#72
半壊した街中を進むブラッドとエヌエー。
エヌエーはブラッドと隣を走りながら、ハザードクラスである鉄ブレイク·ベルサウンドを相手に何か策はあるのかと訊ねた。
こちらの装備はライオットシールドと発煙弾のみ。
電磁波放出装置ーーオフヴォーカーを使わずに、どうやってブレイクを無力化するのかと。
「なにいってんだ。作戦なんてあるわけないだろ」
ブラッドの言葉を聞いたエヌエーは大きくため息をつく。
この人はいつも勢いだけで考えなしだったと、辟易していた。
二人は今から七年前に起きた戦争――。
アフタークロエへ以前から、バイオニクス共和国のために戦っていた兵士だった。
現在は、自ら志願して共和国の治安を維持する組織――監視員へと参加している。
ブラッドとエヌエーの経歴ならばもっと高い地位に就くことできたのだが。
二人は現場をほうが性に合っているといい、わざわざ身の危険が多い仕事を選んでいた。
ちなみに現在二十代半ばのブラッドとエヌエーは恋人同士であり、付き合ってもう十年以上経っている。
「訊いたあたしがバカだったわ……。でもブラッド、あたしたちはアンやシックスとは違うんだからね」
「それでもやるしかないときはある。第一に子どもが暴れてんだ。そこは大人が止めてやるのが道理だろ」
「ブラッドったら、まるで父さんみたいなことをいうのね」
「当たり前だつーのッ! 俺たちはあのバイオの親父に育てられてんだぜッ!」
エヌエーは呆れているようで、ブラッドの言っていることを理解していた。
それは、今は亡き育ての親を誇らしく想うからこそだ。
たとえ力が及ばないにしても、やらなければいけないことがあると、エヌエーはその言葉を心の中で復唱する。
「そうだよね。よし、急ぎましょう」
「ああ、さっさと止めてやろうぜ」
それから二人はついにブレイクを見つけた。
彼は笑いながら黒い日本刀を振り回し、刀から飛んでいく斬撃で目に入るものをすべて破壊している。
すでに周囲にあったビルや建物は崩れ、まるで怪獣でも通り過ぎたかのようなあり様だった。
ブラッドとエヌエーは、シールドを掲げこれ以上はやらせないとブレイクの前に立ちふさがる。
「あん? なんだテメェらは?」
ニタニタと歪んだ笑みを浮かべブレイクは、二人に向かってゆっくりと歩み寄って来る。
たかだか一本の刀でここまでの破壊ができるものなのか。
明らかに人間技ではない。
「そうか……さっきから煙を撒き散らして逃げ回ってたのはテメェらだな」
ブラッドとエヌエーは、七年前の戦争以前からこれまでも何度も死線を潜り抜けてきた。
だが、所詮二人は特別な力を持たない人間である。
このままブレイクと戦えば死を免れないことは明白だった。
しかし、それでもブラッドとエヌエーは退かない。
銃火器も護身用具すら持たず、ライオットシールドのみでこの人間離れした少年を止めようとしていた。
これは戦争ではないのだ。
自分たちは彼を傷つけたいのではない。
殺したいのでもない。
ただ少年を止めたいのだと。
「おい! いい加減やめるんだ! こんなことして何になるッ!?」
ブレイクは叫ぶブラッドを見てさらに笑う。
いや、笑っているというというよりは、ただ不気味に口角をあげている。
「うるせぇなぁ、もういいんだよ。ぜんぶブッ壊すって決めたんだからよぉ」
ブレイクはそういいながら刀を振った。
凄まじい黒い斬撃がブラッドのシールドへと直撃し、彼はなんとか踏ん張って耐える。
「くっ!? どうして壊す必要がある? 俺に話してみてくれよ」
「あん? テメェら大人がわりぃんだろ? この世界はクソッたれだ。だから壊すんだよッ!」
ブレイクは続けて斬撃を放っていく。
だが、ブラッドもエヌエーもライオットシールドを前へと突き出し、何とか受け止める。
「意味なんてねぇんだよッ! 恨むならこんな世界をつくったテメェら大人を恨みやがれッ!」
「どうしてそんなに世界や大人を恨む?」
「んなもんテメェで考えろッ!」
ブラッドは凄まじい斬撃を受けながらも、少しずつブレイクへと近づいていた。
エヌエーもそんな彼の後に続き、嵐のような攻撃に耐えながら進んでいく。
「支離滅裂だが、たしかにお前のいうことにも一理ある。だけどなぁ、本当にこの世界のすべてが悪かったか? 本当にすべての大人が悪人だったか?」
「あなたにも優しくしてくれた人はいたでしょ? それともいないからこんなことをするの?」
近づいた二人がなんとかブレイクを止めようと声をあげていたが。
彼は急に攻撃を止めて立ち止まった。
「フギャアアアハッハアアッ! 少なくともこの国にはいねぇなぁぁぁッ!」
そして、次の瞬間――。
一瞬のうちに間合いを詰めたブラッドは、二人のライオットシールドを斬り裂いた。
その衝撃により、二人の身体が宙を舞って半壊している建物へと叩きつけられる。
もし防弾防刃ベスト着ていなければ、きっとシールドごと真っ二つにされていただろう。
「ビャッハハ! フギャアアアハッハアアッ! どうしたんだよッ!? オレを止めるんじゃなかったかぁッ!? あぁぁぁんッ!?」
ブレイクは、すでに気を失っているのだろうブラッドとエヌエーに向かって、まるで狂ったかのように高笑った。
ほぼ崩壊している街に、彼のおぞましい笑い声だけが響いている。
もはや自分を止めようとする者はいない。
ブレイクはそう思いながら空に向かって笑い続けていた。
だが、どうしたことだろう。
ブレイクの持つ黒い刀――小鉄が突如震え出し始めた。
何かに恐ろしいものに反応しているような、そんな震え方だ。
その正体がなんなのかをブレイクはすぐに気が付く。
いつの間にか笑うのすら忘れ、その正体のほうを向く。
「なにしにきやがった……機械ヤロウッ!」
そこには、右腕を機械化させて立っているミックスの姿があった。




