#60
――ジャズとウェディングが寮へと向かっているとき。
クリーンは一人図書館にいた。
昨夜のミックスとブレイクの戦いにより、館内はもちろん外観も半壊状態。
当然立ち入り禁止のトラテープがそこら中にあり、侵入してはいけないのだが。
クリーンは図書館内の階段をゆっくりと上っていく。
その表情は今は亡き彼女の母――クリア·ベルサウンドに似て儚いものだった。
クリーンが屋上への扉までたどり着くと、いつの間にか傍に白い毛の犬――小雪が現れていた。
小雪は悲しそうにくぅーんと鳴くと、クリーンは小雪を抱きしめる。
そして、よしよしと撫でながら小さく呟いた。
「あなたを付き合わせてしまってごめんなさい……。でも、もうこれですべて終わりにしますから……」
今にも泣きだしそうなほどの震える声。
小雪は、そんなクリーンを元気づけようとしているのか、力強く鳴き返す。
クリーンは立ち上がり、小雪へお礼をいうと屋上への扉を開いた。
強い陽射しが、彼女の雪のような白い肌へと降り注ぐ。
眩しさに目を細めながら、クリーンがそこで見たものは――。
「あん? なんだお前か」
彼女と同じく真っ白な髪をした和服姿の少年――兄のブレイク·ベルサウンドだった。
彼の傍には、いつものように黒い犬――小鉄が眠っている。
ブレイクの手には紙の本――『ストリッパー』というタイトルの漫画が持たれていた。
それは、ずいぶんと古い物のようでところどころ痛んでいるものだった。
クリーンは兄へ頭を下げると、屋上にあった無数のアンテナに寄りかかっているブレイクのほうへと歩いていく。
「またロウルおじ様の本ですか? 兄様は本当にその本がお好きなのですね。時間があれば読み返していて」
「あん? 別にそんなじゃねえ。ヒマつぶしだ、ヒマつぶし」
「あの人は優しい人でしたね。こんな呪われている私たちにすら……」
「もう死んじまったみてえにいってんじゃねえぞ。ロウルのおっさんはまだ生きてんだろうが」
「そうでしたね……」
クリーンがそう答えると、二人から会話がなくなった。
小鉄は寝息をたて、小雪は静かにクリーンの傍に座っている。
屋上に風が吹き、ベルサウンド兄妹二人の白い髪を揺らす。
しばらくすると、ブレイクのほうが口を開いた。
あの自分にけしかけてきた適合者は元気か?
それとも死んじまったか?
――と、まるで相手を小馬鹿にするような笑顔で訊ねてくる。
「あんなヨエーのどこで見つけたんだよ。いくら適合者だからつってもよぉ。そもそも闘争心ねえヤツを連れて来てんじゃねえぞ」
「そのことに関しては、すべて私の責任です」
「謝るくらいなら最初っからやんなよ」
「私は兄様に謝ったのではありません。ミックスさんにです」
「あん?」
クリーンの言葉が癇に障ったのか。
ブレイクは読んでいた本を置いて彼女のほうを向いた。
すると、彼女の手にはいつの間にか刃が真っ白な日本刀――小雪が変化した刀が握られていた。
そしてクリーンは小雪を持って、アンテナに寄りかかっているブレイクに向かって振り落とす。
「おい、なんのマネだよ?」
だが、ブレイクはそれを両手の掌で左右から挟み、見事に止めてみせる。
それから彼は受けた刃を放し、クリーンの体を突き飛ばす。
軽く突き飛ばされたクリーンは俯いていた。
そんな彼女を見ているブレイクには、特に怒った様子はない。
むしろ心配そうにしている。
そんな兄へクリーンは顔を上げて答える。
「最初からこうすればよかったのです……」
「あん? なにいってんだクリーン?」
「これで終わりにしましょう。私が兄様を止めてみせます」




