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制服の休日と、甘い逃避行

世界を監視する冷徹なシステムを稼働させたまま、私たちは数ヶ月ぶりに、かつての「日常」が残る街へと降り立った。

私は顔を隠すために深いフードを被り、佐藤くんと高城さんの三人で、どこにでもあるショッピングモールの喧騒に身を投じた。

「……信じられない。……あんなに世界をいじり回したのに、クレープ屋の行列は相変わらずなのね」

高城さんは呆れたように呟きながらも、メニュー表の「期間限定いちごチョコ」を食い入るように見つめていた。


佐藤くんは、世界経済のアルゴリズムを監視するタブレットを閉じ、不器用そうに三人分の飲み物を運んできた。

「……一ノ瀬、今日はシステムの話は禁止だ。……ただの高校生として、このクレープの味だけに集中しよう」


彼が差し出した冷たいカフェラテを受け取ると、指先から伝わる結露の冷たさが、私がまだ「人間」であることを思い出させてくれた。

私たちはフードコートの片隅で、世界情勢ではなく、来週の小テストの範囲や、流行りの動画配信者の話に興じた。


私がクレープを一口頬張ると、あまりの甘さに、脳に直接干渉していたときとは違う、純粋な幸福感が全身に広がった。

「……美味しい。……脳をハックして得る多幸感より、ずっと、ずっと優しい味がする」

私の言葉に、高城さんは「当たり前でしょ」と笑い、自分のクレープの生クリームを私の鼻先にわざと付けた。

周囲の人々は、この少女たちが世界の核兵器を無力化し、富を再分配した当事者だとは夢にも思わず、ただの仲の良い三人組として通り過ぎていく。


「……ねえ、佐藤くん。……私たちが守ろうとしている平和って、こういう何気ない午後のことなのかな」


私が問いかけると、佐藤くんは少し照れくさそうに、けれど真剣な眼差しで頷いた。

大国を屈服させる快感よりも、隣で笑い合う二人の体温を感じることの方が、今の私には何倍も価値があるように思えた。

システムの監視者としての孤独な義務が、この一瞬の「日常」によって、瑞々しい色彩を取り戻していく。


夕暮れ時、ゲームセンターの屋上でオレンジ色に染まる街並みを眺めながら、私たちは並んで座った。


「……明日からはまた、権力者たちの醜い足掻きを潰す作業に戻らなきゃいけないけれど」


高城さんが伸びをして、夕日に向かって不敵に微笑んだ。


「……今日食べたクレープの代金分くらいは、この世界をマシな状態に保ってあげてもいいわね」


私たちは、制服のポケットに手を突っ込み、長く伸びた自分たちの影を追いかけるようにして駅へと向かった。

駅前の大型ビジョンには、私が仕組んだシステムによって平和が維持されているニュースが、音もなく流れている。

けれど今の私たちは、それを誇る英雄ではなく、ただ明日の学校が少しだけ楽しみな、どこにでもいる若者だった。

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