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北の港街までの道中

 出発に際して西の街までは、エステルにゲートを繋げて貰う必要がある。それを頼む為にエステルに声を掛けようと振り向く。


 すると、エステルの奥の方で、ブリットが何やら馬車の後ろ2列をフルフラットにしている。そして毛布と枕をセットすると、その手前に暗幕を垂らした。どうやら簡易の仮眠施設を設けたようだ。


 それを見たキュリーシアは羨ましそうにしていたが、折角の旅行と張り切っておめかししてしまっていたのが、裏目に出てしまったようだ・・・。


 今の彼女の出で立ちは白のワンピース姿だ。その姿で仮眠しては、ワンピースはシワだらけになってしまうだろう・・・。


 他のメンバーはラフな格好に、小型の武器を携行している。今の魔王領の治安が良いとは言え、旅の道中に魔獣や魔物が襲ってこないとは限らない。


 いつもの装備一式は、魔法の鞄に収納してある。いざとなれば武器はいつでも引っ張り出せる寸法だ。ただし鎧は装着に時間が掛かるので論外となってしまうが・・・。


「エステル、寝不足の所スマンが、西の街までゲートの魔法を頼む。」


「ん~・・・了解。」


 俺は気を取り直して、眠気を堪えているエステルに、ゲートの魔法を唱えて貰った。


 ゲートの出口の安全を確認して馬車を通すと、そこは西の街に面した街道にある三叉路だった。この三叉路を北東に進むと、竜の住む山脈に行き当たる。


 今回は北に向けて馬車を走らせる事になる。その終着点が北の港街なのだ。ここから約3日間の道程だ。


 トトとリリは、ゲートを潜ったことで、突然変わった景色に驚いていた。そんな姿を微笑ましく思いながら、俺達は馬車を北の港街へ進めたのだった。


 初日の道中はゆっくり進めることにした。理由は、仮眠しているブリットやエステル、座席に座ってウトウトしているキュリーシアへの配慮はもとより、馬車に初めて乗るトトとリリが、乗り物酔いしないようにする為のものだ。


「スゲー・・・大平原だ・・・」


「お兄ちゃん、こっちは大きな湖が見えるよ!」


 トトとリリは馬車から流れる景色を眺めて興奮していた。街道の右手は西の湖があり、左手には西の草原がある。


 どちらも広大な景色な為、トトもリリも馬車の中で、右へ左へと行ったり来たりして、流れる景色を馬車の窓越しに堪能していた。


 そんな興奮していたトトとリリも、いつしか二人揃って眠ってしまっていた。どこかで昼食を取ろうと考えていたのだが、女性陣もいっこうに目を覚ます気配は無かった。


 仕方が無いので、適当なところで馬車を止め、女中頭が出掛け際に「行きがけの道中、皆さんで召し上がって下さい」と言って渡してくれた昼食セットを食べることにした。


 外で食べるにしても暑いため、必然的に車内で食べることになった。すると、さっきまで眠っていたトトとリリ、ブリットにエステル、キュリーシアも目を覚ましたようだ。


「お?起きたか?女中頭が渡してくれた昼食を食べるか?」


 俺がそう問いかけると、


「食べる食べる!お腹すいたぁ~」


 と、ブリットが合いの手を入れてくる。寝起き組みはその昼食を見るなり、同様に手を出した。


 バスケットに入っているのはサンドイッチだった。メンバー全員分を用意してくれてある。それだけでもかなりの量になるのだが、女中頭が作ってくれた絶品サンドイッチは、あっという間に平らげてしまった。


