#36
――ブロードが爆破しようとしたバイオニクス共和国を象徴する管制塔であるアーティフィシャルタワー広場での事件から次の日――。
ミックスは病院で検査を受けていた。
彼が目を覚ましたときには、ジャズはすでにおらず。
一緒に病院へ運ばれたはずのブロード、ヘルキャット、アリアの三人の姿もなかった。
(ジャズたちはどこへいったんだろう……)
ミックスは検査を終え、病衣姿のまま、入院している自室へと戻っていく。
廊下の窓から外を眺めながら、彼はジャズがいなくなってしまったことを気にしていた。
黙っていなくなるなんて酷いじゃないかと、その内心で呟く。
それから午後になり、もう陽が沈みかけてきた頃、彼の病室に二人の人物がやって来る。
「ミックスせんぱ~い! お見舞いにきましたよ~!」
「ミックスくん、どうですか? 身体の調子は?」
|舞う宝石《ダンシング·ダイヤモンド》ウェディングとミックスの担任教師であるアミノだ。
ミックスは二人へお見舞いに来てくれたことの礼をいうと、もう身体のほうは問題ないことを伝えた。
すると、ウェディングは手に持っていた荷物から巨大なホールケーキを出す。
イチゴと生クリームが付いているシンプルなタイプのやつだ。
「せんぱいが元気になったお祝いです。さあ、そのままガブッといっちゃってください」
ウェディングが出した巨大なケーキはなんと五層もある。
しかし、それがすべて生クリームとスポンジだ。
ミックスはそんなホールケーキを見て冷や汗を掻いていた。
「いや、あのさ、ウェディング。すっごく嬉しいんだけどさ……。この大きさのケーキを一人で食べ切れるかなぁ……」
「食べちゃってください。ミックスせんぱいのために作ってきたんですよ」
「嬉しいんだけど、ホンット嬉しいんだけどさ。ここはアミノ先生やウェディングみんなで食べようよ。ねえ先生?」
救い手を求めるかのようにアミノを見るミックス。
彼女はその巨大なホールケーキを見て目を輝かせていた。
だが、すぐにブンブン首を横に振ると、その表情を厳しいものへと変えた。
「これはウェディングさんがミックスに作ったものですから、先生は遠慮しておきます。なによりこのところ間食の取り過ぎで太ってしまったので……」
どうやらアミノは現在ダイエット中だったようだ。
しかし、それでも彼女はウェディングの作ってきたケーキを食べたそうにしていた。
それに気が付いたミックスが、体重なんて気にせずに食べましょうというと――。
「いいから早く食べてくださいッ! こんな美味しそうなケーキを目の前に置かれ、先生がどれだけ辛い思いをしているのかを、ミックスくんにはわかっているのですかッ!」
「なんで俺が怒られるの……」
ミックスが怪訝な顔をしていると、ウェディングはまた荷物をゴソゴソとし出す。
「ドササァァァッ! ちゃんとチョコレートもありますよ!」
そして、今度は板チョコレートを大量にミックスのベットに撒いた。
アミノはまた目を輝かせ、ミックスはさらに顔を強張らせる。
「あのさウェディング……。実は俺……甘いものって苦手なんだよね……」
「これからお見舞いのときには毎回ケーキ作って来ますね。せんぱいが退院するまでずっとです!」
ミックスは正直に甘いものが好きではないことを伝えたのだが。
ウェディングはそんな彼の言葉を無視して、最高の笑顔を見せていた。
もはや話は聞いてもらえないと思ったミックスは、ガックリと肩を落として呟く。
「これは早く退院しないと別の病気にかかりそうだ……」
それからミックスは、一人でその巨大なホールケーキを食べたのだった。




