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今更好きだと言えない  作者: 秘翠 ミツキ


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アイリーンは、実家の屋敷の門を潜った。実家に帰ってくるのは、ひと月ぶりだ。


あれから、1年が経ち、あの後シェルトは療養の為再び城に軟禁された。アイリーンも毎日は無理だが足繁くシェルトの見舞いに通った。


時同じくしてシェルトからこんな話をされた。



「改めて、君に言いたい。僕の妻になって欲しい」


その言葉にアイリーンは、嬉しさに涙し目眩すらした。そして……。


「こんな、私で良ければ。私をシェルト様の妻にして下さい」


それからはもう、アイリーンとシェルトは目に余るほどのイチャイチャ、ラブラブ振りで、これまでのユリウスとレベッカとの三角関係の噂など直ぐに消え去っていった。


社交界は、暫くアイリーンとシェルトの婚約話で持ちきりで、ユリウスとの婚約破棄後を狙っていた令息達は密かに涙したとかしないとか。






「お兄様、お久しぶりです」


アイリーンが、書斎に入るとクラウスは椅子に腰掛け本を開いていた。



「あぁ、アイリーンか。お帰り」


「はい、ただいま戻りました」



アイリーンは、嬉しそうにはにかむと、クラウスの隣に腰掛けた。程なくして、書斎に侍女がお茶を2人分運んでくる。


「アイリーン、2日に1回は顔を見せるように言っているだろう」


クラウスの言葉にアイリーンは、苦笑いを浮かべた。相変わらずだなぁ、と。


「お兄様、私もそんなに暇を持て余している訳ではありません。来月にはシェルト様と正式に婚姻を結びますし、()()()()()()()()()()勉強する事も沢山あるので」


シェルトが、いくら第3王子であろうと王族に変わりはない。シェルトの妻になるなら、妃としての嗜みを身につけなければならない。


これまで、公爵令嬢として培って来たものは役には立つが、妃とはまた別物だった。公爵家だって、元を辿れば王族に行き着く。だが、所詮ただの貴族に過ぎない。王族とはまるで違うと実感せざるを得ない。この1年近く、それはもう厳しい道のりだった。



妃になるって、こんなに大変なんですね。


別に妃になりたい訳ではない。自分はシェルトの妻になりたいだけだ!なんて泣き言も言い訳も通用しない。


「……最近、その『シェルト様の妻として』が口癖になっているな」


クラウスは、アイリーンを呆れたような目で見ている。会う度に、シェルト様の妻として、シェルト様の妻としてと言われ、正直クラウスは複雑だ。


「へ……そんな事は」


アイリーンは、口を反射的に押さえた。


そんな事はない、そう言おうとして言葉を呑み込んだ。自分では意識してはいなかったが、改めて言われると確かに、言っている。


そこでアイリーンは、ある事に気がついた。



ちょっと、待って……この台詞どこかで聞いた覚えが……。


幼馴染として、友人として。アイリーンはふと、ユリウス、レベッカ、パトリス達を思い出した。


幼馴染として、幼馴染として。


友人として、友人として。


あの時正直、気持ち悪いとさえ感じたこの物言いだが、気がつけば自分も同じ風になっていた。クラウスに、指摘されるまでまるで気づかなかった……。


私が、あの人達と同類……。


「そんな事、あるだろう」


クラウスの追い討ちをかける言葉にアイリーンは、ショックのあまりカップを手から落としてしまった。


「熱っ……」


「へ、あ、お兄様⁈ごめんなさい、私ったら‼︎」


カップを落とした先は、自分の上ではなく直ぐ隣に座っていたクラウスの上だった。そして、熱いお茶をかけられてたクラウスは熱さに悶える。


「い、今冷えた布をっ!」


侍女に冷たい布を用意して貰い、アイリーンは少し赤くなっている手の甲に当てた。眉を寄せ申し訳なさそうにしているアイリーンに、クラウスは思わず痛みも忘れて頬も緩む。



「アイリーン、もう大丈夫だから。ありがとう」



暫く至福の時間を堪能したであろうクラウスは、アイリーンの頭を撫でるとそう述べた。


「お兄様……私、あんなにユリウス様達に『幼馴染として』『友人として』と言われて嫌な思いをしたのに、気づけば自分で同じ事をしてました。私、ダメな子です。こんなんじゃ、シェルト様の妻になんてなれない……」


此処の所シェルトと結婚出来ると舞い上がっており、幸せ過ぎてまるで周りが見えていなかった。きっとクラウスも嫌な思いをしたに違いない。


「そうか……なら、ずっと此処にいてもいいんだよ。君は僕の可愛い妹なんだ。遠慮は必要ない。父上達も、もう此処には一生戻る事はない故、気兼ねなく兄妹水入らずで過ごせる」


「お兄様……」


思えばクラウスには、与えて貰うばかりで何も返す事がなかった。もしかしたら、これは兄孝行しなさいという神様からのお告げだったりして。


また、そんな下らない事をアイリーンが考えていた矢先、書斎の窓が音を立てて勢いよく開いた。


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