調律される世界、境界線の融解
横田基地からの全世界配信は、確かに国家レベルの動きを封じたが、現場の狂気までは焼き切れなかった。
アフリカ東部の資源紛争地では、デジタル信号を「悪魔の幻惑」と断じる武装勢力が、外部との通信を物理的に遮断し、略奪と虐殺を加速させていた。
「……一ノ瀬、画面越しじゃ届かない場所がある。……僕たちの手で、直接その目を焼くしかないんだ」
佐藤くんは、米軍から徴用したステルス輸送機のタラップを降ろし、私を死地へと誘った。
私は防弾仕様の白装束に身を包み、高城さんと佐藤くんに付き添われ、硝煙が立ち込める最前線の村へと降り立った。
上空には、私の力を増幅・拡散させるためのドローンが蜂のように群れ、私の輪郭を戦場全体へと投影する。
「……あんたが歩けば、そこが終着駅になる。……一ノ瀬、一歩も引くんじゃないわよ」
高城さんは、恐怖で狂乱する兵士たちの精神に「絶望的なまでの美への敗北感」を流し込み、彼らの引き金にかかった指を凍りつかせた。
私が泥濘んだ戦場を一歩踏み出すたび、銃声が止み、代わりに「事後」の脱力に伴う、あの独特の静寂が広がっていく。
物陰から飛び出してきた少年兵たちは、生身の私と視線が合った瞬間、脳内の射精中枢を直接雷に打たれたような衝撃に襲われ、膝から崩れ落ちた。
モニター越しの数百倍の濃度で放たれる私の美貌は、もはや光学的暴力であり、男たちの闘争本能を根こそぎ「快楽による機能不全」へと追い込んでいく。
彼らが手にしていた小銃は、股間を濡らした情けない自身の姿を自覚すると同時に、無造作に地面へと捨てられた。
佐藤くんは、私のオーラに当てられて気絶しかけている司令官の胸ぐらを掴み、衛星経由で全軍の武装解除を強制的に承認させた。
「……お前たちが守りたかった利権も、誇りも、この少女の一瞥の前では無価値だ。……分かったら、さっさと賢者に戻れ」
彼の冷徹な宣告は、私の美しさという圧倒的な現実を前にして、どんな軍法よりも重い呪縛として兵士たちの心に刻まれていく。
戦地には、火薬の匂いを塗り替えるように、濃厚な「生命の残り香」と、ハッカの消臭スプレーを撒き散らす佐藤くんの執念が充満した。
私は、さっきまで銃を向け合っていた者たちが、一様に虚脱した目で空を見上げ、争う意欲を失った「無」の境地に至るのを見届けた。
私の足元には、降伏の印として捨てられた弾帯が、銀色の絨毯のように積み重なっている。
「……一ノ瀬、これが君の歩む『覇道』だ。……一億人をイかせて、一億人を救うんだよ」
佐藤くんの声に応えるように、私はさらに深く、血塗られた大地へと歩みを進めた。




