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追放された無能魔術師、実は全属性適性だったので辺境で最強になります  作者: 蒼月アルト


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第54話 反発

 その男は、堂々と名乗った。


「俺は、ハインツだ」


 年齢は四十前後。

 装備は実戦向きで、手入れも行き届いている。


 冒険者だ。

 それも、長く生き残ってきたタイプ。


「境界を“踏んだ”側の人間だ」


 ギルド内が、ざわつく。


 だが、嘲りも怒声もない。

 彼の声には、覚悟があった。


「……話を聞こう」

 ロイドが言う。


 ハインツは、真っ直ぐ俺を見た。


「アレン」

「お前の考えは、分かる」


「踏まない」

「管理しない」

「判断を奪わない」


「……立派だ」


 だが、と続ける。


「それでも」

「俺は、踏む」


 静まり返る。


「理由は?」


 俺が聞くと、

 ハインツは迷わず答えた。


「救えるからだ」


 短い。

 だが、重い。


「境界を踏めば」

「近道ができる」

「間に合う」


「昨日もだ」

「踏まなきゃ、三人死んでた」


 嘘ではない。

 境界の“値段”は、命より軽い場合がある。


「……代償は?」


「払った」


 ハインツは、胸に手を当てる。


「昔の仲間の顔を」

「一部、思い出せない」


「それでも」

 彼は、目を逸らさない。

「後悔はしてない」


 ギルド内が、息を詰める。


 俺は、静かに言った。


「それを」

「他人に、勧めるつもりか」


「しない」


 即答だった。


「だが」

「止めもしない」


「選ぶのは、各自だ」


 その言葉に、

 リーファが小さく目を見開く。


「……あなたは」

「アレンさんと、同じことを言ってる」


「違う」


 ハインツは、首を振る。


「俺は」

「“使えるものを使う”側だ」


「アレンは」

「“使えるから使わない”側だ」


 視線が、俺に集まる。


「お前のやり方は」

 ハインツは続ける。

「長く保つ」


「だが」

「今、目の前で死ぬ人間は、救えない」


 正論だ。


 俺は、ゆっくり息を吐く。


「……だから」

「俺は、踏まない」


 ハインツが、眉を上げる。


「分かってる」

「お前が、冷たいわけじゃないのは」


「だがな」

「救えなかった命を、誰が背負う?」


「……俺だ」


 即答だった。


「俺が、背負う」


 ハインツは、一瞬だけ言葉を失った。


「だから」

 俺は続ける。

「他人に踏ませない」


「踏めば」

「必ず、世界が歪む」


「その歪みを」

「次の誰かが、背負うことになる」


 沈黙。


 だが、ハインツは笑った。


「……なるほどな」


「お前は」

「未来を背負ってる」


「俺は」

「今を背負ってる」


 二人の間に、

 見えない線が引かれた。


 敵意ではない。

 軽蔑でもない。


 立場の違いだ。


「……どっちが正しい?」


 誰かが、ぽつりと呟いた。


 ハインツが答える。


「どっちもだ」


 俺も、同じことを言った。


「どっちも、だ」


 だから――

 交わらない。


 ハインツは、背を向ける前に言った。


「アレン」

「お前のやり方がなきゃ、世界は長くもたない」


「だが」

「俺みたいなのがいなきゃ」

「今、死ぬ奴は減らない」


「……分かってる」


 それが、現実だ。


 ハインツは、去っていった。


 リーファが、静かに言う。


「……否定できませんでしたね」


「ああ」


「でも」

「譲らなかった」


「譲れない線だ」


 追放された無能魔術師は、

 この日――


 自分とは違う“正しさ”が存在することを、

 はっきりと受け入れた。


 それでも。


 踏まない。


 踏ませない。


 それが、

 彼が選び続ける冒険者の在り方だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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