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美貌の余波と、孤独なショーウィンドウ

ショッピングモールの喧騒の中にいても、私の存在は静かな波紋のように周囲の人間を「停止」させていった。

フードを深く被り、下を向いて歩いていても、すれ違う人々が反射的に足を止め、私の方を振り返ってしまう。

私の視覚的な美しさは、脳の原始的な本能に直接訴えかけ、人々の会話を途切れさせ、手に持っていた荷物を落とさせるほどの強い「毒」として機能していた。


「……一ノ瀬、やっぱり無理があるわね。……あんたの存在感は、もはや物理法則を無視してるわ」


高城さんは苦笑いしながら、私に群がろうとする無意識の視線たちを、彼女の「否定」の波動で強引に弾き飛ばしていった。

彼女が周囲に「不快感」や「近寄りがたさ」を散布することで、ようやく私は人混みの中で形を保つことができていた。

クレープ屋の店員さんも、私の注文を聞く際に私の顔を少しだけ見てしまい、手が震えてトングを落としてしまった。

私の美しさは、本人が望まなくても周囲の人間から「日常」を奪い、彼らをただの「崇拝者」へと変えてしまう呪いだった。


「……ごめんなさい、店員さん。……お釣りは、そこに置いておいてください」


私が声を出すと、今度はその周波数が周囲の男性たちの心拍数を異常に跳ね上げさせ、あちこちで顔を赤らめる人々が続出した。

佐藤くんは、私の隣で必死にタブレットを操作し、店内の監視カメラの映像をリアルタイムで加工して、私の姿が記録に残らないよう処理を続けていた。


「……一ノ瀬、外に出よう。……今の君は、普通に生きようとするだけで、この街の機能を麻痺させてしまうんだ」


私たちはモールを抜け出し、人気のない古い公園のベンチへと逃げ込んだ。

ここでは風の音だけが聞こえ、私の美しさに狂わされる人間もいないけれど、それは同時に、私が社会から隔絶されていることを突きつけていた。


「……世界を救った代償が、誰とも目を合わせられないことなんて、皮肉だよね」


私は、自分を怪物のように感じてしまい、膝を抱えて俯いた。


そんな私に、高城さんは自分の飲みかけのソーダを押し付け、不器用な励ましをくれた。


「……あんたがそんな顔してたら、世界中が悲しみの周波数で共鳴しちゃうでしょ。……私と佐藤がいるんだから、それで我慢しなさいよ」


佐藤くんも、私の手を握ることはせず、ただ隣に座って、私と同じ景色を見つめ続けてくれた。

彼らは私の美貌の「毒」に対する耐性を、長い逃避行の中で自力で作り上げてきた、世界でたった二人の「対等な人間」だった。


夕暮れの公園で、私たちは静かに座り続け、遠くで聞こえる街の喧騒を、まるで別世界の出来事のように聴いていた。

私の美貌がもたらす平和は世界を救ったけれど、その代償として、私はもう二度と「普通の女の子」として群衆に紛れることはできない。

けれど、この孤独なベンチに座る三人の時間だけは、何者にもハックされない、私たちだけの真実の日常だった。

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