」
「使用済みをあたしに渡すなッ!」
それから三人は気を取り直してプールに入ることに。
そこには、ヤシの実のオブジェや設置されている冷蔵庫にはトロピカルドリンクなどもあり、とてもゴージャスな造りのプールだった。
ジャズは屋外用のソファーへと寝そべりながら、取り出したトロピカルドリンクを楽しんでいる。
プールではウェディングが、誰もいないのもあって気を遣わずに物凄い速度で泳いでいた。
その端では、クリーンがまるで死体のようにプカプカと漂っている。
水面に顔をつけているのもあって、彼女のいるところからはブクブクと吐いた息が泡になっていた。
「なんだか、昨日見た光景と同じね……」
大声ではしゃぐウェディング。
静かに水面を漂うクリーン。
この二人はきっと出会った頃からこうなのだと思うと、ジャズはクスッと笑ってしまっていた。
「ああ~姉さんったら、なにがおかしいんですか?」
「なんでもないわ。それよりも二人ともドリンク飲んだら? とっても美味しいわよ」
それからウェディングは漂っているクリーンを連れてプールからあがると、二人分のドリンクを手に持つ。
一つは自分へ、もう一つはクリーンへと渡した。
「よ~し、では、景気づけに乾杯でもしましょうッ!」
「景気って……いったいなにが景気づけなのよ……」
「まあまあジャズさん。ウェディングもただ気分的にそう言いたかっただけですよ」
そして三人はグラスを重ね合い、プールでの一夏を楽しむのであった。
「姉さん、クリーン。この後は闘技場で遊びましょう」
「いいですねウェディング。いつも通り実戦形式でやりあいましょう。ちょっとミックスさんのところへ連絡してリトルたちを回収します。そうすればあなたを相手にしても後れを取ることはない」
「ちょっと待てよ!? あたしがあんたらと本気でやりあって勝てるわけないじゃないッ!」
叫ぶジャズへ二人は言う。
「ダイジョブダイジョブ。姉さんは強いですから」
「ええ、ジャズさんはあの兄を前にしても一歩も引かなかったお方。ぜひ一度手合わせ願いたいと思っていました」
「あんたらマジでやる気ッ!?」
その後、ジャズはハザードクラスと妖犬――妖刀二刀流とのバトルロイヤルによって、心身ともにズタボロにされたのであった。
彼女は闘技場の帰り道で、疲れ切った体を引きづりながら夕日に向かって叫ぶ。
「こんなのあたしの役じゃないッ! あいつの役目よッ!」
「楽しかった!」
「読んでいて続きが気になる!」
「これからどうなるのッ!?」
と思っていただけたら――。
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