#727
ジャズがポツリと呟くと、彼女の目の前にいたメイカは小首を傾げる。
そして、狼狽えているジャズの頭を撫で始めた。
それは、まるで母親が泣いた子供を宥めるのを真似をするような仕草だった。
「メイカは優しいな」
「あ~あ~」
そんなメイカを褒めるラヴヘイトに彼女は無邪気に微笑む。
まだ唖然としているジャズの背中へ、ブレイクが声をかける。
「そうだ。オレのこの両目を同じで、この女は精神を持っていかれたんだろうな」
ブレイクやメイカのような神具の加護、啓示を与えられた者らのことを、世界では奇跡人、呪いの儘と呼んでいる。
その加護や啓示を持つ者は持ち歩くには不自然な道具――神具を使って、常人とは思えない身体能力と科学では説明できない不思議な力を操った。
だが、イード·レイヴェンスクロフトが行った儀式によって、大災害やエレメント·ガーディアンの出現以外にも、神具を扱った者たちに異常が起きた。
ジャズが最初にそのことを知ったのは、奇跡人のプロコラットからだった。
プロコラットは内臓のほとんど失い。
現在はメディスンらに保護され、恋人のユダーティに看てもらっている寝たきりの状態だ。
そして、助けに現れたクリーンがそうだったように――。
兄であるブレイクもまた奇跡人として、神具の使用者としてその代償を両目の視力を失うという形で払っていた。
呪いの儘であったメイカも当然その代償を払ったのだろう。
彼女はブレイクが先ほど言ったように精神を失い、幼児退行してしまっている。
その姿は、以前にジャズに何かと喰って掛かってきたプライドの高い彼女の姿からは、とても想像ができないものだった。
ジャズは、イードの攻撃から自分を庇ってくれたメイカの言葉を思い出していた。
「言ったでしょ……ジャズ……。あんたにとって……この戦いの後こそが正念場だってぇ……」
忘れようにも忘れられない。
そのときの彼女の苛立った表情は、今でもジャズの瞼に焼き付いている。
初対面のときから互いの印象は最悪だった二人。
性格が合わない。
絶対に仲良くなれるとは思えない。
ジャズはそう思っていた。
だがメイカはあのときの危機的状況で、一番非力で役に立ちそうにない自分を助けた。
今ならわかる。
彼女――メイカは自分が今こうやってブライダルや敵だったサーベイランス――。
さらには、ヴィンテージのアン·テネシーグレッチを動かすことを知っていたのだと。
ジャズはそう思うと目から涙が溢れた。
メイカには、自分がこうなることもわかっていたのだ。
それでも彼女は泣きごと一つ言わずに、未来を自分に託した。
「メイカ……メイカァァァッ!」
突っかかってくるメイカの強張った顔が浮かぶ。
ジャズは叫びながら無垢な幼女となったメイカを抱きしめた。
その場にいたブレイクもラヴヘイトも、そしてさすがのサーベイランスも、今の彼女のことを止めたりはしなかった。
だが、ブライダルは――。
「おいミウム。私の依頼主のくせに、こんなとこでなにしてんだよ?」
一人だけ動じることなく、地面に座っているミウムへと近づいていた。




