第1話「人食い箱」
新作です!
暗い……。
暗い石の中──。
寒さを感じる心もなく、暑さに茹だる意志もない身体。
ただただ、暗さを感じ。
それと同じくらいに空腹感を感じた。
それが幾年幾月過ぎたかわからない。
ただ、暗いなぁ──とやや俗っぽく感じていたとき、それは訪れた。
急激な明るさに目が霞み、
あぁ、これが光りなのかと感じた瞬間、訪れた空腹感が食欲を刺激し衝動的に目の前の御馳走に飛びつくのは、まさに本能だったのかもしれない。
そのあとはよく覚えていない。
ただただ、何か液体の弾ける音と、空気がひねり出される音がしたかと思えば、
刹那の空隙のあと、急速に満たされていく空腹感と甘美な味──。
うまい
──初めて知った、舌の上を踊るそれに満足感を覚えたと同時に、「私」は突如として自我に目覚めていた。
それと同時に鼻を衝く鉄の匂い。
そして、獣脂が焦げる臭いと、生肉から立ち上る湯気を目にした瞬間──視野すら開けた。
あれ?
「ここは──?」
そして、声がでた。
ついに「私」は味覚に続き、視野、そして声を得ることができたらしい。
五感のうち、そのほとんどを獲得したのだ。
それというのも──……。
「……ごはん??」
※ ※ ※
はい、どーもぉ。
私こと、「私」はどうやら自我を得たようです。
先ほど、
パラッパパ~♪ と頭の中でファンファーレが響き渡ったかと思えば、どうやらレベルが上がったようです。
その恩恵というか、なんというか、とにかくレベルアップによって自我を得たようでしてね。
おかげでこうして、思考力を得ることもできたわけです。
それどころか、五感のうちかなりのものを獲得したらしく、こうして声も出だせます。
「てすてす、マイクてすー。おーけー」
はい、ご覧の通りです。
まぁテスがなんなのか、マイクとかオーケーがなんなのか知りませんが、こうして無事(?)に声が出せるようになったのはいいことですよね。
ボイスはちょっと渋めというか……なんというか、壊れたスピーカーのような不気味な感じです。
男か女かもわかりませんので、まぁ、中性ということにしておきましょう。……例によってスピーカーが何のかは知りません。
おそらくなんですけど、こう、いきなり自我が目覚めるなんてことはないので、誰かの記憶のようなものがインストールされたのかもですね。
はい、例によってインス──以下略。
いや、でも素晴らしいですね!
声も出せて目も見えて、なんなら匂いもわかるし、耳も聞こえます!
そして、味を感じる舌もあるので味覚は当然として、触覚もありまーす。
──つまり、五感ですよ五感!
視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚のすばらしき五感です!
いやーいいですねー。
以前は暗いなーとか、お腹減ったなーくらいしかわからなかったので、気づいていませんでしたが、どうやらご覧のとおり全身で五感を感じることができるようになりましてね。
とくればあとは、あれですよ、あれ!
そう。ビバ・ウォーキング!!
身体の全体で五感を味わうためにも、まずは動かないとダメですよね!
そして、食後のあとはやはり運動。食べてすぐに横になると、牛になると言われるほど、食後の運動は大事です。
なので絶賛、ウォ~キングと励もうと思っていたのですがね、これが困ったことに──動けません。
──えぇ、なんなら、びくともしません。
そして、さっき「食べてすぐ横になると──」と言いましたが、横かどうかすらわかりません。
だって「私」──……。
「ミミックなんですものー」
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