6話 見た目は人間の子供、中身は欲深い魔族
錬金術の一つ『ライフウォーター』作成の為に必要なイクフカ草を採取しに、王都に近い場所に位置するフキンの森へ訪れた。初心者の錬金術師に最も適した此処は、魔物の数も少なく殆どが弱い魔物ばかり。人間から近付かなければ襲ってこない。ルキウスに連れられ、森の中心部まで入ると辺り一面イクフカ草が生えていた。飛行中もルキウスの手を握って、此処に来るまでもずっと握っている。イクフカ草を取る為に手を離そうとしたら「だーめ」と腕を引っ張られる。
「きゃっ」
「やだよアスティ。おれから離れて行くなんて」
「手を繋いだままじゃ素材採取が出来ないじゃない」
「アスティはやらなくていいよ。綺麗な手が土まみれになる」
「私はやりたいの!」
ね?とルキウスの服をぎゅっと掴んでお願いをした。
魔族だった頃もそうだけどルキウスは私のお願いに弱い。大抵の事なら、お願いすれば折れてくれた。
案の定「うぐっ」と謎の呻き声を出したルキウス。後もう一押し……!
「ね……?お願い……」
「う……わ、分かったよ。仕方ないな」
「ありがとう!」
どんな事だって、結局はこうして最後許してやらせてくれるの。素材を採取するのだから、手が汚れるのは承知の上。ルキウスにしたら嫌なのかもしれない、でも私は気にしない。ルキウスの頬にお礼のキスをした。ルキウスが私のお願いを聞いてくれたらするお礼。
嬉しそうで、でも渋々と手を離したルキウス。早速私はイクフカ草採取を始めた。
基礎素材の一つなので採取しやすい。見た目が綺麗なイクフカ草を次々に採取していく。
あれとこれ、これも、と。
『ライフウォーター』を作るのには十分な量のイクフカ草を採取した。これをルキウスにお願いしてコンテナに入れてもらおう。両手一杯に抱えようとしたら急にイクフカ草が消えた。
「え!?」
「アスティの服が汚れちゃう」
原因はルキウス。私がコンテナに入れてとお願いする前にコンテナを開かずに空間魔術で仕舞ったらしい。もう、ビックリした。
ビックリさせないでよと苦情を言ってもルキウスは右から左に流して私を抱き締めた。
「はあ~頑張ってイクフカ草を採取してるアスティは可愛かったよ!おれの部屋に帰ろう」
「え、でも」
「イクフカ草はおれの部屋に飛ばした。今戻ったって、あのバカ王子がいて鉢会わせたら面倒だよ。ね?おれの部屋に行こう」
「う、うん」
クラウディオ殿下が長い時間滞在するとは思えない。と、疑問を口にしてもルキウスは聞く耳を持ってくれない。さっさと此処とルキウスの部屋を空間魔術で繋ぎルキウスの部屋へ入った。
「さてと、先ずはアスティの手を洗わないとね」
私の手はイクフカ草を採取した為に土に汚れている。錬金術で造られた手袋を使って土や汚れ、毒から手を守って採取する方法もあるけどイクフカ草には毒もなく、フキンの森に危険な素材はないから今日は素手で採取をした。
大きな盥を用意し、水の魔術で呼び出した水を入れる。満杯になるまで注ぐと私の背後に回って上から手首を掴んで水の中に入れられた。
「きゃあ、冷たい」
「あっはは、そうだね冷たいねえ」
寒い季節でもないのに水が凍える程冷たいのはどうして?魔術で出してもこんなに冷たくはならない。……普通は。冷たくて早く出したいのに私の手を上から重ねて土を落としていくから出せない。
プルプルと寒さで体が震える。
「ぃや……ルキウスっ」
「寒い?なら、もっと寒くなってよ。アスティが寒くなった分おれが温めてあげるから」
それが目的ね!?
