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トンネル開通から1ヶ月そして・・・

 トンネルが開通してから、ひと月が経った。経過は順調だと言えるだろう。


 その一役を担ったのは、他ならぬゲートトンネルのお陰だ。一足早くルステーゼ王国からの品が届いたその効果は大きく、市場に出回れば瞬く間に品薄状態になったのだった。


 利にさとい商人達はこの商機に出遅れまいと、商隊を組んでトンネルを利用しだしたのだった。


 片道7日、往復と現地での買い付けを考えれば20日ほどの行程になるが、この第1陣も戻って来たのは大いに市場が盛り上がる起因になった。


 今はまだ現地価格の5割増しほどの価格で取引されているようだが、このまま商いに活況が続けば2~3割増しで落ち着くことになりそうだ。


 これはルステーゼ王国側も同じ事が言えた。どちらの国も自国に無い、変わった商品を取り扱うチャンスと睨んだ結果だろう。


 しかし、今のところトンネルの利用比率は7対3で魔王領側の方が多い。これはひとえにルステーゼ王国側に根強く残る、魔王領に対しての恐怖のよるものだろう・・・。


 トンネルと言えば、名前にもひと問答あった・・・。最初トンネルの名前を制作者の名前、『テーブルトーク同好会トンネル』にしようという話が持ち上がったのだった。


 流石にそれは恥ずかしいので固辞し、両国との架け橋になるトンネルと言う事で、『ルステーゼ王国・魔王領間トンネル』と名付けられた。


 どちらの国の名を先にするかで一悶着あったようだが、そこはその場にいなかったのでスムーズに解決したと信じたい・・・。


 また、トンネルの出入り口にはチョットした宿場町が形成されつつあるらしい。魔王領側は樹海の麓にあった、ダークエルフの村が出稼ぎで運営しているとのことだ。


 今はまだ宿泊施設と酒場のみで運営をしているようだが、商隊には護衛の冒険者も付き物だ。ルステーゼ王国側からトンネルを抜けて樹海まで抜けようとすれば、1日以上掛かることを考えると、この宿場町が流行ることは間違い無しである。


 ルステーゼ王国側も、トンネルを抜けた先の最寄りの宿場町が第3号遺跡と考えると、トンネルの出口に宿場町が形成されるのも時間の問題だろう。


 このトンネルを利用する際には通行料が掛かるのだが、ここでも俺達に両国から1つ提案をされてしまっていた。


 それはこのトンネルの通行料の一割をテーブルトーク同好会に受け取って欲しいというものだった。


 それこそどれだけの金額が入ってくるのか予想も付かなかったが、そもそも金銭授受が目的でこのトンネルを作った訳では無い。


 キュリーシア王女のルステーゼ王国に対する思い(憧れ?)を受けて皆で始めたことなのだ。当然金銭の授受は固辞させて貰ったのだが、流石にこればかりは各国としてのメンツが立たなかったらしい。


 仕方なく、5年間通行料の一割を受け取ることにした。


 それ以降については、通行料の値下げをするなり、警備の強化に当てるなりする方向で調整して貰う事で話をまとめて貰う事になった。



 そんな事をタライに貯めた氷水の中に足を突っ込んで、軒下で涼を取りながら俺は考えていた。


 今の魔王領はちょうど真夏だ。日本のような、じめっとした暑さでは無いが、十分に暑い。木陰に入れば幾分涼しさを感じることは出来るのだが、ルステーゼ王国側は一年を通じて気温が適温だったため、去年は季節感無く活動していたため、魔王領の夏場はこれが初めての経験となる。


 プレートメイルを着込めば、間違いなく表面で目玉焼きが焼ける気がする・・・。


 そんな暑さにも負けず、今日もトトに対するティニエの剣術指南は行われていた。


「えいっ!、やあっ!!」


 トトの掛け声と共に木刀がティニエに向かって振るわれるが、まだまだ力任せに頼る癖が向けきらないトトの攻撃に、ティニエは気にした様子も無く木刀も使わずに回避してみせる。


