アドバイザー・千月
●某日、公園にて●
三「えー。それでは始めたいと思います」
千「いつでもこーい!!」
三「しかし、何でこうなったん?」
千「お礼よ、お礼。三ちゃんが選んでくれた服、好評だったからさ」
三「指輪のお返しに服か。ラブラブやなぁ」
千「いいでしょ。ほら、それよりボール。投げて投げて」
三「へいへい。
お礼にキャッチボールに誘うっちゅうのもどうかと思うけど」
千「三ちゃん、最近運動不足でしょ?あたしなりの気遣いよ」
三「ま、短編も無事応募できたし、たまにはええか」
千「きっとまた一次選考落ちね」
三「んなッ!?何を世迷言を!最終候補には残るはずや!」
千「ちっさい目標どうも。大賞じゃないの?」
三「自分で読み返しても何か足りん。
山場っちゅうか、アクセントっちゅうか」
千「書き終えた時は面白いと思ってたんでしょ?」
三「当たり前や。自分が楽しむのが第一やと思てるからな」
千「それがダメなんじゃないの?」
三「そうか?」
千「三ちゃんはオタクで、頑固で。
その上、意地が悪くて、知識に偏りがあって……」
三「千づっちゃん?もしもし?
俺の人格が疑われるような発言は控えてもらえへんかな。
あと発音が……」
千「おまけに執着心がなくて捉えどころがないような人じゃない?」
三「聞く耳なし!?
そうか、千づっちゃんは俺のことをそんな風に見てたんやな」
千「事実じゃないの。世間とずれてる気がするのよ」
三「何を今更。自分を貫くのが自分である証明。
世間からずれたところで俺は俺や」
千「それがなくなったら三ちゃんじゃなくなるものね」
三「そうや。
信念は勝手に折れるとか、何かに折られるとか言うもんやない。
自分で折るか折らんか。全ての責任は自分にあるべきや」
千「そこよ」
三「ん?」
千「そこを貫きすぎるから共感しがたい文章になるのよ」
三「む」
千「書くのは確かに三ちゃん。
読者第一号も間違いなく三ちゃんだけどさ」
三「ちなみに読者二号はたいがい千づっちゃんやけどな」
千「そこから先は不特定多数だもん。
世間を把握するのはやっぱり大事よ」
三「うむぅ。正論や」
千「世の中、理不尽ばっかりだって逃げたい人もいるし、
何かのせいにして楽になりたい人もいるの」
三「しかし自分の人生は自分で切り拓かんと。
誰かがどうにかしてくれるなんて夢物語やないか」
千「そーれーでーも。
それでも、逃げる場所くらいは欲しいじゃない。
滅多打ちにされてぼろぼろの主人公なんか見たくないよ?」
三「フィクションはフィクションらしく、か。
前にも言うとったのう」
千「そ。世間を参考程度に取り入れた上で、
三ちゃんの思う面白いものを書けばいいのよ」
三「簡単に言うてくれるけど、それがスッと出来たら苦労はせんのよ」
千「出来るか出来ないかじゃないの。やるのよ」
三「俺の決め台詞取られたっ!?」
千「ふふん。言う分には気持ちいいね。この台詞」
三「せやろ。勢いっちゅのは大事やからな」
千「ところでさー」
三「ん?」
千「キャッチボール、飽きたんだけど」
三「自分から誘っといてそれかい。
まだ10分もやってないやないか」
千「だって三ちゃん、球技苦手なハズなのに普通に出来てるんだもん」
三「……俺をからかって遊ぶつもりやったんやな?」
千「うん」
三「また悪びれもせんとコイツはホンマ……」
千「それこそがあたしがあたしである証明よ」
三「はぁ、負けたわホンマ」
千「あたしの勝ちね。お茶しに行こう!」
三「今のも勝負にカウント!?
大体にして、今日はお礼の名目ちゃうかったんか?」
千「あたしは有益なアドバイスを惜しみなく披露したわよ?
そりゃもう、有益すぎてお釣りがくるくらいに♪」
三「へいへい。ほな、たまには雰囲気変えて別の所に行ってみよか」
千「そう言うと思ってパンケーキの美味しいお店を調べておいたから」
三「最初からそれが目的やったんやな……」
読んでいて気分のいい文章。大衆小説にはこれが求められることが多いのではないでしょうか。それだけではもちろん味気ないと思いますが。
共感の得られる文章や引き込まれる設定。人気のある作品には何かしらのファクターがあるはずです。難しいのは、そのファクターが必ずしも文の中には無い点です。
作者の知名度、人間性。過去作の人気。販促活動も入れてもいいでしょう。
これらは、理不尽でもズルでもない。
背が高い人はバスケで有利なように、人当たりの良い人は作品をアピールしやすい。
文章だけの絶対評価は、無いと思った方がいいかもしれませんね。




