第6話 最初の救い
辺境の街へ向かう途中、森の空気が変わった。
さっきまで穏やかだった魔力の流れが、ざわついている。
嫌な方向に、歪んでいる感覚。
(……戦闘中だな)
足を止め、意識を集中させる。
少し離れた場所で、必死に逃げる“気配”が一つ。
それを追う、複数の魔物。
――弱い。
逃げている側の魔力は、ほとんど感じられない。
「……放っておけないな」
俺は走り出した。
枝を避け、段差を飛び越える。
身体能力も、以前とは比べ物にならないほど上がっていた。
数十秒もしないうちに、開けた場所に出る。
「……っ!」
そこにいたのは、緑がかった銀髪の少女だった。
尖った耳――エルフ。
年は俺より少し下だろうか。
服は汚れ、足元はふらついている。
その背後には、牙を剥いた魔物が三体。
「来ないで……!」
少女が必死に叫ぶが、声は震えていた。
魔力を使おうとしているのは分かるが、量が足りない。
――間に合わない。
「下がって!」
俺は、間に割って入った。
「……え?」
少女が目を見開く。
次の瞬間。
風が唸った。
魔物たちの足元から突風が吹き上がり、体勢を崩す。
その隙に、火と土を重ねる。
一瞬で、終わった。
爆音も、派手な光もない。
ただ、魔物が地に伏す。
静寂。
「……え?」
少女は、信じられないものを見るように、俺を見つめていた。
「だ、大丈夫か?」
「怪我は?」
そう声をかけると、彼女はようやく我に返ったように頷く。
「は、はい……」
「ありがとう、ございます……」
その場にへたり込みそうになるのを、慌てて支える。
「無理するな」
「もう、終わったから」
彼女は、しばらく黙ったまま、俺の顔を見ていた。
警戒――ではない。
驚きと、戸惑いと……安堵。
「……あなた、冒険者ですか?」
「いや、まだ」
「これから、なる予定だけど」
そう答えると、少女は小さく息を呑んだ。
「……すごい、魔法でした」
「あんなの、初めて見ました」
「……そうか?」
正直、基準が分からない。
俺にとっては、さっき試した中でも控えめな方だった。
少女は、胸元で手を組み、深く頭を下げる。
「助けていただき、本当にありがとうございます」
「私は、リーファといいます」
名前を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ温かくなった。
「アレンだ」
「……無事でよかった」
その言葉を聞いた途端、
リーファの目に、涙が溜まった。
「……怖かった」
「もう、駄目かと思いました」
小さく、震える声。
俺は、どうしていいか分からず、
そっと彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫」
「もう、一人じゃない」
それは、彼女に向けた言葉であり――
同時に、昔の自分に向けた言葉でもあった。
しばらくして、リーファは落ち着きを取り戻す。
「私、近くの村に住んでいます」
「よければ……お礼をさせてください」
俺は少し考え、頷いた。
「分かった」
「俺も、辺境は初めてなんだ」
並んで歩き出す。
森を抜ける道すがら、リーファはぽつぽつと話してくれた。
村のこと。
魔物被害のこと。
王国からの支援が、ほとんど来ないこと。
(……なるほどな)
辺境は、確かに“切り捨てられた場所”だ。
だが。
俺は、隣を歩く少女を見て思う。
(だからこそ……)
ここには、守る価値がある。
追放された無能魔術師は、
この日、最初の“居場所”を見つけた。
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