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追放された無能魔術師、実は全属性適性だったので辺境で最強になります  作者: 蒼月アルト


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第52話 象徴になるということ

 街の空気が、少しだけ変わった。


 目に見えるほどではない。

 だが、確かに――違う。


「……最近」

 リーファが、歩きながら言った。

「視線を、感じます」


「ああ」


 俺も、気づいていた。


 恐れではない。

 好意でもない。


 期待だ。


 それが、一番重い。


 雑貨屋の前を通ると、

 ユイがこちらに気づき、手を振る。


 その仕草一つで、

 周囲の大人たちが、少し安心した顔をする。


(……そういうことか)


 俺がいる。

 ユイが元気だ。


 それだけで、

 “大丈夫な街”だと思われている。


 ギルドに入ると、

 ロイドが、珍しく難しい顔をしていた。


「……厄介だな」


「何が」


「お前だよ」


 遠慮のない言い方に、

 少しだけ口角が上がる。


「正式な依頼じゃない」

 ロイドは続ける。

「だが、“安心料”みたいな相談が増えてる」


「金は?」


「払う気はある」

「判断を、お前に委ねたいだけだ」


 つまり――

 何も起きなくても、

 “アレンが見た”という事実が欲しい。


「……受けない」


「だろうな」


 ロイドは、深く息を吐いた。


「だがな」

「断るたびに、不安も増える」


 それは、分かっている。


 安心は、

 一度与えると、

 必ず――依存に変わる。


 夕方、街の外れ。


 小さな集まりができていた。


 誰かが、言う。


「アレンさんが、見てくれれば……」


 別の誰かが、続ける。


「何もなくても、安心だろ」


 俺は、足を止めた。


 数人が、こちらを見る。


 その目は、

 助けを求めている。


 だが――

 同時に、考えることを放棄している。


「……聞いてくれ」


 俺は、静かに言った。


 騒ぎは、すぐに収まる。


「俺が、ここに立っていても」

「境界は、消えない」


 ざわめき。


「俺は」

「“大丈夫だ”とは、言わない」


「自分で確認しろ」

「自分で、引き返せ」


 沈黙。


 期待していた答えでは、ない。


 それでも。


 一人の老人が、ゆっくり頷いた。


「……それが、本当の安心か」


 俺は、何も答えなかった。


 夜。


 丘の上で、

 風に当たっていると――


「嫌われ役だな」


 旅装の男が、隣に立つ。


「慣れてる」


「象徴になれば」

 男は言う。

「人は、思考を止める」


「だから」

「お前は、象徴にならない」


「……なる気もない」


 男は、少しだけ笑った。


「だがな」

「皮肉なことに」


「“象徴にならない姿勢”そのものが」

「新しい象徴になる」


 その言葉に、

 俺は、息を吐いた。


「……逃げ場が、ないな」


「ない」


 男は、はっきり言う。


「だが」

「折れなければ、歪まない」


 風が吹く。


 男の姿は、闇に溶けた。


 追放された無能魔術師は、

 この日――


 “希望になること”よりも、

 “考え続けさせる存在であること”を、

 選び続ける覚悟を、固めた。


 それは、

 誰にも感謝されない役割。


 だが。


 境界を壊さないために、

 必要な――立ち位置だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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