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太陽系興亡史  作者: 双頭龍
第4章 策動するシャムシ達と近付く戦乱
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第1話

 寒い日々が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか? いやー、トランプ大統領、マジぱないっすね。なんとも言えない大統領でしたね、やっぱり。まあ判断を決めてしまうのはまだ早いのかもしれませんが、大丈夫かよ、と思ってしまいますね。

 しかしトランプ現象に対してアメリカの大手メディアが、今回の件でいまさら何処かの大学の教授をスタジオに引っ張ってきて異なる視点から物事を見れるから学問は大事だ、と御高説を述べておられましたが、その学問すら受けられない、あるいは受けたからと言って現在の社会の利益を享受できない白人労働者層の不満に対してあなた方は何かしてきたのか? と思ってみたりしましたね。

 もちろんその大学教授の言っていることは理解できますし納得できることでもあります。

 しかし、ではその白人労働者の不満が分からないのか? といわれると、なぜか解るんですよね、正しいかどうかは別として。

 まあ彼ら白人労働者がD.Cにいる30年も政界にいてまだ改革を、と言っている政治家を支持できなくなってきているのは理解できなくも無いです。当然改革とは時間のかかるものですからやるべきことをやっているのでしょう。

 しかし彼らの不安材料である、経済状況、次に人口構成、今ならまだ何とか白人系が過半数を超えている、国際情勢、stands above all other countries in the world(世界のどの国よりも上にいる)と考えている人の数は減っているでしょうし、国際的尊敬すら失いつつあると考えているでしょう、最後にこれが一番大きそうに見えるのですが分断、中流派が減ってきているように見えるます、まあ極端な人間の声が物理的にでかくなっただけかもしれないですが、これらは人々から冷静な判断力や包容力を失ってしまうことにつながっているのではないか、と思ってしまうことがありますね。

 まあ言っときますが向こうも建前と本音はありますよ、正直で何事もはっきりというなんてのは幻想です。それどころか根回しだって……、と言ったところです。まあ欧州ほどではないのでしょう。あっちはあっちで縁故が幅を結構きかしているそうですから(偏見です。ゴメンナサイ、でも間違っていないと勝手に思っている)

 まあ、面白い時代ですよ、見ているだけなら、ね。この中をどうにかやっていく自信は、特に今、私には、実は、無かったりします(笑) 

 コウジがカウルに事情を聞き、サエルが銃の更なる増産と言う無茶振りに頭を抱えてから数日後、シャムシはシン・ムバリド王に呼ばれ、バビロンの王宮に参内していた。


 「御呼びでしょうか、王よ」


 「御呼びでしょうか、ではないわ! 暢気なものだな、シャムシ。いったい何処をほっつき歩いていたのだ!」

 屈強な男が、奥に鎮座する王の両脇にいる重臣の列の王側からシャムシに勢いのある口調で、しかしどこか笑いながら詰問する。


 「あ、兄上! マリに対する備えの方はよろしいのですか?」

 シャムシは少し驚いた風に自分の兄であるアミヌに質問する。


 「お前な、質問に質問で返すな。まあいい、ここに俺がいるのがその答えだとでも言えばいいか」

 アミヌはシャムシに、というより周りにいる全員に、知らしめるように答える。ある意味王の臣下に対する高度な心理戦をこの二人は、計算ずくかどうかは知らないが、しているのだ。

 もちろん重臣は皆、マリに対して権力の基盤となる支配地域、つまり領土をとられた恨みがある。しかし負けが続くと、どうしても恭順派というか、穏健派というか、まあそんな輩が出てくるのも仕方の無いことでもある。まだこの時代は王とその臣下の関係性は中世の封建制度の緩やかな関係より、さらに緩やかなのだ。その中において、その次代の後継者達がそういった動きを遣り繰り出来る資質は否が応にも鍛えられる。さらに悪いことに今は戦時下、出来なければ、死、有るのみ、なのだ。


 「そこまでだ、アミヌよ! シャムシ、この短期間でよく戻ってきた。色々と忙しいところを呼び戻したのは他でもない。が、まずはアミヌ。話題が出たついでである、マリに対する備えを説明せよ」

 もちろん、王もこの流れがいったいどういうものなのかを理解した上で、アミヌとシャムシの会話を止めさせたのである。単純に会話に参加して王自らの権威と言うものを見せ付けたかっただけ、と言う可能性も有るが。


