武具屋そして散策
冒険者ギルドを後にした俺たちは、各自目的の場所へ向かった。
ヘンリクは、散策がてら信仰する教会へ。
エリックは、冒険者ギルドの受付嬢さんから地図を貰って精霊術屋へ。
エステルも、地図を片手に魔法屋へ。
エイナルは、盗賊ギルドを探しに行った。
俺とブリットは武具屋に向かう。と言ってもその武具屋は、冒険者ギルドの向かいにあった。
俺とブリットは一度「鹿の角亭」に防具一式を取りに戻る。持って歩くのもおかしな話なので一度装備する。今の装備はスケールメイルにラージシールド、鉄兜だ。これからのことを考えると心許ない。
ブリットも前衛職だその辺どう思っているんだろうか?
「昨日目が覚めたときは装備を外してあったから気にしてなかったけど、こうやって装備した状態を見ると不思議な感じよね?」
「だな・・・俺は昨日も着ていたから今日はそんなに違和感は感じんがな・・・それより脱いだり着たりするときに違和感なく作業できた方が不思議だったな。」
「あっ!確かに!自然に装備出来ちゃったから、そんなことも感じなかったよ。」
そんな会話をしていれば、あっという間に武具屋に到着する。
店に入るとそこには俺と同じような背格好の親父が店番をしていた。どうやら店の亭主はドワーフのようだ。店の看板には「ヤンの武具店」と書いてある。
「へいらっしゃい!って、不器用ヨーンじゃねえか!」
「やかましいわっ!」
条件反射で怒鳴り返してしまった・・・俺の不器用は有名なのか?
「今日は防具を一新しようと思ってな。一式見繕って貰えんか?」
俺が簡潔に用件を伝えると、
「なんだ?いよいよ山に向かう気になったのか?」
意味ありげに聞いてくる。
「ん?遺跡のことか?まあそんな所だ。」
俺としてはそれ以上に心配事があるからだ。だが、店の親父は俺の今の装備に不満があったようだ。
「重戦士と言っても今までがそこまでガチガチじゃ無かったんもんな。」
「ああ、それに臨時収入もあったからな。ここいらでしっかり装備し直そうと思ってな。」
「なら、軽量化の魔加工をした防具一式なんてどうだ?防御力強化の魔加工まで入れると、金額が跳ね上がるしな。」
魔加工とは、魔法加工の略だ。軽量化や防御力の他にも、敏捷度の上昇や魔法抵抗上昇などがある。防具を使って自分の弱点をある程度カバーするのだ。
俺の器用度をまともにする程の付与は見込めないが・・・
「どのくらいする?」
「調整を含めて、軽量化のみなら金貨15枚、防御力強化の魔加工まで入れると金貨25枚ってとこかな?」
予算は金貨30枚までだ。そのくらいなら何とか捻出出来るか?
「装備の内訳はどうなてる?」
「内訳は、プレートメイル、ラージシールド、それに鉄兜だな。」
これで全身包むことが出来る。ただタンクとしてはシールドをもっと大きくしたいと考えてしまう。
「タワーシールドにはならんか?」
「身長が合わねえだろうが!」
店の親父に聞いたら全力で突っ込みが入った・・・。
「ムッ!それを言われるとそうだな・・・」
店に置いてあるタワーシールドを見たら俺よりデカい・・・
「なら、防御力強化まで付与した防具一式で頼む。あと鎖帷子も売ってくれ。」
「マジか!そんなに儲かったのか?」
店の親父は心底驚いている。それもそうだろう。
レベル10の冒険者と言えば、やっと中堅になったばかりだ。受けられる依頼も広がるが、つい先日までは中堅一歩手前だったのだから、受けることの出来る仕事も多くは無いし、そこまで報酬も良いとは言えない。
だから金貨25枚を出せるのは破格なのだ。
「それは言えんな。」
裏事情は話せないので笑ってごまかす。
「まあ、鎖帷子はサービスしておいてやる。もしこれ以上の装備が必要ならオーダーメイドの方が良いだろうな・・・ただ、そこまでやるなら、もっとレベルも上げてからの方が良い。オーダーに頼るなら最低でもレベル20にしておけ」
お~・・・厳しいご指摘だ!今の倍のレベルか・・・命の掛かった今、そこまで積極的に冒険出来るのか不安だ。
それでも俺は取りあえずニヤリと親父に笑って、冒険者カードで決済する。体に合わせる調整もあるから、受け取りは後日だ。
ブリットは俺と店の親父の遣り取りを聞きながら、店の商品を物色していた。付与関係の武器や防具が無いからパッとしないのだろう。
俺には一つ気掛かりなことがある。
今後前衛として命の遣り取りが本当に出来るのかと言うことだ。ブリットの装備は皮鎧のみ。鎧で守られていない箇所も多くあるのだ。そして相手の攻撃がかすっただけでも痛みは当然感じるだろう。その時ちゃんと動けるのか?
