魔王領とルステーゼ王国の交易路の開拓④
「・・・聞こうじゃ無いか。」
マーリンは暫く考え込んでいたが、俺のもったいぶり方が、気になったのだろう。聞く気になってくれたようだ。
「実は魔王領のキュリーシア王女が、ルステーゼ王国との交易を行いたいと言ってきている。」
「それは良いが、北の山脈で交易は難しいという話は、お前とも何度も話をしていたと思ったが?」
「ワシもキュリーシア王女にはそう言っておったが、彼女は諦めが悪くてな・・・。仕舞いには魔法的に何とか成らんか言ってきおった。」
「・・・で、何とかなりそうだと?」
「まだ確実とは言い切れんが、うちの魔術師は出来そうな雰囲気を出しておった・・・。」
ここまで話をするとマーリンはこめかみを押さえて下を向いてしまった・・・。
「ここで心が折れていたら話の続きが出来んな・・・。」
「・・・まだあるってのかい?」
「ああ、人と交易を活発化させる為に、魔法的な交易とは別に、山脈の中腹にトンネルを掘る計画もある。」
まあこれは俺達が言い出した事だが、国交に関わる事なので、そのままキュリーシアの案という事にしてしまおう・・・。
ここまで話を聞いたマーリンは白目をむいてしまった・・・。そして俺の胸ぐらを掴み自分の顔を引き寄せると、
「で?私に何をさせたいって言うんだい!?」
「ルステーゼ王国に繋いで貰いたいと言う事だ。まだ具体的に煮詰まってはいないから、もう少し先になるとは思うがの。」
俺から手を離したマーリンは顔に手を当てて天を仰いでしまった。俺はそんな事はお構いなしに、魔王領の名産品を魔法鞄から取り出して机の上に置いていく。そして、
「まあ、国王も魔王領の名産品が、どんなものか解らんと困ると思って、一通り持ってきてやった。流石にオリハルコンは除外しておくぞ?」
「ちょ・・・チョット待っておくれ・・・。そう話をポンポン進められてもこっちの頭が追いつかないよ!」
「まあ頑張って付いて来てくれ。早ければひと月以内に国交の会談の場を作って貰う必要があるからな。」
「そんなに早く出来るというのか!?」
「エステルが本気になったら、もっと早く出来てしまうぞ?魔王領も国交となると調整があるからそのくらいの期間が必要というだけの問題だ。」
「ルステーゼ王国の都合はお構いなしだな?」
「いや、そっちがどの位で調整出来るか言ってくれれば、それに合わせる事は可能だろう?
その代わり、その回答は等しく国交樹立を受け入れると言う事になってしまうと思うがな?」
「グッ・・・確かに・・・。」
「まあ、今のルステーゼ王国の国民は、大分魔王領の事を受け入れつつあるみたいだしな?そんなに心配する事は無いのでは無いか?
取りあえず国にこんな話が持ち上がってきているぞ・・・。くらいに様子を見てはどうだ?」
「人材交流が始まって半年もしない内に、交易まで始める話が出て来るとは思いもしなかったよ・・・。」
「それだけキュリーシア王女が、ルステーゼ王国の文化に、憧れがあるって事だな。」
「そうなのかい?」
「でなければあんなにアッサリと、4教の教会建設を許可する訳が無かろう?石造りで無い事を未だに残念がっているのは、明らかにルステーゼ王国の4教の教会をイメージしていたからだろう?」
「言われてみれば確かに・・・」
「まあ、伝えるべき事は伝えたからな?魔王領に来た時に、何かあれば屋敷に寄ってくれ。」
俺はマーリンにそう伝えると、転移ポータルで魔王領へ戻っていった。
それから、エステルはカヌレ博士の研究所に籠もりきりとなっていた。
ブリット曰く、
「エステルは何かに集中し出すと寝食を忘れて没頭しちゃうのよね・・・。コスプレの衣装を作っていた頃も、会社の時間以外はコスプレの製作に没頭してたし・・・。」
との事だった。
俺達は心配になり、食事だけはカヌレ博士の研究所へ届けるようにしていたのだが、ブリットの言う通り、食事に手を付けている様子が無かった。
仕方なく俺達は、食事の時だけはエステル達を、屋敷に引き戻す事にしたのだった。
それにしてもエステルの集中力は凄まじかった。食事を終えるとすぐに、カヌレ博士の研究所へ戻り、研究に没頭していった。
それに対抗するようにチョコロールも、バッテリーの研究開発に没頭していた。
