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「あれ、聞こえなかったかな?気持ち悪いねって言ったんだけど」
シェルト様、どうなさったのかしら。何か悪い物でも食べられた、とか……。
アイリーンの顔に、汗が一筋流れた。
別にユリウスが、気持ち悪くないと言っている訳ではない。寧ろ同意見で、アイリーンも気持ち悪いなぁとは思ってはいる。
先日の屋敷を訪ねて来た時も、今日のこの部屋を見ても……いやもっと以前から思ってはいた。幼馴染、幼馴染と言いながらレベッカを庇う姿に、予々気持ち悪いとは思っていた。
だが!それは、流石に口にするのはマズイ。シェルト様、それはマズイです!しかも、こんな公衆の面前で。もし言うなら、せめて2人だけの時とかに……もしかして、ワザとなんですか⁈
アイリーンは、シェルトの背中越しにユリウスを盗み見た。だらし無く口を半開きにして、呆然として立ち尽くしている。まあ、無理もないだろう。
2回も堂々と面と向かって、気持ち悪いねと言われたのだから。自分だったら暫く立ち直れない。
「……しぇ、シェルト、貴方、何言って」
ユリウスだけでなく、周りも固まり沈黙が続く中、それを破ったのはレベッカだった。かなり、動揺している。というか、もう泣き真似はしなくて宜んでしょうか?レベッカ様。
「もしかして、皆耳が悪い、とか?」
「は?違うわよ!そうじゃなくて、よくそんな失礼な事言えるわね⁈」
シェルトはその言葉に、レベッカに鋭い視線を向ける。
「失礼な事?じゃあ、君がアイリーンに毎回言っている事は失礼ではないのかな。先程も、随分と色々言ってたみたいだけど」
「は、なんでそんな事知って……」
レベッカは、言いかけて口を噤んだ。その様子を見てシェルトは、笑った。目だけは笑っていないが。
「僕を余り、甘く見ないで欲しいな。大事なものを守る為なら、手段は選ばない」
大事なもの……それって……私の、事?
「レベッカ、これまで君がしてきた事は決して許されない。先日、父上からお叱りを受けたにも関わらず、本当君は懲りないね」
レベッカは、唇を噛みシェルトを睨んでいる。何か言いたげだ。
「ユリウス。それと、公爵方。先日父上からアイリーンとユリウスの婚約は解消する様にと、お達しがあった筈ですが、ご覧になりませんでしたか?全く、こんな強行手段に出るとはね……。命令に背いた以上、それなりの処罰が下る事は覚悟して下さい」
シェルトは、大袈裟にため息を吐いて見せた。
「それにしても、アイリーン。君のご両親方は随分と素晴らしい思考の持ち主だね」
シェルトの言葉に、アイリーンの両親もユリウスの両親も、急に焦り出すと必死に陳腐な弁解を始めた。その様子にアイリーンは、スッと心が冷えていく感覚を覚えた。
項垂れながら、シェルトに許しを請う姿は酷く滑稽で情けなくて、愚かだ。そこに、貴族としての誇りなどカケラもない。
アイリーンは、無意識にシェルトの横をすり抜け、ユリウスや両親達の前へと歩いて行った。シェルトは、そんなアイリーンを見守っている。
「あ、アイリーン、お前からも殿下に誤解だと説明しなさい。ユリウス君との婚姻はお前の意思でもあると言いなさいっ」
弾かれたようにアイリーンを見遣る父は、アイリーンに縋るように近付いて来た。
誤解?誤解なんてない。今まで私はレベッカ様から嫌がらせを受けてきた。ユリウス様は、全て私が悪いと仰って責めるしかなさらなかった。
お父様やお母様達もそう。
私は、貴方達にあるがままを話した。でも、誰1人としてまともに取り合ってくれなかった……そればかりか、無理やりユリウス様と結婚させようとさせてきた……。
ハッキリ言います。
気持ち悪い。お父様も、お母様も、ユリウス様も、レベッカ様も……気持ち悪い、嫌いです、顔も見たくないっ。
……私、貴方達の娘をやめます。ユリウス様と婚約破棄します。




