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何、この状況。誰か説明をお願いします……。
「アイリーン……君は私の事をどう思っている?」
ユリウスはアイリーンの手を両手で、ぎゅっと握っている。ちょっと気持ち悪……と密かに思った事は言えない。
そして、実に簡単な質問ですね。寧ろ愚問とでも言いたい。
鬱陶しい。堂々と幼馴染と浮気をするダメな婚約者。幼馴染大好き。寧ろ幼馴染命⁈頭大丈夫ですか?こんな人だと思わなかった。早く婚約破棄して下さい。そして、今後私に関わらないで下さいね。まあ、このくらいで許してあげましょう。
あ、もう1つ大切な事が!貴方に全く興味がありません。以上です。
アイリーンはこの様に言いたくて言いたくってしょうがないが、ぐっと堪えた。流石に言えない。
「そうですね……ユリウス様は、私などではなくレベッカ様との方がとてもお似合いではないかと、思っております」
まあ、色々な意味で。アイリーンは内心毒づきながら苦笑した。
「アイリーン……」
ユリウスを見ると驚いた表情を浮かべている。少しは伝わったのだろうか。
「それは……もしかしなくても、妬きもちか?」
アイリーンの思考は完全に止まった。今、何か仰いましたか?
「妬きもち……いえ、そうでは」
「そうか、やはりな」
今度は自信ありげな表情を浮かべるユリウスに、アイリーンは呆然とする。
「ユリウス、様?」
「寂しかったか」
「いえ……」全く。
「レベッカに私を取られるかと思ったか」
「いえ……」寧ろ譲りたい。
「ずっと、我慢していたのだろう」
「まあ……」意味は違いますが。
「そうか、そうか」
相変わらず、人の話聞いていないなぁ。アイリーンはげんなりする。それより、先日のお茶会の時は元気がないように見えたが……今日はいつも通りのユリウスに戻っているようだ。何かあったのだろうか。どうでも良いけど!
「アイリーン‼︎」
「⁈」
ユリウスはいきなり名を叫ぶと、顔を息がかかる程に近づけてきた。驚愕しアイリーンは声も出ない。怖すぎる……。ふとシェルトの事が頭を過る。あの時も驚きはしたが、怖くなどなかった。寧ろ嬉し……恥ずかしかった。だが、今は。
「アイリーン、その、こ、ここここん儀は、何時にする⁈私は、何時でも構わない!寧ろ今直ぐにでもいい‼︎」
取り敢えず、顔を離して欲しい……こんな話をどうしてこんな至近距離でするのか、理解出来ない。……いや、もしシェルトが同じ事をしたら……それはそれであり、かも知れない。
「ゆ、ユリウス様……落ち着いて、下さい」
アイリーンの言葉にユリウスは、ハッとしてアイリーンから名残惜しそうにするが一応離れてくれた。そしてワザとらしい咳払いをする。
「私は落ち着いている。いや、その、私は何時でもいいんだが、父上達が急かしてくるのでな」
「はぁ……」
「別に、これは政略結婚なんだ。アイリーンの事が好きで好きで堪らないとか、そんな事では断じてない!」
アイリーンは思った。早く帰ってくれないかな。
「という事で、近い内に君を私の妻として正式にお披露目をする」
いやいや、まだ正式に婚儀も挙げてないのですが⁈アイリーンが唖然としている中、それだけ言うとユリウスは去って行った。
嵐が去った。それにしても、ユリウスの頭の中は、驚くほど都合良く出来ていると痛感した。アイリーンが必死に、婚約破棄を勧めても全く聞こえていないようだった……。
取り敢えず帰ってくれたので安堵するが、話が面倒くさい事になってしまった。
先日のお茶会で、婚約破棄に近づいたと思ったのに逆に結婚へ近づいてしまった……。何故。
このままだと、ユリウスと婚儀を挙げる事になってしまう……一体、どうしたら。アイリーンは、頭痛がしてきた。




