船上の邂逅
ウィルが飛行魔法の出力を可能な限り上げて海上を直進する。視線の先には既に光の国の船を捉え、海中の巨大な魔力が船を飲み込むように迫っているのも感じ取れる。
『ウィル、聞こえてる?』
『きこえてます、せれねーさま』
頭の中で響くセレナの通信魔法にウィルは前を向いたまま答えた。
セレナからの通信はウィルだけではなくシローとカルツにも繋がっていた。
『ウィル、船が襲われているんだって?』
『おそわれてる! お船からもまほーで戦ってるみたい!』
船を覆うような大きな防御魔法や敵を突き放すような攻撃魔法がウィルの目にも見える。しかしそれらと比較しても海中の魔獣の魔力は強大だ。故にウィルは急いでいる。このままでは船が魔獣に沈められてしまう、と。
ウィルの危機感を感じ取ったシローはウィルを急かすことなく冷静に話を続けた。
『ウィル、父さんたちも向かってる』
『いそいでー!』
ウィルの声にやや焦りが混じる。それは船が沈められそうとか敵が強大だからという理由だけではない。
『ネルがまじゅーを倒すようなおっきなまほーは使えないって言ってるの!』
『そうだな』
ウィルの言葉にシローが同意する。海上で大きな魔法を使うと余波が街に届いてしまう可能性がある。場合によっては甚大な被害が発生することもあるのだ。ウィル一人では魔獣を倒した後の処理までは手が回らない。
『ウィル、魔獣の姿は見えるか?』
せめて魔獣の種類だけでも確認できないか問うシローにウィルは目を凝らした。うねる何かが何本も海面から突き出し船に纏わりつこうと伸びている。ウィルはその何かに覚えがあった。
『でっかいイカさん!』
『クラーケンですわ』
ウィルの言葉を捕捉するように水の精霊であるネル――ミネルヴァの声が加わった。ミネルヴァは飛び出してしまったウィルの心情を冷静に和らげているようだ。
『クラーケンはもう捕食の体勢に入っていますわ。その迫る魔力にウィルが反応してしまったわけですけど……船もよく逃げ延びてます。船の危機は確かにそうですけど逆に好機でもあります』
『ききがこーき?』
ウィルはミネルヴァの言っていることがよく分からなかったがシローたちにはミネルヴァの言いたいことが伝わっていた。
『分かりました。ウィル』
シローが短く理解を示すとシローはウィルに話を振った。
『なーにー?』
『父さんとカルツが着くまで魔獣の注意を引けるか? 魔獣を船から引き離すんだ』
それはウィルにとって単純に魔獣を倒すより難しいことだ。倒せるだけの大きな魔法を使わず注意だけを引き付けて船を逃がす。
しかしウィルは迷わなかった。
『わかったー。やってみるー』
快く了承してウィルが戦場への集中を高める。やることがはっきりした分、気合も乗りやすい。
『頼んだぞ』
シローが現状をウィルに託して通信が切れる。しかし魔力的な繋がりはまだ感じられた。呼びかければすぐに繋がる。セレナの通信魔法の細やかさがよく分かってウィルの表情が自然と緩んだ。
しかし状況は思った以上に良くない。
「あれ!」
ウィルを運んでいたアジャンタが戦場の変化を指摘する。クラーケンの触腕が船の両舷を挟み込むように海面から突き出していた。
『船の真下に潜り込まれたのですわ!』
あのままでは船を抱え込んで破壊することも巨体を起こして船を持ち上げひっくり返してしまうことも容易にできてしまう。
このまま真っ直ぐ飛んで行っても間に合わずウィルが鋭く指示を出した。
「シャークティ、お船の上のざひょーを! アジャンタ、とぶよ!」
それは不完全ながらウィルが習得した空間転移。座標も空なら障害物を気にする必要はない。とはいえ飛行中のウィルには細やかな魔力操作の連続だ。シャークティだって空中の座標を固定するのは簡単なことではない。
だがやらねば船がやられる。
『座標固定!』
「空間確保!」
シャークティとアジャンタがウィルの無茶振りに応えて仕事をこなす。構築された魔法の構造にウィルが最後の一手を加えた。
「とべ!」
空間転移が発動してウィルの姿が消える。次の瞬間にはウィルの体は船を見下ろせる位置にいた。
直前の飛行魔法の消失により姿勢を崩しそうになるのを新たな飛行魔法で繋ぎ止めウィルが体勢を立て直す。
