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その手に見えるは機械装甲  作者: コラム
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7/948

#7

「いきなり頭突(ずつ)きしちゃったのは謝(あやま)るわよ……。でもッ! 元(もと)はと言えばあんたが紛(まぎ)らわしいこというからでしょ!」


「はい、俺(おれ)が悪いです……。全部俺が悪かったんです、すみません……」


それからなんとかジャズの誤解(ごかい)を解(と)いた(機嫌(きげん)をとった)ミックスは、彼女と公園(こうえん)のベンチに腰(こし)かけていた。


まだ空は明(あか)るいが、他(ほか)の利用者の姿(すがた)は見えない。


二人がたまたま立ち寄った公園は、照明(しょうめい)に付いた監視(かんし)カメラと、ジュースの自動(じどう)販売機(はんばいき)の起動(きどう)音(おん)が聞こえるくらい静(しず)かだった。


落ち着きを取り戻(とり)したジャズは、抱いていた電気(でんき)仕掛(じか)けの仔羊(こひつじ)――ニコの身体(からだ)をいじり始める。


豊(ゆた)かな毛(け)に覆(おお)われている胸(むね)を開き、持っていた電子メスをバチバチと音を鳴(な)らしていた。


どうやらこのロボットを起動させようとしているようだ。


ミックスはそんな彼女を見ながら首(くび)を傾(かし)げていた。


それは、彼がこの仔羊タイプのロボットのことを、すでに壊(こわ)れているだろうと思っていたからだ。


ミックスの知るアンティークショップとは、売っているものを飾(かざ)ってあるだけのことが多く、すでに動かないものばかりだという認識(にんしき)。


その名の通り骨董品(こうっとうひん)を扱(あつか)う店なのである。


だから、いくら素人(しろうと)が直(なお)そうとも動くはずがないと、ミックスは思っているのだ。


「そのタイプは数年も前のものだし、もう動かないんじゃない?」


「まあ、見てなさい。あたしにかかればどんな古(ふる)い子だって」


ジャズがしばらく間(あいだ)その身体(からだ)をいじっていると、突然ニコがピクっと動き出した。


二本の足で立ち、まるで人間の子どものようだ。


再(さい)起動時(じ)に最初(さいしょ)に見た相手を飼(か)い主(ぬし)だと思うようにプログラミングされているのか。


目の前にいたジャズに向かってメェ―メェ―鳴(な)いている。


「スゴイ! ホントに直しちゃったッ!?」


「ふふ~ん。これくらい、あたしにかかれば楽勝(らくしょう)よ」


得意(とくい)げに胸(むね)を張(は)るジャズ。


彼女はニコのことを抱(かか)えると、そのまま歩(ある)き出す。


ミックスがそんなジャズの背中(せなか)に声をかけようとすると、急(きゅう)に彼女は振(ふ)り返った。


「また迷惑(めいわく)かけちゃったね。でも、ありがとうミックス」


「いや、あ、あの……」


「それじゃあね、バイバイ」


そして、ジャズは走り去(さ)っていった。


ミックスは、自分が彼女へ何を言おうとしたのかが、わからないでいた。


ただ、もう少し彼女と話をしたかったなと思いながら、いつもの乾(かわ)いた笑(え)みを浮(う)かべる。


「なにを考えてんだろ、俺……。昨日今日会ったばかりの女の子に……」


ミックスは、ボケっと空を見上げると公園の時計が目に入った。


「って!? もうこんな時間!? 大変(たいへん)だッ! 今日は学生(がくせい)セールの日なのに!」


ミックスが暮(く)らすバイオニクス共和国(きょうわこく)には、主(おも)に二つの特売日(とくばいび)がある。


ひとつは、先(さき)ほど彼がいった学生セール。


そして、もうひとつは科学者(かがくしゃ)セールである。


名前の通(とお)り前者(ぜんしゃ)は学生、後者(こうしゃ)は科学者ならば、どの店でも生活用品なら半額(はんがく)で購入(こうにゅう)することができるというもの。


この国の人口(じんこう)のほとんが学生と科学者なので、国が各店舗(かくてんぽ)に指示(しじ)を出して取り組んでいるいわば国民(こくみん)へのご褒美(ほうび)のようなものだ。


それと、誰もが金銭(きんせん)の不安(ふあん)なく勉学(べんがく)や研究(けんきゅう)に勤(いそ)しめるようにという意味(いみ)もある。


この国の学生と科学者で食事(しょくじ)に困(こま)る者などまずいない。


――はずなのだが。


「うわぁぁぁッ! 急がなきゃ急がなきゃ! 早く行かないと食べものが売り切れちゃうッ!」


どうやら今のミックスは、そんなことはないようだ。


街中(まちなか)をもの凄(すご)い形相(ぎょうそう)で駆(か)けていくミックス。


学校の体育(たいいく)の授業(じゅぎょう)で走るよりも、ずっと必死(ひっし)だ。


そんな彼の姿を見た街を歩く人たちも、一体何事(ないごと)かと驚(おどろ)いていた。


「このセールで食材(しょくざい)が買えなかったら……俺は確実(かくじつ)に死んじゃうよぉぉぉ!」


ジャズとカフェにいたときは、ずいぶんと人目(ひとめ)を気にしていたミックスだったが。


今はそんな小さなことを気にしている余裕(よゆう)はなさそうだった。

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