#57
――授業が終わり。
ジャズは同じ学校である中等部の校舎へ向かっていた。
それはクリーンに、昨夜ファミリーレストラン前で別れた後に、いったい何があったのか訊ねるためだ。
ジャズに訊いたら否定するだろうが。
彼女はミックスが大怪我をした理由が気になってしょうがない。
授業中でもそのことばかり考えてしまい、まったく身が入らず、ようやく放課後になったと早足で歩いていく。
そんなジャズを見た中等部の生徒たちは、ジロジロと彼女のことを見ていた。
それもしょうがない。
高等部の生徒が中等部の校舎へといくことはほとんどないうえに、歩いているのはあのストリング帝国から来た留学生ジャズ·スクワイアなのだ。
髪型がサイドテールで制服のスカートの下にスパッツを穿いているその姿は、たとえ彼女の顔を知らなくてもすぐにジャズだとわかってしまう。
さすがに学校側から注意されたため、電磁波放出装置――インストガンやナイフは持ち歩いてはいないが。
彼女の持つ雰囲気は、バイオニクス共和国では異質なのか、すれ違う者の目には奇異に映っていた。
「ったく、人のことを気安く見てんじゃないわよ」
不機嫌そうに呟くジャズ。
そんな彼女の鋭い視線で見られた中等部の学生たちは、ビクッと怯えると顔をそむけて足早に去っていく。
だが、そんな不機嫌にしている彼女に、何のためらいもなく声をかける人物が現れる。
「姉さん~!ジャズ姉さん~! ここですよ~。私たちはここにいますよ~」
共和国からハザードクラスに認定されている女子中学生。
科学者たちからは舞う宝石というコードネームで呼ばれているウェディングだ。
ウェディングは両手を大きく振ってジャズにわかるようにアピールしている。
相変わらずニコニコと笑顔で楽しそうだ。
ドシドシと足音を立てながら向かってくるジャズを見て、クリーンはウェディングに訊ねる。
「ジャズさん……なにかすごく怒っているように見えるのですが……」
「今日は朝からあんな感じだよ」
「朝から……。なんだかこれからのことが不安になりますね……」
それから合流した三人は、ひとまず落ち着いて話ができる場所へと行こうと、昨日行ったファミリーレストランへと向かうことに。
その移動中――。
ジャズはあれだけ不機嫌そうだったのが嘘のように普通に会話をしていた。
学校へ行っている間、電気仕掛け仔羊ニコを寮の部屋に残して寂しい思いをさせてしまっているとか。
科学技術が進んでいるバイオニクス共和国では、いったいどんな授業をしているかと思えば帝国さほど代わり映えがないとか。
どこにでもいる学生がしそうな話題を、ウェディングとクリーンにしていた。
クリーンはジャズがてっきり怒っていると思っていたことを伝えると、ウェディングが答える。
「姉さんは顔がいつも怒って見えるからね」
「悪かったわね。どうせあたしは万年仏頂面よ」
「でも、そこがいいんじゃないですか~。姉さんらしくって」
「どこがいいのよ……」
クリーンは話しているジャズとウェディング二人の顔を見て思う。
まるで昔祖母と暮らしていた国で見た、明王と観音菩薩の像のようだと。
「まさか共和国で仏像を思い出すとは考えもしませんでしたね」
「うん? クリーン、いまなにか言った?」
「いえ、なんでもありませんよ」
それから三人はファミリーレストランへと到着し、中へ入ると、とりあえずドリンクバーを注文。
ジャズは紅茶、ウェディングはアイスココア、クリーンは緑茶を、それぞれの機械からとって席に戻る。
「でさ、いきなりなんだけど。クリーンに訊きたいことがあるんだ」
そして席に着くなり、ジャズは身を乗り出してクリーンに訊ねた。




