第1話 無能の烙印
本作は「追放」「ざまぁ」「無双」を主軸とした王道ファンタジーです。
序盤は理不尽な展開がありますが、早めに回収されます。
ストレス少なめで進みますので、気軽にお楽しみください。
魔力測定は、この世界で人の“値”を決める儀式だ。数字ひとつで進路が決まり、数字ひとつで人を見る目が変わる。
王都アストリア魔術学院、中央広間。高い天窓から差す光が、床に並んだ生徒たちの影を細く伸ばしていた。順番を待つ列は静かで、それでいて落ち着きがない。誰もが、自分の番に浮かぶ数字を思って息を詰めている。
「次、アレン・フェルド」
名を呼ばれ、俺は列を出た。
途端に、視線が集まる。期待でも、好奇でもない。値踏みだ。こいつはどのあたりか――そう測る目だった。
祭壇の水晶球に、そっと手を置く。体内の魔力総量を数値へ変える魔導具。ここに浮かぶ文字が、この先の何年かをまとめて決めてしまう。
指先が、わずかに冷たい。喉が鳴るのを、俺は奥歯を噛んで押し殺した。
(いつも通りでいい。落ち着け)
水晶球が、淡く灯る。
――その一瞬。掌の下で、光が跳ねるように強く膨れ、すぐに萎んだ。指先に、ちりっと痺れが走る。
だが、気のせいだと思った。誰も、俺自身さえ、それを見てはいなかった。
浮かんだ文字は、いつもと同じ。
――E。
広間が、半拍だけ静まった。それから、堰を切ったように崩れる。
「……は?」
「E? 嘘だろ」
「まだあんなのが残ってたのか」
失笑が、さざ波になって広がった。背中に刺さる視線が熱い。俺は黙って立っていた。反応を返せば、もっと面白がられる。それだけは分かっていた。
「はい、次」
担当教官は俺を見もせず、手の甲を振った。壊れた計器を脇へどける、そんな仕草だった。
――また、だ。
測っても測っても、結果は動かない。E判定。魔力量が底の者に押される、最低の烙印。
「やっぱり無能だったな」
背後から、聞き慣れた声。振り返ると、カイル・ローデンが腕を組んで立っていた。学院でも指折りの成績で、将来を約束された男だ。
「お前さ、まだ何か期待してたのか?」
その口ぶりには、憐れみの化粧をした嘲りがあった。「同じパーティにいたのが、今思えば不思議なくらいだよ」
隣のセシリア・ヴァイスが、扇で口元を隠す。目だけは、笑っていない。
「足手まといを庇って任務に出る身にも、なってくださいませ」
「次は、命の保証もありませんもの」
言葉は柔らかく、中身は刃だった。
俺は言い返さなかった。返せなかったのではない。返しても無駄だと、結果がもう証明している。
「というわけだ、アレン」
カイルが、決定事項を読み上げるように言う。「お前をパーティから外す。今日付けでな」
――追放。
周囲がざわめく。だが誰も、異を唱えない。俺のために口を開く者は、この広間に一人もいなかった。
「異議は?」
「……ありません」
声が震えないよう、それだけに全部を使った。
「物分かりがいいな。装備は置いていけ」
カイルは俺の腰へ顎をしゃくった。「お前が持つには、過ぎたものだ」
言われるまま、杖と簡素な防具を外す。床に置いた金具が、やけに大きく鳴った。
「せいぜい、辺境で野垂れ死なないようにな」
その一言を残して、彼らは背を向けた。誰も引き止めない。誰も、こちらを見ない。
広間を出ると、外は嘘みたいな快晴だった。青が、高い。眩しさに、目の奥が痛む。
「……無能、か」
零れた呟きは、風に攫われて消えた。
派手な魔法は使えない。力もない。それでも、必死に生きてきたつもりだった。だがこの世界は、価値がないと値札を貼れば、あとは平気で切り捨てる。
学院の門をくぐった俺を、衛兵が待っていた。
「フェルドだな。辺境への護送任務が割り当てられた」
護送――という名の、体のいい厄介払い。拒否権など、最初から用意されていない。
「日没までに出ろ。準備は済ませておけ」
背を押され、俺は歩き出す。振り返っても、王都は何も言わなかった。灰色の石壁が、ただ黙って俺を見送るだけだ。
拳を握る。掌には、さっきの痺れがまだ薄く残っている気がした。
(――覚えておけ)
この数字を俺に貼りつけた連中に、いつか言ってやる。お前たちの物差しは、俺を測り損ねたんだと。
今はまだ、何の力もない。証明する手立てもない。
それでも、その一点だけは腹の底へ沈めて、消さないと決めた。
日は、まだ高い。俺は荷を取りに、来た道を戻り始めた。
お読みいただきありがとうございます。
あの水晶球が測り損ねたものが何だったのか、この時点ではまだ誰も知りません。本人も含めて。




