第41話 連鎖の兆し
朝のギルドは、いつも通りだった。
掲示板に依頼書が貼られ、
冒険者たちが軽口を叩き合う。
平和だ。
少なくとも、表向きは。
「……増えてますね」
リーファが、掲示板を見ながら言った。
「何が?」
「“危険度不明”の依頼です」
視線を向ける。
確かに、多い。
討伐でも護衛でもない。
だが、第37話の時よりも、数が増えている。
「確認」
「様子見」
「違和感の調査」
どれも曖昧だ。
「……受けるか?」
ロイドが、カウンター越しに聞いてくる。
「いや」
即答だった。
「今日は、普通の依頼にする」
「普通?」
「森の資材回収」
「危険度・低」
ロイドが、吹き出す。
「お前、本当に変わらねぇな」
「変わらないために、選んでる」
それが、本音だった。
森は、穏やかだった。
鳥は鳴き、
木々は風に揺れる。
だが。
「……一歩、ずれてます」
リーファが、小さく言う。
「ああ」
地面の感触が、わずかに違う。
魔力ではない。
位置でもない。
感覚の“繋がり”が薄い。
資材を集め終え、
帰ろうとした、その時だった。
――ガサッ。
茂みが、揺れた。
「魔物?」
「違う」
姿を現したのは、
旅人風の男女だった。
装備は、冒険者としては中途半端。
だが、慌てた様子はない。
「……失礼」
男が言う。
「この辺り、少し妙じゃないですか?」
俺は、眉をひそめた。
「どういう意味だ」
「音が、遠い」
女が言う。
「あと……地図と、景色が合わない」
それを聞いて、確信した。
(……始まってるな)
境界の“歪み”は、
もはや一部の場所だけじゃない。
「君たちは?」
「流れの旅人です」
「国には、属してません」
その言葉に、
リーファが一瞬だけ俺を見る。
「……帰り道を案内する」
俺は、そう言った。
「ここは」
「長居する場所じゃない」
数分後。
森を抜けた瞬間、
二人は、同時に息を吐いた。
「……戻った」
「空気が、違う」
「今日は、これ以上進まない方がいい」
俺は告げる。
「境界が、薄い」
「境界……?」
男が、繰り返す。
「詳しい説明は、できない」
「理解できる人間が、少ない」
二人は、顔を見合わせ――
やがて、深く頭を下げた。
「助かりました」
去っていく背中を見送りながら、
リーファが言う。
「……アレンさん」
「今の人たち、最初から“気づいて”ました」
「ああ」
それが、問題だ。
境界は、
見える人間が、増え始めている。
ギルドへ戻ると、
ロイドが、低い声で言った。
「……さっきな」
「別の街からも、似た報告が来た」
「音が遠い」
「道が繋がらない」
「まだ、被害はないが……」
俺は、静かに息を吐いた。
(……連鎖、か)
誰かが仕組んだわけじゃない。
暴走でもない。
ただ、世界の“管理されなかった部分”が、
少しずつ表に出てきている。
追放された無能魔術師は、
この日――
境界が、点ではなく
“面”として広がり始めていることを知った。
それでも。
慌てない。
支配しない。
選び続ける。
それが、
冒険者としての在り方だからだ。
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