 よく見てみれば彼女の足下は先ほどからほとんど動いていなかった。用は体捌きのみでトトの木刀を避けているのだ。


 それでもトトは負けじと意地を見せてきた。


「せいっ!!!」


 シュバッ!と下段から上段に切り上げると、今までに無かった剣音と共に鋭い一撃がティニエへ放たれた。


「おっ!今の一撃は良いですね!常に今の攻撃を意識して剣を振るえるようになれると素晴らしいのですが・・・。」


 ティニエはそう言って自身の持つ木刀でトトの攻撃を受け止めて見せた。


「では今度はこちらの番です。全て受け切れたら今日の特訓は終了です。」


「はい!よろしくお願いします!!」


 そう言うが早いか、ティニエは木刀を振るいだした。もちろん手加減ありだが、今のトトが受けきれる、ギリギリのさじ加減での攻撃である。


 トトの気が一瞬でも緩めば、その後の攻撃は受けきれなくなることは必至だ。その光景を俺は何度も見ている。


 ティニエの剣術指南を受けたばかりの頃は、何も出来なかったトトだったが、この数ヶ月で見違えるように強くなったと思う。

(本人に言ってしまうと調子に乗りそうなので言わないことにしているが・・・。)


 今ではティニエの20連撃まで(トト用手加減付きで)は受けられるようになっていた。


 さて、今日は何連撃まで受けきれるかな?と、そんな事を考えつつ数を数えていると、


「!!あぶないっっ!」


 ティニエの悲鳴じみた声が俺に掛けられた。


 どうやらトトは23連撃目で力が尽きたようだった。手に力が入らなくなったのだろう。受けきれなかったトトの木刀が俺の方に向かって飛んできた。


 俺は飛んできたその木刀を素手でキャッチすると、


「さて、トトもこの辺りが限界だろう。水浴びでもして少し体を冷やしてこい。」


「はい・・・。ありがとうございました・・・。」


 トトは力無くそう返事をするのだった。


「トト。何か元気が無いな?どうした?」


 俺がそう尋ねてみると、トトは悔しそうに、


「俺は強くなっているのでしょうか?毎日稽古を付けて貰っているにもかかわらず、未だにティニエ師匠に木刀で受けてもらうことすら出来ない・・・。」


 まあ確かに落ち込む理由には十分だろうな・・・。そう考えつつも俺も言葉を選ぶことにした。


「お前は、ここに来た時に比べれば十分に強くなっておる。ただ、お前の師匠が世界最高峰の一角だと言う事を忘れんで欲しい。

 ティニエ殿と剣を交えたければ、トトが自分を信じて修行を続けることだ。ちなみに今のトトの強さなら魔物のゴブリンと差しで勝負出来ると思うぞ?まあ頑張れ!」


「俺ってまだゴブリンと同じレベルっすか!?」


 ガックリ項垂れるトトだったが、きっとこのまま修行を続けていけば、15歳になる頃にはいっぱしの剣士になることだろう。まだまだサナギの状態であるこの小さな剣士見習いを俺は温かく見守ろうと思う。



「しかし魔王領の夏は暑いのう・・・。避暑がてらバカンスにでも行きたいもんだが・・・。」


 俺がそこまで言うと、今まで居間でグッタリしていたブリットの尻尾がピンと立ち上がった。そして、むくりと起き上がると、一目散にこちらに駆け込んでくる。


「魔王領でバカンスが出来る所なんてあるの!?」


 俺の襟首を締め上げながら、問い詰めてきた。

 

「ギブギブ!首を絞められては何も話せん!それに近い!」


 俺はブリットの手をタップしてギブアップを宣言すると同時に離れるように促した。


「ああ、ゴメンゴメン。で、避暑地ってどこのことを言っているの?」


「前に魔王殿と海釣りの出来る場所が無いか話をしていた時に聞いた話だが、魔王都から4日半ほど行った所にある北の港街と言うところだ。

 港街から西側は漁港になっていて、東側は竜の住む山脈から流れる川の支流も流れ込む立派な遠浅の海岸線になっていると言っていたぞ?」


 俺がそこまで説明するとブリットは、


「行こう!今すぐ行こう!イヤ!?チョット待って!色々準備があるから最低でも・・・ごにょごにょ・・・。」


 どうやらブリットは一人の世界に入ってしまったようだ。周りを見渡すといつものメンツは揃っている。


「皆もどうだろうか?先月のトンネル事業の慰労も兼ねてたまには遊びに出掛けるのも良いと思うのだが?」


 俺がそう言うと、


「特に異論はありませんね。」


 と言うのはヘンリク。皆の総意と言ってくれた。

次話まで間が空いてしまい、楽しみにされていた読者の皆様、申し訳ありませんでした。体調が芳しくなく暫く不定期になってしまうかも知れませんが、何とか一週間以内には投稿出来るように頑張ります。

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