「ね、え、もう、汚れ落ちたでしょ?出してっ」
「えー?」
「お願いっ」
「しょうがないなー」
冷たいを通り越して痛く感じ始めた頃になって漸く水から出してもらえた。私の手も、ルキウスの手も真っ赤になってる。急いで温めないと。小さな炎を両手に出した。炎から感じる小さな温盛が心地良い。
「ルキウスも」
「うん?ああ、おれはいいよ」
「でも、温めないと。ルキウスの手、すごく――きゃあ!?」
じわじわと広がる温もりによって手の感覚が段々と戻ってくる。ルキウスにも早く温まってほしいのに炎はいらないと拒否をされた。同時に急に太股に冷たいものを当てられた。
驚きの悲鳴を上げたら背後から可愛いとうっとりとした声色で囁かれた。下を見たら、ドレスのスカートの部分がたくしあげられていた。
恥ずかしくて体温が顔に集中する。炎を維持できなくて消して、代わりにルキウスの手を離そうと掴んだ。
「どこ、触って……!」
「えー?だって、何時まで経ってもオトナにさせてくれないアスティが悪いんだよ?これくらい許してよ。というか、オトナになったら毎日触るんだから」
「え……!?」
「驚く?魔族だった頃は毎日シてたじゃない」
「ま、だ、だって、あれはっ、ルキウスが」
「おれが何?おれが悪いの?そうだねえ、おれが悪いのかもねえ。でもね、アスティ。アスティも悪いんだよ?アスティが魅力的過ぎるから、あの頃のおれが毎日どれだけやきもきしてたか知らないよね」
「んんっ」
太股を上下に撫でながら、もう片方の手を後ろから顎へ回し口付けてきた。魔族だった頃もあった。ううん、毎日あった。悪魔の性欲は強い。故に、高位魔族は正妻以外にも沢山の愛人を囲っては沸き上がる性欲を解消した。魔王様は王妃一筋な方で側室や愛人が一人もいなかった。けど、その分魔王様の性欲は全部王妃様へ向けられていた。……と、よくルキウスは言っていた。
ルキウスも例外じゃない。ルキウスは私一人を妻として認め、愛人の類は一切作らなかった。作る気は更々なかったけれど私にも愛人を作るのは禁止だと迫った。作らないよと告げれば酷く安堵していた。……でも、いざ妻となって知った。ルキウスの性欲は魔王様よりもきっと上だった事を。
初夜の日はとても優しく、私の体を気遣ってくれた。勿論、初めて男性を受け入れたから痛かった。どれだけルキウスが優しく丁寧に愛撫してくれても痛かった。でも、自分の欲を抑えて最後まで私の体を気遣って抱いてくれた。それが何よりも嬉しかった。
嬉しかったのだけど……。
「んん、んん……る……んう」
「ん……ふ……」
……その日だけは善良な皮でも被っていたのか、それ以降は毎日毎日、人が夜になるまで立てない程求められた。毎日が腰痛やその他の痛みとの戦いだった。抱かれない日がないというくらい抱かれ続けた。
暫く続いた口付けも私の足がルキウスに寄り掛からないと立っていられなくなった辺りで終わった。太股から手を離し、お腹に両腕を回されて抱き上げられた。ベッドの方まで運ばれて寝かされた。当たり前の話ルキウスも横になった。
「アスティ可愛いよアスティ!」
「も、もうっ、私は錬金術をしたいのにっ」
「うん?良いじゃない後でも。アスティのお願いを聞いてあげたんだから、おれのお願いも聞いてよ」
「ルキウスのお願いは厭らしい事しかないもん」
「だって、見た目は人間の子供でも中身は魔族だよ?まあ、子供の内から性欲が溢れてるのも困ったものだよ。アスティ限定だけどね」
「……お、大人になるまで待って」
「待つよ。アスティに嫌われるのだけは嫌だから。……でもねアスティ。大人になったら、すぐにアスティを頂戴ね?心配しなくてもいいよ。とても優しくするから」
「う……うん」
心配だらけだよ。最初は優しくても、その後からは何度も求められてしまうもの。また私の体が保たなくなりそう……。ふと、偶に不思議に思う時がある。どうしてルキウスはこんなにも私を愛してくれているのか。元々、私とルキウスは身分違いの夫婦。通常、高位魔族には幼少の頃から婚約者がいる。でも、ルキウスにはいなかった。
どうして何だったんだろう?
上機嫌の内に聞いた方が後が怖くないから聞いてみよう。
読んでいただきありがとうございました!