眼下には追い込まれた船。さらにその向こう側の海中には迫り来るクラーケン。
『この位置ではクラーケンに攻撃することも難しいですわ!』
ミネルヴァの指摘はもっともでクラーケンを攻撃するにも船が間に挟まっている。さりとて位置をずらしても海中にいるクラーケンへの有効打は見込めない。
触腕を攻撃して時間を稼ぐか、それとも危険を承知でミネルヴァを海中に向かわせて攻撃するか――
だがウィルの頭の中にはどちらの選択肢も入っていなかった。
「ネル、アジャンタ、合わせて!」
ウィルの魔力の意図を感じ取った精霊たちが声にならない驚きを露わにする。ウィルの意図があまりにも力技過ぎたのだ。
そんな精霊たちを置き去りにウィルが魔力を高める。海面に向けた左手には水の魔力を、船に向けた右手には風の魔力を。魔法とも呼べない魔法を無理やり構築して海に道の流れを作り風で船を支える。
その無茶苦茶な魔法をウィルは咄嗟に叫んだ。
「秘技、お船ずらし!」
なんということでしょう。今まさにクラーケンの触腕で挟み込まれようとしていた光の国の船はウィルの敷いた海の道を風に支えられて高速で移動したではありませんか。
とんでもない勢いで滑走した船はクラーケンの腕を掻い潜り、そのまま進路を港の方へ変えるように弧を描いて止まった。
あまりの出来事に騒いでいた船の乗員どころかクラーケンまで固まる。
そんなクラーケンをウィルが見逃すはずがない。
「これで一対一だよ! こい!」
事態に追いつけず動きを止めたクラーケンに差し向けたウィルの掌から【暴風の直槍】が放たれて海面を穿つ。海面近くまで浮上していたクラーケンだが海水が邪魔をしてウィルの魔法の効果は限定的だ。それでもクラーケンがウィルを邪魔者と認識するには十分であった。
『さすがですわ、ウィル。これで船が離れてくれればいいのですけど……』
すかさずウィルの行動を褒めるミネルヴァであったが声音に苦笑ともつかないニュアンスが含まれているのは間違いではないはずだ。いかに精霊といえども海に道を作って船をかっ飛ばすなんて発想が生まれるはずがない。あらゆる魔法属性を知り得ているウィルだからこその発想であった。
そんなウィルたちであったがクローディアがすぐ異変に気が付いた。
『船、止まったままだわ……どこか壊れたのかしら?』
『いえ、おそらく……』
シャークティはなんとなく船が港を目指さない理由を察していた。乗員たちも自分たちが高速で移動したことに気付いているだろう。そして助けに入ったのがウィルであることもウィルの【暴風の直槍】で気付いたはずだ。船が港に向けられていればその意図にも気づいたかもしれない。
だがしかし、海の難敵と対峙しているのは幼いウィルなのだ。このまま船が港を目指すということは幼いウィルを置き去りにして逃げるということ。それを「はい、そうですか」と受け入れられる大人がどれほどいるというのか。
精霊たちは殆どトルキス家の大人たちとしか交流していないが少なくともその中に子供を置き去りにできるような大人は見受けられない。船の乗員たちもおそらくそうなのだろう、と。
クラーケンがそのことに気付いて再び船に狙いをつければ元の木阿弥だ。
「ウィルはだいじょーぶなのにー」
そうは言ってもみんながみんなウィルの強さを知っているわけではない。危なくなっても高度を上げるだけでウィルは事なきを得るが船の乗員がそのことにすら気付いているのか怪しいところだ。
だがクラーケンは待ってはくれない。
『来ますわよ、ウィル』
水の動きに敏感なミネルヴァがいち早く警鐘を鳴らす。動き出したクラーケンがその腕をウィルへと伸ばしてきた。
「このっ!」
ウィルが魔弾で応戦する。迫る腕を器用に魔弾で撃ち落として拮抗を維持した。その隙に二本の触腕を迂回させてウィルを挟み込んだ。
うねる触腕がウィルへと迫る。
回避しようと飛行魔法に注力したウィルだったが触腕が届くことはなかった。
「あっ……」
後方から飛んできた魔法の斬撃が二本の触腕をそれぞれ切り飛ばす。それが良く知る魔力であったことからウィルの表情が綻んだ。
「とーさま、カルツさん!」
「待たせた、ウィル」
「お待たせしました。さすがですね、ウィル君」
