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魔王領とルステーゼ王国の交易路の開拓①

 俺は今一人で、魔王領王城の執務室にいる。そこにはこの部屋の主である、キュリーシアがいた。


「今日はお呼び立てして申し訳ありません・・・。先日よりお話ししていた、ルステーゼ王国との物流について、何か良い方策が無いかと相談に乗って貰いたくて・・・。」


「・・・、ああ、その件か。もちろん覚えておる。しかしその時にも言ったと思うが、ルステーゼ王国とは高い山脈がある関係で、そう簡単には交易は出来んと思うぞ?」


 最近私的に忙しかったからと言って、決して忘れて何ていなかったぞ?


「そこなんです。私も色々と検討はしてみたのですが、それも現実的ではありませんでした。」


「例えばどんな事を検討してみたんだ?」


 その検討してみた内容に興味はある。まさか、山脈にトンネルを掘るとは考えてはいないだろう・・・。


「そうですね・・・、一番現実的だったのは、この魔王都から東に流れる大河を利用して海まで出てから南下し、ルステーゼ王国へ入る方法です。しかしこの方法では日数と費用が掛かりすぎて、日持ちしない物は持ち込めませんし、お酒類はこちらの相場の10倍以上になってしまいます。」


 うわっ!ちゃんと考えてる!確かにこの方法が一番現実的な方法だ。俺は、キュリーシアが見せてくれた地図を見せて貰いながら、感嘆の息を漏らしそうになった・・・。が、ここは堪える。


 今現在、魔王領とルステーゼ王国の間には人材の交流という名目で、冒険者ギルドに登録した者のみが行き来する事が認められている。それもかなり厳しい審査基準がある。


 今でも、ゴブリンやオーガなど、ルステーゼ王国では、魔物としての扱いを受けている者は、たとえ冒険者ギルドに登録していても、ルステーゼ王国に行く事は出来ない。


 ここは、ルステーゼ王国から来た冒険者が、善良なゴブリンやオーガ達がいる事を認識して、それを自国に持ち帰って噂が広まるのを待つ必要があった。・・・話が逸れてしまった・・・。


「と言う事は、ルステーゼ王国の商品を魔王領に持ち込むにも、そのくらいの相場になってしまうと言う事だな・・・。」


「はい。ヨーンさんの仰る通りです。先日、その・・・城を出てブリットさん達と一泊した際に色々とルステーゼ王国の食品等の嗜好品を口にした際、この魔王領には無い物が多く存在する事を改めて再認識しました。」


 ああ・・・、先日のプチ家出の事か・・・と考えていると、キュリーシアの話は更にヒートアップしていった。


「それらをこの魔王領に持ち込んで、自由に取引出来る環境が整えば、今はルステーゼ王国に行く事の出来ない、一般の者達にもルステーゼ王国に興味を持って貰う事が出来るようになると思うんです!」


 俺はチョット腰が引けてきている。ここまでヒートアップするキュリーシアも珍しい・・・。


「そして、魔王領にもルステーゼ王国には無い名産品は数多くあります。それらをルステーゼ王国に認知して貰う事で、より両国を近づける事が出来るのでは無いでしょうか!?」


 キュリーシアは机から乗り出して、俺の顔を見つめてくる。


「キュリーシア!顔が近い!!興奮するのは解るがもう少し落ち着け!」


 俺はキュリーシアの両肩を掴み押し返した。


「はっ!失礼しました・・・。こう言う話をして理解して貰える人はこの魔王領にはいなくてつい・・・。」


 キュリーシアも、自分が興奮して力説してしまった事に羞恥したのか、慌てて席に戻った。


「ワシもキュリーシアには申し訳ない事をした。まさかそこまで考えておるとは思いもしなかった。ワシの考えは山脈を越えられないという点で、帰結しておったからの・・・。」


「そこでなんですが、本当なら頼ってはいけない事だと重々承知の上での相談なんですが、古代魔法王国の今は無い技術で、この問題を解決する方法は無いものでしょうか?」


「古代魔法王国の技術か・・・。となると、エステルに聞いてみた方が早いかも知れんな・・・。」


 だがそんな都合の良い魔法が存在するだろうか?