相手を殺すことについても動物でもモンスターでも同じだ。そんなことが現代社会で育った女性に出来る物なのか?それが気がかりで為らない。俺だってそれが出来るのか心配なのだ。
その気掛かりについて俺はまだ皆に一度も指摘をしていない。色々なことがありすぎたと言うこともあるが、実のところは問題の先送りというやつだ。
そんな心配があるからこそ、俺はブリットに装備の件と含めて訪ねてみた。
「ブリットは何かほしい装備は無いのか?」
「ん~考えてはいるんだけど、パッと思いつかないんだよね・・・」
やはり本当の戦闘については深く考えていないんじゃ無いか?そんな一抹の不安がよぎる。だから少しでも防御力が高まるよう、ブリットの良さが失われない程度の装備を勧めようとする。
「最低限皮鎧とは別に鎖帷子は装備した方が良いと思うぞ?ブリットの敏捷ならそうそう相手の攻撃が当たるとは思えないが、念のためだ。」
「逆に鎖帷子の分重くなって敏捷が落ちちゃわないかなぁ・・・?」
確かにそれはある。本来貰わなくて良い攻撃を貰う可能性があるからだ。ただ、その分防御力も上がっているはずだから。余計なダメージには為らないはずだ。
ん~・・・だけどブリットの気持ちは尊重したいし、参ったな・・・
「なら、俺と同じ付与を付けて貰ったらどうだ?皮鎧に防御力の魔加工を付けて、鎖帷子に軽量化の付与とか?」
そんな会話をしていると俺の気持ちを察したのか、店の親父がフォローしてくれる。
「今来ている皮鎧が良い感じに馴染んでいるようだから、それに、軽量化と防御力強化の魔加工をして、鎖帷子には軽量化の付与をしたらどうだ?そうすれば今の敏捷に影響はさほど無いんじゃ無いか?」
お!ナイスフォロー!っていうか、中古でも付与可能なのか?
「新品じゃ無くても良いの?」
同じ事を思ったのかブリットも質問する。
「ああ、逆に皮鎧は馴染んでいる方が動きやすいだろ?」
確かに、野球のグローブも新品よりも使い込まれた方が扱いやすい。原理としては同じと言うことか。
「じゃあ、それでお願いしようかな?あと、剣の方ももっと軽量で丈夫なのがほしいんだけど?」
「ちょっと見せてみろ。」
そう言ってブリットから片刃の片手剣を受け取り確認していく。
「この剣ずっと使ってたのか?大分痛んでるから新調した方が良いな・・・」
「え~!その剣とても気に入ってたのに!」
ブリットが方を膨らませて抗議する。
「と言っても近いうちに確実に折れるぞ。」
「うわ!そんなに酷かった?」
「どう見ても手入れが出来ていねえな。」
気に入っていた剣が使えなくなると言われて残念がるが、諦めがついたのか新しい剣の購入を決めたようだ。
「解った。じゃあ親父さんのオススメの剣を見せて貰える?」
「防具も含めて予算はヨーンと同じくらいとみて良いのか?」
「ん~・・・そこまで出せば良い剣になるの?」
「ああ、オーダーとまではいかねえが、レベル20になるまでは余裕で使える剣が用意出来るぞ。」
「おいおい、何を勧める気だ?」
予算があると思ってふっかけてきたか?