シローとカルツがウィルの背後に出現してそれぞれクラーケンの触腕を斬り飛ばしたのだ。近付いてくる気配がしなかったところを考えるにカルツの空間魔法で転移してきたらしい。
シローとカルツも揃って三人で眼下のクラーケンを注視する。一方クラーケンは軽々と触腕を斬られたことに警戒しているようであった。
「ぜんぶ斬っちゃう?」
ウィルが攻めの指針をシローに確認するとシローはクラーケンを見たまま否定した。
「そうしてもいいがクラーケンの再生能力はすさまじい。斬られた触腕もすぐに復元する。あまり有効ではないな」
シローが説明している間も再生は進んでいるようだ。クラーケンを倒すには急所を責めるしかない。
「クラーケンには目と目の間や頭と胴体の付け根に急所があります。クラーケンの体は強靭ですがそこを貫ければ倒すことができますよ」
「へぇー」
カルツの説明にウィルが感嘆の声を上げる。その会話にセレナも通信魔法で入ってきた。
『ひょっとして先程ミネルヴァ様がおっしゃっていた船の危機が同時に好機だという話はクラーケンの急所が突きやすくなるからですか?』
「おお!」
セレナの言葉でウィルにも気づくものがあった。確かにクラーケンが海中深くに沈んでいたら急所を責めるのは難しい。大きな魔法で天然の防御壁となっている海水ごと貫かないと攻撃は届かない。だが今は捕食態勢に入っていたクラーケンが海面まで浮上してきている。攻撃はより届きやすい。
「そうですね。クラーケンは普段深海にいて水の中から腕だけを延ばしてきます。海上に姿を現すのは主に捕食の時のみ。しかも大きな体を持つクラーケンは海上付近では素早く移動することができません。討伐するには絶好というわけです。おそらく船が沈められず耐え続けた結果、このクラーケンは海面まで浮上してきたのでしょう」
それはとても珍しいことである。なぜならクラーケンの攻撃によって早々に沈められてしまう船も多く、またクラーケンもこれほど港の近くまで接近することはない。光の国の船をよほどいいエサだと判断したということだろうか。
「で、どーする?」
触腕をほとんど再生し終えて再び動きを活発化させるクラーケンを見つつウィルが問う。どうやらクラーケンに撤退する意思はなさそうだ。それはシローたちも同じで一度人間に牙をむいた魔獣を放置するわけにはいかなかった。
「父さんがクラーケンの急所を突くよ」
「それには相応の魔力が必要ですが?」
シローの決定にカルツが疑問を投げかける。いかに海面付近に浮上しているとはいえクラーケンの急所は海上に出ていない。海水ごと打ち抜くには相応の威力が必要だ。
だがシローは引き抜いた魔刀の切っ先をクラーケンへと向けて構えを取った。ピンと張りつめた魔力が一点に集中されてそれを見たウィルが感動で背中を震わせる。
「聞いてます? 余波を完全に抑えるのは難しいですよ?」
「余波はカルツが抑え込んでくれ。できるだろ?」
「また無茶苦茶なことを言う……」
シローの提案にカルツが思わず嘆息してしまう。だがそれ以外に良い方法がないのも事実なのかカルツが魔力を込め始めた。
「スート、手伝いなさい」
「へーい」
カルツと契約している空属性の精霊スートも姿を現しシローの攻撃の余波に備える。大きく海域へと干渉しようとするカルツたちの魔力も見事なものでウィルの目の輝きは増すばかりだ。
「ウィル」
「はい」
シローはウィルにも指示を与えた。
「カルツでも余波を完全に抑え込むのは難しい。海に広がった余波をウィルも抑えてくれるか?」
水属性の精霊であるミネルヴァと契約しているウィルならそれも可能だ。そう考えてのシローの指示にウィルは快く承諾した。
「はーい。やるよ、ネル!」
『心得ましたわ』
ミネルヴァからも色よい返事が返ってきてウィルが集中を研ぎ澄ませる。
シローが全員の準備が整ったことを感じ取るのとクラーケンが動き出したのはほぼ同時であった。
「刺閃烈風!」
シローの強烈な刺突が魔力を伴って空気を切り裂く。一条の閃光のような武技はそのまま海面を穿ってクラーケンを貫きクラーケンの背後の海中にまで風穴を開けた。
開いた風穴に海水が殺到して海がうねる。
「従えスノート。隔離の狭間、我が敵を捕らえよ空列の牢獄!」
