#70
ミックスに支えられたクリーンは、その死人のような顔で彼のことを見上げる。
その目は虚ろで、元から儚さを帯びていた彼女の雰囲気がさらに強まり、まるで幽霊のようだった。
「……離してください」
クリーンは技を解き、ミックスの手を払って待合室を出て行こうとする。
顔色は先ほどよりは良くなっていたが、それでも足取りはおぼつかず、今にも倒れてしまいそうだ。
「ダメだ。キミを行かせるわけにはいかない」
再びクリーンの前に立ちふさがるミックス。
クリーンはそんなミックスを睨みつけると小雪を彼へと向けた。
「邪魔をするのならば、いくらミックスさんといえど斬って捨てますよ」
白い刃を目の先まで突きつけ、すぐにでも斬りかかろうかというクリーン。
だが、ミックスは動かない。
黙ったまま彼女を見つめているだけだ。
「退かねば……本当に斬りますよ……」
そしてクリーンは、ついにその刃をミックスへと振り落とす。
彼の肩は斬り裂かれ、噴き出した血が待合室を染める。
「なぜ……避けないのですか……?」
クリーンはミックスの態度に言葉を失っていた。
なぜ振り落とされた刀を避けないのか?
なぜ身体を機械化させて刃を弾かないのか?
それらをしないせいで、今あなたは血を流してしまっているではないか、と。
彼女にはミックスのしていることが理解できないでいた。
そんなクリーンの背中から、目を覚ましたのか、ニコの鳴き声が聞こえてきた。
クリーンが振り向くと、ニコはとても悲しそうな顔で彼女のことを眺めている。
お願いだからやめて、といっているようにメェーメェー鳴いている。
「わ、私は……兄様を……」
怯えながら震えているニコの姿を見て、クリーンはさらに動揺した。
だってしょうがないではないか。
ここで自分が兄を止めなければ、一体誰が彼を止めるんだ。
もう頼れる人間などいないのだ。
クリーンの頭の中では、そんな言葉がグルグルと回っていた。
「俺がやる……」
ミックスは動揺しているクリーンの持つ小雪の刃を握る。
すると、ミックスの腕が機械化し、小雪の刃と共鳴するように輝きだした。
クリーンは何が起きているかわからず、ただ唖然としていると――。
「なんとなくわかるよ……。俺にもさ。母さんがいなくて、父さんも戦争で死んじゃったんだ。だから……もし、兄さんと姉さんになにかあったら……自分の命を捨ててでもなんとかしようとすると思う」
ミックスが穏やかな顔を向けて声をかけてきた。
自分もクリーンと同じように両親はすでに死に、兄と姉しか家族がいないのだと。
だからクリーンの気持ちは痛いほどわかるのだと。
クリーンには彼のいっていることがわからなかった。
何故ならば彼女は、自分の両親が死んでいることをミックスに話したことなどないからだ。
それなのにどうしてそのことを知っているか。
先ほど小雪に触れたことと何か関係があるのか。
「ミックスさん……いったいどうして……?」
クリーンが立ち尽くしていると、小雪が犬の姿へと戻り、駆け寄ってきたニコと抱き合っていた。
ミックスはそんな二匹を見て微笑むと、再びクリーンのほうを向く。
「俺なんかじゃブレイクに勝てないかもしれないけど……。でも、クリーンの想いならきっとあいつに届くから……。だから……今度は絶対に負けないッ!」
「ミックスさん……」
気が付くとクリーンは、その場に両膝をついて泣いてしまっていた。
いくら堪えても溢れる涙を止めることができない。
「ここで待っててよ。クリーンの兄さんは必ず俺が連れてくるから。そしたらみんなが笑えあえるような、そんなハッピーエンドな終わり方にできるでしょ」
ミックスはひざまずくクリーンの頭をポンッと叩くと、待合室から走り去っていった。