「私も魔術師の端くれです。イメージとしては、転移ポータルかゲートの応用があれば、出来るのでは無いかと考えているのですが・・・。」


 キュリーシアはブツブツと魔法関連の事を呟きだしたが、俺にはさっぱり解らない。


「まあ、それをワシに言われても、トンと見当が付かん。屋敷に戻ったらエステルに聞いてみよう。妙案があれば報告する。」


「あっ!はい。よろしくお願いします。」


 キュリーシアはそう言って、執務室から退室する俺を見送ってくれた。


 屋敷に戻る道中も、キュリーシアからの相談を本格的に考える事にした。


 しかし、魔法に頼った行為は永続的な観点から考えると難易度が高いと思えてならない。


「チョコロールは、キュリーシアが言っていた魔法を使った交易路の構築は出来ると思うか?」


 俺は傍らに付いて来ていたチョコロールに訪ねてみた。


「え・・・あ・・・その・・・、魔法については私も詳しくはありませんが、もしやるとしても、かなり大がかりな装置が必要になるんじゃ無いかと思います・・・。」


 となれば長い目で見た場合、やはり物理的な方法で魔王都とルステーゼ王国を結ぶ必要が出てくるのでは無いだろうか?


 そんな事を考えながら屋敷に戻ると、相変わらずトトはティニエを相手に剣の稽古を付けて貰っている。


 上達しているかと言えば、そうでも無いだろう・・・。可哀想だが剣の道も近道は無いのだ。俺は心の中でトトに声援を送った。


 屋敷の居間ではエステルがリリに、初級魔法の本の読み方を教えていた。その傍らでは、メイドゴーレムのパンナコッタも一緒に魔法の本を読んでいた。


 メイドゴーレムって魔法は使えるんだっけ?思わずそんな事を考えてしまったが、俺は、キュリーシアからの相談について、エステルに尋ねることにした。


「リリの勉強の邪魔をして済まないが、今良いか?」


「ん?なに?」


 エステルは特に問題は無いと言った風に、質問を返してきてくれた。


「キュリーシアから相談を持ちかけられたのだが、魔王領とルステーゼ王国の間を結ぶ交易路に、魔法を使った道みたいな物を作る事は出来ないだろうか?」


 俺はダメ元で聞いてみた。


「ん~・・・出来なくは無いと思うよ?」


「だよな・・・そんな簡単にできる訳が・・・って、えっ!?出来るのか?」


 出来なくは無いと言ったか?それでもさらっと言ってきたエステルの発言に俺は驚いた。


「うん。ただ問題がいくつかあるかな?」


「どんな問題だ?」


「今はリリの勉強があるから、チョット待ってて。片手間で説明できることじゃないから・・・。」


 今度は俺が身を乗り出していたようだ・・・。リリの勉強の邪魔をしては申し訳ない。俺は、「じゃあまた後で教えてくれ」と言って席を外す事にした。


俺はリリに、「スマンかったな。」と言って、隣の居間へと移動したのだった。するとそこには、ブリットやエイナル、エリック達が居て、お茶を啜りながら寛いでいた。


 ヘンリクだけがそこには居なかった。きっと教会の建設状況を見に行っているのだろう。それは最近の彼の日課となっていた。当然エクレアも同行している。


「あっ!お帰り~。キュリーシアの相談って何だったの?」


 ブリットは唐突にキュリーシアからの相談について聞いてきた。


「ああ、魔王領とルステーゼ王国を、本格的に交易させる方法が無いか相談されたんだ。」


 それを言いたブリットは、納得したように、


「なるほどね・・・。キュリーシアもルステーゼの果実酒や食べ物は気に入っていたものね・・・。」


「しかし、あの山脈を越える交易ルートは流石に無理では無いか?」


 エイナルは俺と同意見の様子だった。確かに物理的な交易路は難しいだろう・・・。


「確かにな・・・。あの山脈は魔物も超えられないほどの高さだ。荷物を積んだ荷馬車が越えられるようなものでは無いだろうな・・・。」


 俺も現実的な意見に賛同する。


「う~ん・・・中腹あたりでトンネル作れれば良いのになあ・・・。」


 そう言ったのはエリックだった。


 ん!?その発想はなかった!それなら麓からトンネルを掘るより短く出来て、荷馬車の負担も減らせるんじゃ無いか?


 ただ、もしその作業をしたとしてもどれほどの距離を掘り進めなければならないのか見当も付かない・・・と、そこまで考えたところで俺はエリックにそれとなく聞いてみた。


「エリック、そのトンネルを精霊魔法で開ける事は出来るのか?」


「えっ!?それは規模にもよるけど、やれない事は無いと思いますよ?ただ、水脈に当たると大変な事になるかも知れないから、一人の精霊使いでの作業は危険ですね・・・。」


 なるほど・・・、今の話で、黒部アルペンルートのトンネル工事の物語を思い出した。ただ穴を掘れば良いという問題ではないという事か・・・。


 前途は多難だ・・・。

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