 「はい、王よ。皆も知っての通り、マリの去年の攻勢はまさしくイナゴの群れのごときであった。我々はヤギトに奪われた地を取り返すことはもちろん、残っている領地を守ることで手一杯、このままでは余力を全て使い果たし、後はぼろきれの様にすり減らされることは明白、だった。最後にして、残った中では最大のの拠点としてのアバリとて、バビロンの兵やその他の支援が無ければ陥落、ということもあったかもしれん、ここに現場での責任者としてバビロン側に謝意を表したい」

 いったんアミヌは一呼吸置き、バビロン側から来た役人に言い聞かる。というのもバビロン側とて一枚岩ではないからだ、例えば重臣や官吏、さらに一部の軍人の中には、マリとの戦争に負け続け、半分居候のようにバビロンにいるイラ・カブカブ王と同盟関係を見直すと言った考えを持つ者や、さらにもう一歩進めてイラ・カブカブ王を討ち、勢いのあるヤギト・リム王とこそ同盟を結ぶべきだ、といった意見さえもある。イラ・カブカブ王をマリが討伐した後、マリが果して次の剣先をバビロンとしないのかといった危険性を過小に評価し、得られるかもしれない利益のみを過大に評価する、まあ、いつの時代にもいるある意味、利に聡い、悪く言うと俗物臭漂う人物は何処にでも一定以上いるものである。

 物事は一方的観点からだけでは理解し得ない、しかしだからといって人は全てを見ることも出来ない、結局自分の信じるものを信じるしかないのかもしれない。そういう意味において彼らを俗物だと決め付けるつもりもないのではあるが。

 そういった者に対するアミヌなりの牽制、と言うか配慮でもある。もちろん王を飛び越してバビロン側に謝辞を述べることは越権に当たる。が、当然王も支援を得たその都度謝意を述べてはいるからその誹りはあたらない。もっともバビロン側からするとよく謝意を表する奴より、はじめて謝意を表する奴のほうが心象も違ってくるというものだ。


 その謝意に対する当たり障りのないバビロン側からの返礼をアミヌは受け、さらに話し出す。


 「しかし、ついに! ようやく! ヤギトの軍勢も勢いを失いつつある。ここに来て、奴らの後方で暴れまわった我々の努力が実ってきたのだ。さらに連中の支配地域に対する過酷な税の取立て、という失点もこれ助けた。ただそれと同時にまた多くの難民を抱えることにもなってはいるが、だ。もっともバビロンからの食料支援のおかげでその難民からも兵を徴募できたのは嬉しい誤算でもある。まあ問題が無いわけではないが。アバリには5千の兵を、さらに周辺に難民から兵を編成したおかげで、以前より後方を襲撃していた2千を配置している。マリの補給は滞ることもしばしばだ、と複数の捕虜からも、また占領地域に忍び込ませている者からも伝わってきている。事ここに至って、ヤギトは支配地域の拡大ではなく支配地域の完全なる統治を選択したと思われる。補給を手厚くし、そして支配地域に対する統治を徹底させ、そして奴らの軍が動き始めるまで猶予はそれほど残ってはいないと俺は考えている。もちろん動き始めるのを徹底的に邪魔することになるが、いずれその時が来ることは間違いないだろう」

 王に視線を送りアミヌが話し終える。


 「ふむ。やはりこのままでは状況は悪化の一途、か。それで予定通り兵は出せるのか? 難民も多いと聞くが」

 イラ・カブカブ王はアミヌに尋ねる。


 「兵は予定通り集まるでしょう。いやそれどころか、難民がそこに加わり、兵員数は予定より少し多いかもしれません。最も士気、装備等に難ありでは有りますが」


 「予定通りの動員数、編成にする、か。逆にこれ以上増えられてもなシャムシに負担をかけるだけだな」

 

 「では、イラ・カブカブ王よ。王が1万4千を、アミヌ王子が8千を、残り3千と増加した兵員分をシャムシ王子が率いる、と言うことでお間違いないですね」

 

