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プロローグ

ジャラ...ジャラ...。


王都の中心街

鎖が石畳を擦る音が響き渡る。


ーーどうして、こうなった。


空は灰色の雲に覆われ、澱んだ空気が漂う。


「化け物が!」

「この人殺し!」

「私の家族を返せ!」


街の中には自分を罵り、不敵な表情を向ける観衆たち。

今までとは正反対の言葉を自分に向けてくる。


ーーいったい、今までなんのために。


街中に響いていた鎖の音が街の中心地に近づく。


ーーようやくて手にした幸せだったのに。


そして、徐々にその姿を現した。


ーーどうして、こうなったってしまったのか。


視線の先には人一人吊るせるだけの十字架が建てられていた。

そして、十字架の前には数え切れないほどの観衆の姿があった。


「これより、元勇者ーーレクスの罪状を読み上げる。」


「このものは、国を代表する勇者という立場であることを利用し、他領へ侵入し、あまつさえ領民・領主を手にかけた。」

「これは殺人罪であると同時に重大な反逆行為である。」

「よって、スペルベール王国 第5代国王 ドミトレス・ヴァウ・スペルベール陛下の名の下にーー。」

「火刑に処す!」


そう、これが俺の行き着く場所だった。


レクスは十字架に吊し上げられると手足を太い杭で打ち付けられた。

それを見て、数え切れない怒号と歓声の声が入ってくる。


ーーああ、どうして今まで忘れていたんだろうか。


歓声とともに向けられる視線にどこか既視感を覚えた。


攻撃的な視線。

憐れむような視線。

見下すような視線。


ーーどれもこれも’前世’で向けられたものだ。


この世界ではない。

地球という、別の世界。


前世の俺は誰からも必要とされなかった。


家では優秀な弟に居場所を奪われ。

学校では気に入らないといじめられ。

社会に出れば同僚に手柄を取れ。

恋人には別の男がいると裏切られた。


助けを求めても誰にも手を差し伸べられず、信じていた人間に裏切られた。

もう、何も信じることができなくなった。

人間なんて、結局自分のために他人を利用する生き物なんだと。


そして最後には、重い病で病室で誰にも看取られることなく終わった。


だが、気づくとこの世界で再び生まれた。


なぜだかわからないが俺は、もう一度生きる機会を与えられたのだ。


ただ、最初は誰も信じることはできなかった。

どうせ、この世界の人間も同じだと思っていた。


けれどーー。


この世界は俺を受け入れてくれた。


温かい家族。

気兼ねのない友人。

背中を預ける仲間たち。


仲間たちとは魔王討伐の任命を受けて苦楽をともにした。

何度も助け合い、くだらないことで笑い合える、本当の仲間。


そして、念願の魔王の討伐を果たした。


国に帰還すると、街は総出で歓迎してくれた。

自分を讃える声に、尊敬の眼差し。


前世では味わえなかったもの全てが俺に向けられた。


そして。


俺には帰る場所があった。

誰もいない狭くて静かなアパートじゃない。

本当の帰る場所。


暖かな家で待つ、心の底から思い合った相手が。

そして、その一年後には妻のお腹には新しい命が宿った。


「あなたーー。」


妻のお腹にそっと手を添えてた。

お腹からは小さな鼓動と、優しいく暖かな妻の声が今でも耳に残っている。


俺は手に入れることができたんだ。

前世では得られなかった本当の幸福というものを。


ーーなのに。


あの日。

俺は、全てを失った。


脳裏には昨日のように鮮明に残ったあの日の記憶。

思い出すだけでも嗚咽が止まらなくなる。


ーーもう、どうでもいい。


全て終わってしまったことだ。

いくら嘆いても何一つ戻ってこない。


レクスの感情とは裏腹に刑の執行を待ちわびる観衆たち。


「それでは刑を執行します。」


すると、兵士の一人が松明をレクスの足元に投げ入れた。

山盛りに積まれた藁に火が燃え移り、やがて丸太へと広がった、そしてレクスのすぐ足元まで火が迫ってきた。


だが、不思議と暑さを感じない。


そう。


暑さや苦痛を感じなくなるほど、レクスの心は憔悴しきっていた。


ーーああ、ようやく終わる。

ーーこの悲しみの地獄からようやく解放される。


すでに炎は体を焼き始めた。

だが、やはり何も感じない。


レクスはそっと空を見上げる。


ーー今そっちに行くよ。

ーーミア。


そして、ゆっくりと瞳を閉じていく。


その時。


民衆の奥。

物見台には見知った顔馴染みが見えた。


そこには、かつて魔王討伐をともにした仲間たちの姿だった。

そして中央にはこの国の国王。


薄れゆく意識の中、何か違和感を覚えた。


全員がこちらを見ながらになやら話している。

それは、かつての仲間が処刑されることによる哀れみでも悲しみの表情でもない。


そう。


全員が口元を緩め、嘲笑を浮かべていたのだ。


旅の中で何度も見てきた笑顔。

けれど、今の彼らの顔に浮かんでいるのは、俺の知っている笑顔ではなかった。


その瞬間、あの日のことが脳裏によぎった。


王からの謎の勅命。

仲間たちの不審な行動。

反逆罪で捕えられた時の状況。


レクスの中で全てのピースが重なった。


そして。


「...はは。」


乾いた笑いが、喉の奥から漏れる。


「...ぁははぁはは。」


抑え切れない感情の奔流がレクスを襲う。


「はっはははははぁ!!!!!」


今まで一言も発さなかった元勇者の突然の狂笑に、その場にいた全員が沈黙した。


「そうか、そういうことか...。」


おかしいと思ったんだ。


訳のわからない任務に強制的に向かわされ、いった先には何もなかった。

帰宅すると村は瓦礫の山と化していた。


そして、そこにはーー。


レクスの感情の底から徐々にドス黒い感情が浮上してきた。


「...てやる。」

「全員殺してやる!」


ーーああ、やっぱり。


「王も!」


ーー変わらない。


「お前たちも!」


ーーどの世界だろうと変わらない。


「この世のすべての人間を!」


ーー人間という生き物は変わらない。


「俺の味わった絶望を必ず...。」

「この地獄の業火とともに味合わせてやる!」


ーー醜く欲望に塗れた存在であることは。


炎は激しく燃え上がり、やがてレクスの身体を黒く焼き尽くした。

残されたのは、炭化した人影だけ。


観衆の間に困惑の声が広がり、物見台の王たちにも動揺が走る。


だが、もう誰にも止められない。

この日、王国は勇者を処刑した。

誰もが、これですべてが終わったと思っていた。


――それが、新たな災厄の始まりになるとも知らずに。



=========================


月が煌々と輝き、崩れた天井から青白い月光が差し込んでいた。

その光だけが、冷たく薄暗い空間を照らしている。


光の先にあるのは、石造りの玉座。

そこには、一人の青年が腰掛けていた。


月光を一身に浴びながら、青年はゆっくりと目を開く。


――さあ、目覚めの時だ。

お忙しい中お時間を割いていただきありがとうございます!


いかがでしたでしょうか?


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作者のやる気につながります!

読者の方が満足できるお話を書けるように頑張ります。

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