最終話
ホワイトデーからしばらくして、僕は三月の街の中を一人歩いていた。三月も半ばになると随分と暖かくなっていることに気づく。
「もう春なんだ」
思わず、そんなことを呟いてしまう。それは長い冬がようやく終わったことに対する歓喜の想いから来るのだろうか。そう考えると三月の弥生さんが押すべきだったのは、春の訪れだったのかもしれない。
桜も開花までもう少しだろうか。花見は三月よりも四月のイメージが強いが、ピンクの蕾を見つけると、春の訪れを期待している自分に気づく。
三月の祝日と言えば、春分の日。昼と夜の長さが同じになるのもうれしいことかもしれない。寒い冬が終わったことを感じさせるからだ。
そんな僕の視線はある場所に向けられた。
学校である。高校生が涙を流しながら、友達と抱き合っている。
「そうか、卒業式も三月だった・・・・」
ふと、自分の卒業を思い出し、懐かしくなる。三月には色々とあるのだ。なのに、何故、女子力に拘ってしまったのだろう?三月にはこんなに自慢できるものがいっぱいあるのに。
「そうよ。私は女子力だけでない、暖かな春の訪れと、感動的な別れのイベントを併せ持つ素晴らしい月なのよ」
そう言って、現れたのは他でもない弥生さんだ。こういう場面では現れるだろうと思っていたが、どこか様子が変だ。弥生さんは何故か涙ぐんでいる。もしかすると彼女もどこかで卒業を体験して感動の涙を浮かべているのだろうか?
「それとは少し違うみたいよ」と現れたのは六月の水無月さん。
僕はもう一度、弥生さんを見る。そう言えば、どこかおかしい。涙も出ているが、鼻も真っ赤だ。
「私、この季節はダメなのよ。花粉症が酷くて・・・」
そう言うと、弥生さんはティッシュを取り出して、鼻をかんだ。確かに三月は春の訪れと共に花粉症のピークの時期でもあったのだ。
「春と言っても誰もが待ち望んでいるわけではないんだね・・・・」
僕は弥生さんを見て思わず苦笑いした。