カルツが海のうねりを抑えるために空間を切り取ってクラーケンごと閉じ込める。それでも抑えきれない余波で波の嵩を増した。
そんな海にウィルが魔力を展開する。
「おさえるよ、ネル」
『お任せなさいな、ウィル』
ネルの魔力に導かれてウィルの魔力が高波の素を次々と抑え込んでいく。その魔力の動きにウィルは感動を覚えながらひたすら魔力を込め続けた。
やがて海は元の穏やかさを取り戻しウィルとカルツが同時に魔力を緩めた。
「……おわった?」
「ああ」
ウィルの確認にシローが短く答える。シローにくし刺しにされたクラーケンの目と目の間には穴が穿たれ絶命したクラーケンが海に浮かんでいる。
どうやら討伐の余波もなくこのまま港までクラーケンを運べば事は済みそうだ。巨大なクラーケンであるが魔力で強化されたその体は美味らしい。解体は冒険者ギルドと漁師たちに任せることになるだろう。
達成感と今までにない魔力操作を行ったことによる興奮でウィルは笑みを深めていた。
「その前に挨拶をしとかないといけないな……」
魔刀を鞘に納めたシローが視線を光の国の船へと落とす。その視線を追ったウィルは船上でこちらを見上げてくる乗員たちを見て新たな楽しみを見つけたような表情をしていた。
相手を威圧しないようにシローたちはゆっくりと光の国の船へと降りていった。
「おーい、おーい」
手を振りながら船へ近付いていくウィル。物怖じせず前に出ていくウィルの性格は友好的に接したい時は非常に助かる。空を飛んでいる以上は精霊との関係を疑われるだろうがそれでも先陣をきるのが好意を隠そうともしない幼いウィルであればいきなり敵対する関係にはならない。
船員たちは警戒しつつもシローたちの乗船を拒みはしなかった。
「責任者に取り次いでいただきたい」
シローがそう申し出ると出迎えた乗員の中にその人物はいた。
清潔感のある美しい女性で他の乗員とは異なる白いローブを身に纏っている。そのローブがそのまま彼女の地位を示しているようだ。
脇に女性騎士を従えた女性が一礼してシローと向かい合った。
「私が責任者です。光の国アルメアから使者として参りました聖女ロレッタと申します。隣に控えるのが護衛隊長のアルミダです。窮地のところを助けていただき誠にありがとうございます」
頭を下げるロレッタとアルミダにシローは少々驚いた。二人とも年の頃はエリスとさほど変わらないように見える。それなのに使者とその護衛として全権を任されているというのだ。よくみれば船乗りと思われる男たち以外は若い女性ばかりだ。
女性の扱いにそれほど慣れていないシローにとってはどうにもやりにくく感じてしまう。だが使者というのであればシローも相応に対処しなければならない。
「ご来訪、心よりお待ち申しておりましたロレッタ様。私はフィルファリア王国子爵シロー・ハヤマ・トルキスと申します。この度のアルメアとフィルファリアの協議の代表者の護衛として参加した者です。以後お見知りおきを」
「シロー・ハヤマ……ということはあなたが元テンランカーの……」
「はい、葉山司狼です。ロレッタ様」
微かに驚きを見せるロレッタに笑みを返したシローは後ろに控えるカルツとウィルをロレッタに紹介した。
「こちらが我が友で相談役のカルツ。そしてこちらの子供が我が息子ウィルベル――」
笑みを浮かべて軽いお辞儀を見せるカルツと何かに気を取られてよそ見をしているウィル。紹介している身としてはどうにも締まらずシローはウィルの態度に小さく嘆息した。
シローがウィルの視線を追うと少女が仲間に付き添われて船室の方へ向かうところであった。
「ウィル。紹介しているときぐらいこっちを向いてくれないか?」
「ちょっときになりましてー」
シローに促されてウィルが照れ笑いを浮かべる。
そんな親子のやり取りを見たロレッタたちはウィルの視線の先を確認して再度向き直った。
「申し訳ございません。あの娘は今回の付き添いに選ばれた巫女候補生なのですが病弱で……クラーケンの襲撃に飛び出してきたのですが何もできず、船室へ戻すよう指示しておいたのです」
「まほー、つかってないのー?」
ロレッタの説明にウィルは引っかかりを覚えているようだ。