ちょうど1週間がたった頃だろうか?ヨロヨロとエステルがカヌレ博士の研究所から戻ってきた。パンナコッタとチョコロールがいない。
「試作機が出来た。みんな見てくれる?」
エステルはそう言うと、カヌレ博士の研究所へ案内する。俺達はエステルの言われるがままに研究所へ向かった。
するとそこには、大きな立て看板のようにそびえるトンネルが2つ、用意されていた。
「この2つが対になっているの。そしてこれが魔法の発動体・・・。」
そう言って俺達に見せてくれたのは、大きめの鍵の形をしたものだった。
「この発動体を持っている人とその仲間と認識した人だけがこのトンネルを通過出来るようにしたわ。」
エステルはそう言って、俺に鍵を渡してきた。そして、「チョット試してみて。」と言うと、トンネルの立て看板の前に全員を立たせた。
トンネルの出口は5mほど先だ。俺達はエステルの指示通りトンネルに向かって歩き出す。
魔法が発動しなければ、当然このまま壁に激突する事になるだろう。俺は壁にぶつかる直前に目をつむってしまったが、何の抵抗もなく進む事が出来た。
そして5m先のトンネルの出口に出ている事を確認すると、続いてきた残りのメンバーも同様に、トンネルの出口から次々と出てきたのだった。
「うん。成功ね。今回はバッテリーがまだ間に合わなかったから、魔石のキューブの魔力を使ったけど、これがバッテリーで動かす事が出来れば、基本構造は完成よ。」
「基本構造はって、まだ何か弄るところがあるのか?」
俺からすればもう完成と言っても良いのでは無いかと思ってしまうのだが・・・。
「うん。見た目がこれじゃあ、チョットみすぼらしいでしょ?だからちゃんと長く使って貰えるように作らないと・・・。」
職人だ・・・。俺には今のエステルが職人に見えてしまった・・・。
「わかった。納得するまでやると良い。ただし、食事の時間には必ず屋敷に戻って、皆と食事をすることは必須条件だぞ?」
「解ってるわ。そこは気を付ける。」
エステルはそう言うと、パンナコッタに手伝って貰いながら『ゲートトンネル』とでも言うべきか、それを倉庫の方へ運んでいったのだった。
俺はチョコロールのバッテリーの開発が、どの程度進んでいるのかも気になったので、様子を見に行くことにした。
そこではチョコロールが作業着姿で、何やら箱形のものをいじくり回していた。もの凄い集中して俺の姿にも気付いていないようだったので、声を掛けずらかった・・・。
今度、差し入れでも持っていくことにしよう・・・。声を掛けるのを止めて、俺はその場を離れたのだった。
キュリーシアに、進捗を報告しようか考えたのだが、まだ完成した訳では無かったので、今回は見送ることにした。
エステルの進捗を見れば完成も間もなくと言ったところだろうが、キュリーシア自身が舞い上がって仕事が手に着かなくなってしまっては本末転倒だ。
それに、ギルドマスターのマーリンからの連絡もまだ来ていない。この『ゲートトンネル』が完成しても、両国が合意しなければ使い道が無い。
まあその時は、魔王領内で北にある港町と繋ぐというのも面白いかも知れない。海の幸が魔王都に並ぶ日が訪れるというものだ。
使い道はいくらでもあると考えるとしよう。
それから更に一週間が経過した頃、遂に『ゲートトンネル』が完成した。
その報告をくれた時のエステルは、ヨレヨレとなっていた・・・。あれほど無理をするなと言ったのに、相当無茶をしたようだった。
最初に見た時は張りボテのようだったあの『ゲートトンネル』は見る影も無く、それは立派なものに変身していたのだった。
それは、完全なアーチ状になっていて、正しくトンネルその物だった。通行許可証を持たずにゲートを潜るとそのまま素通りしてしまうというのだ。
バッテリーも無事に開発出来たようで、この『ゲートトンネル』にバッチリ組み込まれているという。チョコロールもよく頑張った。
「ゲートを通過する時に、行き違いで衝突を防止する意味で、鐘が通る馬車の台数分鳴るように仕掛けをしておいたわ・・・。」
エステルは、目にクマを作ったドヤ顔で、自慢げにそう言ったのだった。
これが、ルステーゼ王国と魔王領を繋ぐ交易路になってくれれば良いのだが・・・。
そんな事を考えていると、屋敷にキルドマスターのマーリンがやって来たのだった。




