リリの一人でお使い大作戦②
時間は少しさかのぼる。それは、リリがお使いを頼まれて、支度をする為に部屋へ向かっている時の事だ。
偶然、トトと遭遇したリリは、これから街へお使いへ出掛ける事を告げてしまった事で大惨事になりかけた。
トトは当然一人で街へ出掛ける事には反対した。しかし、これは仕事で出掛けるのであって遊びでは無いとリリは言ったのだが聞いてくれなかった。
俺達はまさかこんな初歩で引っかかるとは思っていなかった為、ティニエに助けを求める事にした。
ティニエも今回のリリのお使いの件に関しては一部始終知っている。
「トト、妹とじゃれている暇があるのなら剣術の稽古をするぞ!」
「師匠!今はそれどころじゃないんです!リリが街に行くって言っていて!」
「だからなんだ?街に行く妹が気になって剣術どころではないという事か?良い度胸だ!」
「ひっっ!!」
ティニエはそう言うと、トトの腹に拳をぶち込み、気を失わせた。
「リリも早く支度をしてきなさい。女中頭が待ってるわよ。」
ティニエはそう言いながらトトを肩に担いで出て行ってしまったのだった。
「妹思いも度が過ぎると厄介よね・・・」
物陰で一部始終を見ていたブリットはため息をつくしかなかった。それには俺達も同感だった。
こうして、女中頭からお使いを頼まれたリリは屋敷を出て街への買い物へ出掛けたのだった。
で、俺達はと言うと、全員リリの後を付けていた・・・。
メイドゴーレム達も同行しているところを見るとやはり、リリのお使いは気になるらしい。
結局ブリットの事は言えなかったと言う事だ。屋敷は街外れにあるが、今のところリリに気付かれた様子はない。
買い物の場所は城下町の東西に延びる大通り沿いにあるお店ばかりだ。特に問題になるはずは無い。
リリも、街中に入ると大通り沿いの八百屋を目指している。目的の八百屋を見付けると、メモを取り出しメモにある食材を買い求めていく。
そして支払いを済ませ、次の店に向かって行く。順調だ。やはり心配する事などない。
そう思っていたのだが、向こうから明らかにガラの悪い連中が、リリに向かって歩いてくる。
リリはメモを読むのに夢中で相手に気付いていない。相手も小柄なリリに気付いた様子は無い。このままではぶつかってトラブルになってしまう・・・。
すると、ガラの悪い連中が、突然リリの目の前で派手にすっ転んだ。
俺が振り向くと、エステルが魔法を唱えていた。たぶん土魔法か何かだろう。転んだ本人達も何が起こったのか良く理解出来ない様子だった。
リリやその周りにいた人たちも何事かとそちらを見やるが、転んだ本人達はバツが悪そうにソソクサとその場を立ち去っていった。
俺も思わず、遠話の魔法バッジで、
「エステル、グッジョブ!」
と言ってしまった。
チョットした問題が発生しかけたが、リリは次の店に向かって行く。次の店は魚屋だ。
魚屋と言ってもこの辺りで捕れる魚と言えば、沼魚か川魚になってしまう。海の魚は滅多に入荷しないし高価な品だ。
ここでも予定通りメモの品を仕入れていく。すると、店の主が、
「嬢ちゃんお使いかい?偉いねえ!これはサービスだ持って行きな!」
そう言って、メモには無い品を寄越してくれた。リリにとっては初めての経験だったのだろう。反射的に断ってしまったのだった。
「お使いのメモ以外の物を、頂く訳には行きません。」
「ありゃ~・・・真面目だねぇ~。だけどこう言う時は貰っておくもんだよ。」
店の主はそう言って、リリの買い物かごの中にスッとサービスの品を入れたのだった。
「こっ・・・困りますっ!」
俺達もどうしたモノかと困ったものだが、そこは周りが親切だった。
「お嬢ちゃん、こう言う時は貰っておく方が良いんだよ。ここの店の主はなかなかサービス何てしてくれないんだから。」