 バビロン側の連絡員が確認する。主力であるイラ・カブカブ王とアミヌ王子がエシュヌンナをバビロン側の主力軍と共同で攻める。一方シャムシは残りの兵を糾合してバビロンからの援軍とともにアッシュールを攻める。エラム側からも増援が出るが、これもエシュヌンナに対してが主力、アッシュールに対してはせいぜい牽制である。


 もちろんシャムシは自分達の軍が牽制目的であると言うことは百も承知ではあるのだが、それを利用する気満々であったりする。


 基本的に河川岸の都市を攻める際は上流から、つまりアッシュールから攻めるのが定石ではあるが、それが可能な地理的状況なのか? という要因があるのも事実である。下流側にあるエシュヌンナの方はバビロンに近く、この都市を落とさない限りバビロンはアッシュールを全力で攻めることが出来ないのだ。さらにはエラム側も主要都市であるスサがエシュヌンナに近いという地理的条件が足かせとなり、上流側から攻めることが出来ない。かといってアッシュールを自由にしておくという選択肢は三者ともありえない。野戦でエシュヌンナ軍を打ち破ったとしても、そうなる公算は非常に高い、三方から合計10万近い軍勢が攻め寄せるのだから、懸念が無いわけではない。最悪、篭城中にアッシュールがエシュヌンナに対して増援を出したとしたら、あるいはエシュヌンナがアッシュールの増援をすばやく受けて各軍を各個に撃破したら。まあ、だからこその三者共同でのアッシュール牽制なのでもある。


 「うむ。シン・ムバリド王に伝えてくれんか」

 

 「解りました。では、王に伝えてまいります。失礼」

 一礼した後、彼はこの部屋を出て行った。


 「ふん、シン・ムバリド王も大変ですな。ま、我々も気をつけなくてはなりませんな」

 アミヌが連絡員が出て行ったのを確認して嫌味を言う、もちろん彼だけでなく身内に対しても。


 「これ、アミヌよ。多大な支援を我等にしてくれているシン・ムバリド王に対して、礼を失した発言であると思わぬか」 

 イラ・カブカブ王もシンムバリド王に対しての発言を戒めたものの、あの連絡員に対しての発言はそれほど咎めはしなかった、もちろん身内に対しても。


 「そうですな、王よ。心からの謝罪をシン・ムバリド王に。さて、問題は実際に何時動くか? となってきます」


 軍事作戦だけでなく勝負事や物事の大半は準備こそが重要である。有名な格言(勝兵先勝而後求戦、敗兵先戦而後求勝、ちょいと意訳します)に敗者は戦闘の中に勝利を求め、勝者は戦闘の前に勝利を求める、とあるぐらいである。もちろん事前に準備、計画したからと言ってその計画通りに事態が推移することはほとんど無いと言っても過言ではない。有名な言葉に戦争で唯一確実なのは計画通りに行かないということだといわれるほどである。とはいえ、計画や準備をしない、なんて事は決してない。


 例えばそのときによく重要だと言われるのは補給であろうか? 戦闘に勝利するには補給が重要だ、と書いてある書籍は簡単に、そして多く見ることが出来るかと思う。


 しかし、しかしである、それは事実だろうか?


 豊富な補給はその戦闘の勝利となるだろうか?


 確かに必要条件、(勝利しているときは補給が豊富であると言う条件下)を満たすことは、ごく一部の例外を除けば、ほぼ確実だろう、特に近代戦においては。


 では、十分条件(豊富な補給は勝利をもたらす)になりえないのは何故であろうか?


 優秀な補給を以って相手を圧倒することは、たしかに戦闘に対しては有利である。が、それだけでその地域での一連の戦闘や最終的目標である戦争の勝利ができるのならば誰も苦労はしないのだ。

 では何が必要なのか? その答えを見つけるためには戦争と言うものを、正確に言えば戦争に対する勝利というものを総合的に考える必要がある。(まあその答えは政治家や軍人が血眼になって探しているものではある)


 まずはじめに戦闘部隊。これが弱ければ以後、戦争に対する準備をいかにしようともおそらく勝利はありえないことだろう。当然、戦闘部隊の戦闘力はコウジが以前言ったように火力、や兵員、物資の質等と言った有形戦闘力と、部隊の士気や指揮、錬度、規律等の無形戦闘力によって決定される。さらにその個々の戦闘部隊を効率的、かつ有機的に組み合わせることが必要になる。


