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鋼鉄の墓標、あるいは剥き出しの現実

エレベーターが最下層に到達し、重苦しい金属音が響く。扉が開いた先に広がっていたのは、高層ビルが墓石のように傾き、剥き出しの鉄骨が錆びた内臓のように突き出した「旧世界の廃墟」だった。


ここは世界OSのホログラムが描く「美しい現代」の裏側。旧人類が自らを去勢し、管理されることを選ぶ直前まで繰り広げられた、絶望的な戦争の跡地だ。


「……ここが、私たちの世界の『本当の姿』なのね、佐藤くん」


一ノ瀬の声が震える。かつて人々を焼き払ったであろう焼夷弾の跡や、朽ち果てた無人兵器の残骸が、冷たい風に吹かれて砂に埋もれている。

一ノ瀬が歩くたび、彼女の体から漏れ出す「聖女の熱」が、廃墟に残る旧時代の光ファイバーや回路に干渉し、青白い火花を散らす。それはまるで、死に絶えた巨人の神経系が、彼女の情動に呼応して再び脈動し始めたかのようだった。


「そうだ。システムは、この醜い争いを覆い隠すために『多幸感』という名の膜を張った。……僕たちは今まで、この巨大な死体の上で、VR(仮想現実)を見せられながら生きてきたんだよ」


佐藤は瓦礫の中に落ちていた、旧時代の軍用端末を拾い上げた。一ノ瀬の精神波によって強制起動した画面には、かつて人類が「生存本能」そのものを呪い、自ら去勢手術を志願した記録が、おぞましいリストとして残されていた。


「佐藤くん……見て、あそこに誰かいるわ」


一ノ瀬が指差す先、瓦礫の影に、ぼろきれのような服を纏った者たちがひざまずいていた。彼らは管理社会から零れ落ち、この「毒」に満ちた廃墟で生き永らえていた生存者たち――いわばナウシカにおける「土鬼ドルク」の民の変奏だ。


彼らは一ノ瀬の姿を見ると、狂信的な眼差しで這い寄ってきた。彼らの脳は、一ノ瀬から発せられる強烈なドパミン信号に渇望し、枯れ果てた末梢神経を再起動させようと絶叫している。


「聖女様……。……熱を、……私たちが生きていた頃の、あの熱をください……っ!」


一ノ瀬は悲しげに瞳を伏せ、彼らの一人の頭を優しく抱いた。

その瞬間、強烈な快楽波が生存者の神経を駆け巡る。彼は歓喜の涙を流しながら、その場で精神の許容限界を超え、物言わぬ肉の塊へと変わっていった。


「救いながら、殺している……。私はやっぱり、この世界の敵だわ……」


「……違う。君は、彼らに『最後の人間としての死』を与えたんだ」


佐藤はそう言い放つと、遠くで不気味に胎動を始めた巨大な地下構造体を見据えた。

そこには、一ノ瀬の波形に呼応して目覚めつつある、旧世界の物理破壊ユニットの影があった。

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