「いや、皮鎧の付与と、鎖帷子の料金は金貨10枚だが、剣で15枚出せるなら、魔法鉄の剣が用意出来る。これに軽量化と切れ味、血糊浄化の付与をした剣だ。」
そう言って、魔法鉄の剣を数本出してきてくれた。選んだ剣に付与の加工を行うそうだ。
「今ある魔法鉄で出来た片刃の剣はこの5本だ。どれにする?」
出してきた剣はどれも切れ味も良さそうな新品の剣だ。
ブリットも目を輝かせて一本一本手にとって軽く素振りしていく。
素振りをしていたブリットが、一本の剣をじっと凝視する。気に入ったであろう一振りの剣を親父さんに渡す。
「私これにする!」
「ほう・・・お嬢ちゃん、お目が高いねえ・・・この5本の中で一番良い業物ってやつだ。」
「え!?じゃあ値段上がっちゃう!?」
豹柄のしっぽをピンと立ててワタワタし始める。
「いや、値段はそのままだ!剣が嬢ちゃんを持ち主として認めたんだろう。仕上は任せておけ!」
親父さんはガハハと笑い剣を鞘に収めた。そして、ブリットの防具も預かり、受け取りは1週間後と言うことで決まった。
「あ!そう言えばワシのスケールメイルは下取り出来んか?」
「アホか?そんなボロボロの鎧、処分代を貰いたいぐらいだ!」
残念。しかし新しい鎧が出来るまでは装備しておいて、新しい鎧と引き替えに店に置いていくことにしよう。
ブリットも精算を終わらせて、「ヤンの武具店」を後にした。
さて、大きな買い物はこれで済ませた。街の詳細がわからないのでは困るので午後は少し散策をすることにした。「ヤンの武具店」で結構時間を取ってしまったので丁度お昼時だ。
「どこかで昼食でもするか?」
「そうだね。まだこっちでちゃんとした食事って朝食くらいだったし、何があるのか興味あるな。エステル達も近くに居ないかなぁ」
そんな話になるのには理由がある。この街はそれなりに広いが、区画がはっきりしている。街の中心は噴水のある広場になっており、そこから東西南北に広い道がある。
南側の区画は商業・工業区画、北側居住区画になっている。南側エリアにいれば鉢合わせする可能性は十分あり得た。
とはいえ腹は減る。
オープンテラスの有る小洒落たお店で昼食を取る。皆が通った時に気付いて貰えるように外で軽食を取った。が、残念なことに遭遇は出来なかった。
一息ついた所で、散策を再開しながら俺は思いきってブリットに、今後の冒険における戦闘について、どれほどの覚悟があるのか聞いてみた。
「ブリットは前衛として戦闘は怖くないのか?」
「ん?ん~・・・それは昨日の夜寝ながら考えてた。ゲームと違って自分の体を動かす訳だし、スタミナや、さっきヨーンが心配してくれたみたいに防御力の薄さについて。」
ブリットは俺が心配するよりも、しっかり考えていたようだ。
「ワシもそれが気掛かりだ。実戦経験が無くて、ゲームの中でしか戦闘をこなしていないのに、いざ本番を迎えたらまともに戦えないんじゃ無いかと・・・」
「ねえヨーン、今日、運動してみた?」
唐突にブリットが聞いてくる。
「いや・・・」
俺が一番早く起きたと思っていたらブリットが一番早く起きていたのか?
「私ね、早く目が覚めちゃったから少しジョギングをしてきたの。そしたらビックリ!オリンピックで金メダルを余裕で取れるんじゃ無いかって程の速度で走れたの!剣の素振りもしてみたわ。それもやっぱり体が勝手に動くの。」
「本当か?」
驚きの発見だ。俺は頭の中で色々考えすぎていたのかもしれない。
彼女は実際に行動し、自分の今の能力をしっかり把握している。
「ええ。これが新米女神様補正なのか、私たちのステータスやスキルの恩恵なのかは解らないけど、レベルに見合わない無茶な依頼で無ければ、十分やっていけると思うの。」
「それが本当なら一度皆で話して模擬練習をしても良いかもな。で、低レベルの依頼を受けて、ワシ達がどこまで出来るか確認してみる必要がある。」
目から鱗だ!まだ異世界に来て1日しか経っていないのに、彼女はそこまで行動していた。俺はその間何をしていた?ただ頭の中でウンウン唸って、あーでも無いこーでも無いと頭を悩ませていただけだ。
「ブリット、ありがとう。ワシは頭で考えすぎていたようだ。」
「何言ってるの?ヨーンが色々と考えているからこそ、こうして異世界に来ても私たちが自然体でいられるのよ?きっと他のメンバーも今自分が何が出来るか考えて行動しているはずよ?」
敵わないなぁ・・・俺も彼女を見習わないと・・・元々石橋は叩いても渡らない性格だが、異世界に来ても変わらない性格では勿体ない。せめて石橋を渡れるようにならないと。
少しでも前向きに考え、行動出来るようにしないとな・・・。