 そんな絶品サンドイッチを食べ終わって、食後の休憩を兼ねて一息ついていると、ブリットは後部座席を元に戻し始めた。午前中の仮眠で寝不足は解消されたのだろうか。


「もう仮眠は良いのか?」


 俺がそう問いかけると、


「これ以上寝ると夜眠れなくなる・・・。」


 ブリットからそんな答えが返ってきた。


 まあ確かに、昼夜が逆転した状態で海に到着してしまっては、たまったものでは無いだろう。


「よし、じゃあもう少し休憩したら出発しよう。今日は宿場町で一泊するとしようか。」


「え?先行して野宿するんじゃ無いの?」


 ブリットが意外そうな顔をしてきた。


「ここまでゆっくり来たから、そんなに先行することは無い。ならせっかくの旅行だ。一泊ぐらいは宿場町を利用しても良いんじゃ無いか?」


 俺はそう言って、さりげなくトトとリリに目をやった。ブリットを含め俺の意見に疑問を持っていた者達も、その意図を理解してくれたようだ。


 俺は、この旅行を通じて、トトとリリには色々な経験をして貰いたいと思っている。


 宿場町を利用するのもその1つだ。当然2日目は野宿をする。トトには狩りに、リリには薪拾いに同行して貰おうと思っている。それも経験だ。


 頃合いを見て馬車を出発させる。ブリットが復活したためだろうか?午後の車内は賑やかになった。そして、俺達の馬車は夕方前のまだ日が明るい内に、宿場町に到着した。


 宿場町はそれなりの賑わいを見せている。複数の宿屋に居酒屋などの飲食店、道具屋や武具店まである。


 武具店はどちらかと言うと、冒険者の装備品の修理などメンテナンスが主な役割のようだ。鍛冶屋という印象が強い。今も鉄を打つ音がひっきりなしに聞こえてくる。


 これらは、商隊の護衛を行う冒険者を対象にしているのだろう。


 馬車越しにそんな景色を眺めていた俺達だが、比較的大きめの宿を見付けチェックインした。部屋は大部屋3部屋だ。


 1階は食堂となっているので、夕食までは自由行動にした。俺はトトとリリを連れて宿場町の散策に出掛ける事にした。


 すると当然のように、チョコロールとティニエが付いてくる。もう何も言うまい・・・。


 トトは、鍛冶屋で鎧を直す様子に釘付けとなり、リリは道具屋で回復薬などに釘付けとなっていた。


 時間が経つにつれ宿場町は更に賑やかになっていく。北の港街と、西の街や魔王都を行き交う商隊が、次々と到着してきたのだろう。


「二人とも、初めての宿場町はどうだ?」


 俺はトトとリリに目を向ける。二人は今もキョロキョロとしていた。


「魔王都も賑やかだけど、ここはそれとはまた違った賑やかさがある・・・。あります。」


「道具屋さんも実用的な品揃えが多い印象でした。」


「そうだな。ここは冒険者が実戦を経験して立ち寄る場所でもあるからな。ボロボロの鎧のまま冒険を続けることも出来んし、怪我などした場合の回復薬も必要以上に必要になるだろうな・・・。」


 頃合いを見て俺達は宿場町の散策を切り上げ、宿に戻ることにした。夕食を取るには丁度良い時間だろう。


 宿に戻ると1階には他のメンバーも食堂に集まってきていた。俺達が最後だったようだ。


 皆メニューの注文を済ませ、俺は注文したメニューが揃うまでの待ち時間に、明日の予定の話をする。


「明日は予定通り野営になるからな。トトは狩りに同行して実戦を経験してこい。リリは薪拾いの手伝いだ。」


「わ・・・解りました!」


 トトはやや緊張した面持ちで答えた。まあ、動物が相手とは言え実践には変わりない。


 今まではティニエを相手に木刀で打ち合った経験しか無いのだ。この経験で何かを掴んでくれればと思う。


 注文したメニューが出そろうと、真面目な話とは打って変わって、北の港街に着いたら何をするかという話で盛り上がったのだった。



 翌朝は予定通りにチェックアウトをして宿場町を後にした。馬車の速度も当然アップさせる。


 車内の賑やかさもアップした。これはブリットが寝不足から完全復活したためだろう。5割増しで騒がしい・・・。


 スピードアップした俺達の馬車は、次々と他の馬車を追い越して行き、昼過ぎには次の宿場町を通過した。

 

 そして、夕方前には野営の出来る広い場所を確保して、設営の準備に取りかかった。


「じゃあエイナル、すまんがトトを連れて狩りをしてきてくれ。」


「解った。トトもあまり緊張しすぎないようにな。」


 エイナルはそう言うと1本のナイフをトトに持たせた。


「は・・・はいっ!」


 トトはナイフを握りしめ明らかに緊張した面持ちでエイナルとガトーショコラの後ろをついて行った。


「エリックは薪拾いを頼む。リリもちゃんと使える薪を覚えるんだぞ?」


「はいっ!」


 リリが元気よく返事をすると、エリックとアプリコットの後ろを付いて行くのだった。


 俺は何時ものように、魔法のログハウスを設営し、馬車をその横に固定させ、ハーネスを外して馬を切り離す。そして餌や水を用意して馬を休ませる。一通り設営を終え、ふと遠くを見やった。


(リリはともかくとして、トトは旨くやっているだろうか・・・)



