#23
そこにはミックスが咆哮をあげ、立っていた。
吹き飛ばされたブロードは思う。
危なかった。
奴の拳を受ける前に効果装置をオンにしなければやられていた。
しかし、今の一撃は適合者による身体能力の向上だけではない。
この重力を直接身体にかけられたような感覚は一体?
かのアン·テネシーグレッチは自身の機械化に加えて電撃を操ったというが。
この少年もまた身体能力の向上以外の力を持っているということか?
想像もしていなかった攻撃を受けたブロードが困惑していると――。
「大佐ッ! ブロード大佐ッ! 奴が来ますッ!」
ヘルキャットが彼に向かって叫んだ。
ブロードはすぐに頭を切り替え、向かって来ているミックスに対して身構える。
すでに距離を詰めていたミックスの拳を避けきれず、ブロードは機械化した両手をクロスさせ彼の攻撃を受け止める。
ミックスの拳を受けた瞬間、ブロードは身体ごと地面へとめり込んでいく。
(まただ。やはりこの少年……何か適合者以外の力を持っているッ!?)
先ほどと同じように――。
重力を直接かけられた感覚を味わったブロードは、両手だけなく両足も機械化させて踏ん張り、ミックスをはね除ける。
ミックスはただ払われただげで苦痛の表情を浮かべていた。
「その怪我でよくやるな。褒めてやる」
そんな彼を見たブロードは静かに口にする。
たとえ相手が未知なる能力を持っていたとしても、腹に穴が空いて血を流しているのだ。
そんな重症の――ましてや素人の子どもに、自分は何を恐れる必要があるのか。
ブロードはそう思うと冷静さを取り戻していた。
そして、今度こそミックスが立ち上がれないように彼へと襲いかかろうとする。
「貴様はよくやったよ。出会ったばかりの相手にそこまでしてもらえれば、ジャズの奴もさぞ嬉しいだろう。そこまで姪が好かれるのは叔父として鼻が高い」
ブロードの余裕の言葉を聞き、腹に空いた穴を押さえながらミックスは身構える。
だが機械の拳を固めていても、今にも気を失いそうだ。
そして、今まさにブロードが飛びかかろうとしたとき――。
「大変だぁぁぁッ!? こんなところでケンカしてるぞッ!?」
突然若い男の声が聞こえた。
狼狽えているような、ふざけているような、そんな調子の声だったが、ブロードたち三人は目立つのはまずいとその場から立ち去ろうとする。
「一人は腹から血を流してるぞ! 誰か早く監視員、いや医療ドローンを呼べぇぇぇッ!」
男の声はさらに続き、ブロードは舌打ちをすると、ヘルキャットとアリアへこの場から離れるように言った。
去っていく二人を確認した彼は、彼女たちとは別の方向へと駆け出す。
「待って叔父さんッ!」
ジャズがその背中に向かって叫ぶと、ブロードはそのまま背を向けた状態で走りながら返事をした。
「その少年を早く治療してやれ。そして、お前は国へ帰るんだ」
そして、ブロードはジャズの前から姿を消すのであった。
残されたジャズは、今にも倒れそうなミックスを支えながら自分の唇を噛んでいた。
だが、すぐにミックスの手を肩に回すと、ゆっくりと歩き出す。
「ジャ、ジャズ……」
「いいからッ! 今はあんたを医者のところへ連れていくのが先だよ」
呻くミックスへ黙るように言ったジャズは、表情を強張らせながらも、その足を止めることはなかった。




