第28話 処分
魔術局の裁定は、早かった。再現調査から、わずか半日後には、正式な処分が文書として通達された。例外は、なかった。
「カイル・ローデン」
監察官が、無機質な声で名を呼ぶ。カイルは、俯いたまま動かない。
「虚偽報告。職務権限の濫用。ならびに、調査妨害」
一つ挙げるごとに、彼の肩が沈んでいく。
「よって、王都魔術局所属資格を、即時剥奪する」
その一言で、部屋の空気が凍りついた。
「……待ってくれ」
カイルが、かすれた声を絞り出す。「俺は、ただ……」
「動機は、考慮しない」
監察官は、顔色ひとつ変えなかった。「結果のみを裁く。それが、王都だ」
「加えて、冒険者登録も永久停止とする」
逃げ道は、どこにも残されていなかった。カイルは床に膝をついた。誰も助け起こさない。誰も声をかけない。かつて彼が周りを従えていた広間で、今は誰ひとり、彼の側に立たなかった。
「次――セシリア・ヴァイス」
彼女は静かに顔を上げた。背筋こそ伸びていたが、その目に、以前のような余裕はない。
「虚偽報告への黙認。不適切な影響力の行使」
貴族の娘にとって、最も痛い場所を突く罪状だった。
「よって、ヴァイス家の推薦枠を、正式に剥奪する」
セシリアは、唇を噛んだ。「……承知、しました」
それだけ言うのが、精一杯だったのだろう。声は静かでも、その背後で、家の後ろ盾が音もなく崩れていくのが見えるようだった。
「以上をもって、本件は完全に終結とする」
監察官が言い終えると、記録官たちが動き出した。もう誰も俺を責めない。誰も、疑わない。
廊下に出たところで、リーファがそっと隣に並んだ。
「……本当に、終わったんですね」
その声には、まだ緊張の名残がある。
「ああ」
短く答えたところへ、廊下の奥から足音が近づいてきた。
「アレン・フェルド」
冒険者ギルドマスターのロイドだった。腕を組み、値踏みするような目でこちらを見ている。
「見事だったな」
「俺は、何もしていません」
「それが、一番恐ろしいのさ」ロイドは苦笑した。「王都はな、感情に任せて復讐する人間より、静かに事実だけを積み上げる人間を、ずっと恐れる。お前は、後者だ」
少し間を置いて、彼は続けた。「さて。これから、どうする」
俺は、迷わなかった。「辺境へ、戻ります」
王都には、もう用がない。
「……そうか」ロイドは頷き、懐から一枚の書状を取り出した。「なら、餞別を一つ持っていけ。王国正式依頼――辺境監察を兼ねた、自由行動の許可だ」
つまり、誰にも縛られない権限、ということだ。
「……ありがとうございます」
「礼はいらん」ロイドは、皮肉げに口の端を上げた。「これは、王都の“後悔”だからな。受け取ってやってくれ」
書状を懐にしまう。王都の空は、今日も白く澄んでいた。だが、その白さに、もう気圧されることはない。俺を縛るものは、ここには一つも残っていなかった。
あとは、帰るだけだ。土と人の匂いのする、あの辺境へ。
だから、帰り道のあいだずっと、あの水晶球のことを考えていた。俺の何を測り損ねたのか――王都の誰も、ついに一度も口にしなかった。
王都には、もう用がありません。帰り着いた門の内側で待っているものが、拍手だけかどうかは分かりませんが。