「そうそう!せっかくサービスしてくれた品を返されたら店の主も困っちゃうでしょ?貰っておきなさい。」
そんな会話が聞こえてくる。最終的に折れたのはリリだった。
「そ・・・それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます・・・。」
「良いって事よ!また買いに来てくれよ!」
店の主はそう言って次のお客の接客を始めてしまった。リリも勢いに押されてしまった感はあるもののお礼を言って店を出る事にしたのだった。
さて、親切にされて、ひやひやさせられるとは思いもしなかったが、次の肉屋がが最後だ。
ここの買い物が終われば、リリのお使いはコンプリートとなる。肉屋の場所は、魚屋から少し離れた場所にあるが、迷うような場所では無い。同じ大通り沿いにある。
俺達も人混みに紛れてリリを追い続ける。しかし、肉屋がある場所は一番の繁華街の為、人通りも多い。
背の低いリリを追いかけるのは、かなり接近しないと、見失ってしまう恐れがあった。
一番近くでリリを見守っていたのはブリットだった。そのブリットから遠話の魔法バッジから通信が入った。
「リリが肉屋の前で立ち尽くしちゃってるけど、何かあったみたい!」
「どう事だ?あまり近付きすぎてリリに気付かれるなよ?」
「そんなヘマはしないけど、どうやらメモに書いた品が品切れみたい。それで他の肉屋を聞いているみたいよ。」
「なっ!?品切れ!?この近くに肉屋なんてあったか?」
「そんなの解らないわよ!あっ!リリが移動を始めたわ!」
「こうなったら各自臨機応変に対応してくれ!エイナルとブリットはリリから目を離すな!ワシはさっきの肉屋で何処を教えたか聞いてくる!」
まさか最後の最後でこんな事が起こるとは!俺は急いで肉屋へ向かった。
「オヤジ!さっきの子供に何処の肉屋を紹介した?」
「へ?ああ!さっきの子供の事ですか?希望の部位が売り切れてたから、中通りのうちの支店を紹介しましたよ?」
「その場所を教えてくれんか?」
「へえ、それならここです・・・。」
俺ははやる気持ちを抑え込んで、店のオヤジに詳細な場所を聞いた。そして、遠話の魔法バッジを通じて、リリが何処へ向かったかを伝えた。
「それなら今のところ、迷っていないようね・・・。とにかく、このまま追跡するわ。」
「皆も各自でその支店の肉屋に向かってくれ。くれぐれも鉢合わせせん用に気を付けてな・・・。」
暫く進むと、ブリットとエイナルの姿が見えた。その先にはリリの姿も見る事が出来た。
ちょうど店に入るところだったようだ。
「ふう・・・さっきは焦ったぞ。」
「ごめん・・・。チョット嫌な事思い出しちゃってね・・・。」
「まあ、あえて聞こうとは思わんが、リリは旨くやったようだな?」
「あえて聞いてこないのは優しさなのかしら?リリはしっかり者よ。旨くやったわ。」
店から出てきたリリに見つからないように身を隠して、リリが通り過ぎるのをやり過ごした後、その後を追いかけていく。
帰りの途中、ティニエが合流してきた。「トトはどうした?」と聞くと、リリ!、リリ!!と五月蠅いから簀巻きにして屋敷に置いてきたそうだ。
リリの持つ買い物かごはイッパイになっていた。8歳にしては小柄な彼女が持つには決して軽くは無い荷物だっただろうと思う。
それを彼女は一度も地面に置く事無く、屋敷に持ち帰ってきた。
女中頭に買い物の内容に間違いが無い事を確認して貰うと、リリは、魚屋でサービスして貰った事や、予定の肉屋では商品が手に入らなかった事など、詳細に報告をしていた。
そこには一人で成し遂げたという自信が、垣間見えた気がしたようだった。
その後、女中見習いとしての仕事にも変化が見られるようになったと、女中頭から報告があった。