確かにシローが見ても運ばれていく少女は何らかの魔法を行使したように見えなくもない。それはシローが幻獣や精霊と契約しているからこそ感じ取れる魔力の流動だ。カルツも同じように感じているはずだ。
シローとカルツはウィルほどはっきり魔力の流れが見えるわけではない。だから自分に害が及ばないのであれば気付く程度のことでそれほど注視したりはしない。
しかしウィルは違う。無視して問題ない程度の魔力の流動をいちいち気にかけたりしない。気にするだけの理由があるのだ。
それが分かっているからシローとカルツはウィルに問いかけるかどうか迷った。
その迷いの間を不思議に感じてロレッタがシローに尋ねる。
「あの、なにかお気づきなのですか?」
「あっ、いえ……」
ロレッタから何か無視できない圧力のようなものを感じてシローが言い淀む。周りを見ればロレッタに付き添う騎士たちだけではなく船員たちまでシローを注視していた。敵意ではなく期待に近い視線だ。
長旅を共にして病に伏せる少女を気遣ってきたのであれば当然と言えなくもない。その鍵をウィルが握っているのだとしたら。
ロレッタを後押しするようにアルミダが一歩前に出た。
「シロー様。あの娘は……アリーチェは急に病弱になり、国内のどの治癒術師に見せても原因すら分からぬままなのです。なにかお分かりになられるのであればどんな些細なことでも構いません。教えていただけないでしょうか?」
なぜか全員から詰め寄られるような形になってしまいシローが困ってしまう。
実際ウィルがなにかに気付いたのであればその内容が何であれ確認しておくのが間違いないことだ。しかしそれはウィルの特異性をロレッタたちに示してしまうということでもある。
あまり行儀のよいことではないがシローはセレナの通信魔法を介してウィルに問いかけた。
『ウィル、あのお姉さんのこと、なにか分かったのか?』
『だいたいー』
『急がないとだめか?』
『ぜったい急がないとだめ!』
はっきり言い切られてしまった。このまま通信魔法で状態を聞くこともできるが無言の時間を長引かせてロレッタたちに不信を抱かせるのは後々のことを考えてもいい判断とは言えない。
諦めたように胸中で嘆息したシローはカルツと目配せをしてカルツが納得していることを確認すると屈みこんでウィルと視線を合わせた。
シローの行動を不思議そうに見守るロレッタたちを他所にシローがウィルに伝える。
「ウィル、気付いたことをロレッタ様たちに教えてあげて」
シローに促されてウィルがロレッタとアルミダを見上げる。
ロレッタたちもまさかウィルの口から聞かされるとは思ってもいなかっただろう。
驚きを露わにするロレッタたちにウィルははっきりと告げた。
「おねーさん、ご病気じゃないよ。あれは魔力切れだもん。たぶんおばけさんを倒せなかったせいだと思う」
「「えっ……?」」
ロレッタとアルミダは決定的に驚いた。ウィルがアリーチェの戦闘経験を知っているはずがないのだ。それなのにウィルはアリーチェが不死の存在と戦ったと知っていた。そして対峙した不死が倒されていないと言う。
実際アリーチェが不死を退けたとされていたが討伐できたかどうかはっきり見た者はいない。アリーチェたちが生き延びたから退けたとされていただけだ。
それらをロレッタたちが確認する前にウィルが呼びかける。
「ネル、バハリム」
ウィルに呼びかけられたミネルヴァと闇の幻獣であるブラックドラゴンのバハリムがウィルの前に姿を現す。
ウィルはすぐさまミネルヴァたちに指示を出した。
「おねーさんがすぐにおそわれることはないと思うけど一緒にいてあげて。その方がおねーさんも楽になるはずだから」
「了解しましたわ」
「御意」
ミネルヴァとバハリムがそれぞれ了を示して姿を消す。
その様子をぽかんと見ていた船員たちの前でウィルはシローに向き直った。
「とーさま、おねーさんを助けるためにおばけさんを倒さなくちゃいけません」
「不死か……分かった。準備しよう」
「カルツさんもおてつだい、おねがいします」
「畏まりました、ウィル君。では作戦会議をいたしましょうか」
ウィルが音頭を取って対策を講じる様子を見たロレッタとアルミダはやはり信じられないものを見るような面持ちでお互いの顔を見合わせるのだった。