 その頃トトは、緊張の大絶頂にいた・・・。


 エイナル達と狩りに出発して少しすると、トトはエイナルに身を低くするよう指示を出された。


 獲物が見つかったのだろうかと、辺りを見渡すが何も見付けることが出来ない。そこにすかさずエイナルはナイフを投擲した。


 トトからすれば何故そんなところへ?と思ってしまう場所と距離だった。


 しかし、エイナルが投擲した直後には、ガトーショコラが投擲した先へ動いていた。そして、その場所にたどり着き、何かを持ち上げる仕草をして見せた。そこには、1匹のウサギにナイフが突き刺さっていたのだった。


 トトにはそこにウサギがいることは全く解らなかった。


「トト、動物にしても何にしても目で探そうとするな。気配を感じろ。」


「は・・・はいっ!」


 と、返事はするものの、その後も何度もレクチャーを受けるが、どうしたら気配を感じることが出来るのか、全く解らない・・・。既にエイナルの手によってウサギだけでも4匹捕まえている。


「そろそろ頃合いか・・・。トトも気落ちするな。こればかりは、経験がものを言う。」


「・・・はい。」


 完全に足手まといとなってしまったことに気落ちするトトに、エイナルはフォローする。


 しかし、そのエイナルの足がぴたりと止まった。うつむき気味に歩いていたトトはエイナルが足を止めたことに気付かず、その横を通り過ぎそうになってしまった。


 するとエイナルは、トトの頭を押さえて腹ばいの状態になった


「トト解るか?大物だ・・・。気配を感じろ。」


 トトは目を閉じて気配を探す。すると僅かだが、何かの気配を感じ取ることが出来た。


「解ります。この先に気配を感じます。」


「上出来だ。ちなみにこの気配は熊だな・・・。しかもかなりデカい・・・仕掛けるか・・・」


 エイナルとガトーショコラが目配せをすると、一気に立ち上がり、その気配のする方向へ掛けていく。トトも遅れまいと後ろをついて行こうとするが、完全に置き去りにされてしまった。


 トトがたどり着いた時には熊との戦闘は始まっていた。熊は立ち上がった状態でエイナル達を威嚇した。


 その姿を見たトトは恐怖で身がすくんでしまった。何せ3mはあろうかと言うほどの大きさだ。


 しかしエイナルとガトーショコラは、それを意に介さず脇の下や首筋と、急所への攻撃を行っていく。


 急所への攻撃で弱ったところで、最後はガトーショコラの、両手持ちの鎌の一撃でもって首をはね飛ばされて巨大熊は絶命した。


「トトはツイているな。今夜は熊鍋が食べられるぞ!俺も熊を仕留めたのは今回が初めてだ。」


 トトはエイナルが何かを言っているのは解ったが、何を言われているのか理解出来なかった・・・。



 テントではエリックとリリが薪拾いから戻って来ていた。


 あとはエイナル達なのだがまだ戻ってこない。何かあったのでは無いかと心配になってしまう。


 そんな心配をしていると、ガトーショコラが一人で戻って来た。魔法の絨毯を貸して欲しいというのだ。


 俺は慌てて魔法の絨毯を取り出してガトーショコラに手渡すと、何に使うかも言わずに先ほど来た道を戻っていった。


 それから程なくして、魔法の絨毯に熊を載せたエイナル達が戻って来たのだった。


「今日は大漁だ!熊を捕まえたぞ!」


 エイナルはそう言うと、魔法の絨毯から熊を引きずりおろす。これは確かにデカい・・・。解体するのも大変な労力が掛かるだろう。


 そう思ったのだが、エイナルは喜々として目立たない場所まで運び込むと、熊の解体を始めたのだった。


 そんな中、トトは自分が何も役に立てなかったことに肩を落としていた・・・。そのトトの姿を見た時、何となく今回の狩りがどんなものだったのか想像出来てしまった俺は、


「何か収穫はあったか?」


 そう尋ねることにした。するとトトは、精一杯の強がりを見せるかのように、


「熊の気配を感じることが出来ました・・・。」


「おっ!凄いではないか!初めての狩りで、動物の気配を感じることが出来るとは!なかなか出来ることでは無いぞ。貴重な経験が出来たな。」


 そう言ってトトの頭をポンと撫でたのだった。


 その日の夕食は、エイナルの予告通り、熊肉づくしとなった。夏場とは言え、乾燥した気候の魔王領は、夕方から肌寒くなる。熊肉の炙りと合わせて振る舞われた熊鍋は絶品だった。


 そんな夕食を皆で賑やかに堪能し終えると、早めの就寝となった。さて、明日は午前中には北の港街に到着出来るだろう。


 しかし、何か皆に伝え忘れていることがあるような気がする・・・。その時俺が、一番旅行気分でいることに気が付いていなかったのだった・・・。

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