 そして次に補給。まあさらに正確に言えば兵站とでも言うべきか。戦闘の第一線に立つ戦闘部隊だけで戦闘に勝てるか? と言われると答えは否だ。それは誰もが同意することだろう。

兵站とは部隊の求める戦闘以外の諸行動の事である。具体的には軍事作戦に必要な物資、燃料弾薬はもとより、食料、水、トイレ用の紙だとかの生活物資、の補給、それらの陸だけでなく海、空をまたぐこともある輸送、さらに部隊の戦闘力を維持するための装備の性能が完全に発揮できる状態にするための整備、さらにはそのための情報の管理や、備蓄等の維持管理である。

 いや、俺は24時間365日不眠不休飯で食わずに戦い続けれると言える人がいたらぜひ教えてほしい。

 ここでよく、じゃあ戦闘用に開発したロボットとかなら、と言う人もいるが、修理は必要だし、弾の補充も必要だろう。

 あえて、ありえない話だが、弾を無限に生産でき、エネルギーも無限に産出でき、修理も自分で自己完結出来るロボットなら兵站は要らないのかといわれると、そのロボットが生産された所からどうやって戦場まで持っていくかという問題があるので、やはり兵站のお世話にはなるだろう。ではその問題すら解決したらどうか、という話も有るがそれについてはまたの機会にしよう。

 

 この二つだけならよく列挙されていることだと思う。しかしこれだけであろうか? 


 実際の具体的な例を挙げて見てみたい。その実例はベトナム戦争が適当であると思われる。

 ベトナム戦争において米軍をはじめとする西側諸国軍は上記二つの条件を敵である東側の各国軍に対して

圧倒していたと言って基本的にはいいと思う。しかしなぜか戦争に勝利するに至らなかったのは周知の事実である。純粋に軍事的にこの戦争を見てみると圧倒的なアメリカの質と量に支えられた戦闘力に対して圧倒的劣勢に立たされた北ベトナム、と言う構図が見えてくる。しかし米軍はその圧倒的戦闘力を効率的に発揮できたのだろうか? おそらくその枷こそがこの戦争の敗因であり、そして残りの戦争に勝つ条件であると思う。私の答えも答えになっているかは分からないが、私はこれをドクトリンだと思っている。もちろんここでは軍事ドクトリン単体ではない、おそらくそれに影響を及ぼす政治や外交にまで及ぶドクトリンであろう。これは戦争が外交の外交は政治の延長線にあると言うことを考えれば、何を当たり前のことをといわれるかもしれない。しかしこれを複合的に解析、理解することは非常に難しいのではないだろうか。つまり戦争において軍事面だけを見たところでその勝敗は決定しえない。単純に軍事力だけで国家間の紛争を見ることが如何に危険なことか。


 「シャムシよ。お主が起点である。今年の収穫が終わった時期には動きたいが出来るな」

 王はシャムシに尋ねる。まあ、正確に言えば念を押す、加えてここにいる全員に対しても。

 

 「もちろんです、間に合わせます。兵はいかほどを差配できましょうか?」

 シャムシは膝を折り恭しく断言し尋ねた。もちろんコウジ達の多大なる貢献を思いっきり当てにして。

 

 「残り3千に加え難民からの徴募兵を出来る限り加えよ。バビロンにも、エラムにもこちらが無理をしていると見せねばならんでな。アミヌ、兵として使えるのはどれ程だ?」

 やはりイラ・カブカブ王とて焦りがあるようだ。考えれば当然でも有るが。

 

 「サクウィ周辺からが一番多くて2千、一族郎党全てを連れてきています。あとはハバニ周辺から千、マラハム、ネイバからも難民は流れてきていますが、まだ少数です。他の地域と合計したら6千ほどになるかと思います。その内、兵と成れそうな者を根こそぎ動員すれば3分の1は可能か、と。これらは私がアバリで編成した兵を当然除いてではあります。もし彼らから兵を徴募しようとするとありとあらゆる物が足りませんからな」


 「では、それらを加えて5千程となるか。シャムシよ。出来るか」

 こんどは少し念押しが柔らかかった。


 「はい」


 「ほう。自信が有るように見える。貴様の手並み、拝見といこうか。シャムシ」

 アミヌがシャムシに笑いながら発破をかける。


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