魔王からの依頼
俺達が自主訓練を始めてから一週間ほど経った頃、キュリーシアから遠話の魔法バッジで連絡が入った。
「急に申し訳ありません。父が皆さんに依頼したい案件があるというので、これから王城に来て頂けませんか?」
「魔王様直々とは珍しいのう・・・。何か急な用件なのか?」
「それも含めて父から詳しいお話があると思いますので・・・。」
周りに居るメンツに確認してみると、特に問題はなさそうだ。
「解った。ではこれから王城に向かう。少し待っていてくれ。」
そう言って、遠話の魔法バッジを切ったのだった。全員念の為にと装備を調え、馬車で王城へ向かう。メイドゴーレム達は屋敷にお留守番だ。
すると、エクレアが「護衛としての任務が!」とごねたので、代表してエクレアのみ連れて行く事にした。
初めて王城へ皆で行った時の、大所帯感が拭えなかったからの対策だったのだが、護衛としての任務と言われてしまうと、それを拒否しては可哀想になってきてしまい、一人だけ許可したのだった。
ティニエも久しぶりに魔王の顔が見たいと付いて来た。
王城の中に入ってすぐのところまで来ると、キュリーシアが待っていた。そして、俺達の馬車を見付けると駆けつけてきて、
「急な呼び出しに応じて頂き、申し訳ありません。」
と、申し訳なさそうに言ってきたのだった。
「いや何、キュリーシア殿と魔王様の呼び出しだ。余程の事が無い限り応じない訳には行くまい。ティニエ殿も魔王様の顔を見たいと言って付いて来たぞ。」
「呼ばれていないのに付いて来てしまって済まないな。」
ティニエはそう言ってキュリーシアに謝罪した。
「いえ、父も喜ぶと思います。」
キュリーシアはティニエの謝罪に対しそう答えたのだった。
早速、魔王の居る謁見の間へ通されると、魔王は既に席に着き俺達の到着を待っていたようだった。そして、ティニエも同席している事を確認した途端、魔王はニヤリと笑みを溢した・・・。
「おお!夫婦で来てくれるとは!ところで式は何時になるのだ?」
やっぱり、このネタで振ってきたか・・・。魔王はゴシップネタに飢えているのだろうか?
俺はゲンナリして呆れつつも、いつものやり取りをすることになる。
「魔王殿、ティニエ殿はワシ等の屋敷に来ている客人だ。式もヘチマも無いぞ?」
それがそこまで言うと、傍らで、「式」と言う単語にクネクネしていたティニエが、しょんぼり肩を落とす姿が視界の隅に写った。
「それよりも、今日ワシ達を呼んだのはどのようなご用件かな?」
俺は無理矢理話題を逸らした。
「そうであったな。今日は急に皆を呼びつけてしまい申し訳ない。実はこの魔王都の西にある、西の樹海のことなのだが、最近魔獣が増えていると聞く。西の樹海の管理は主にダークエルフが行っているのだが、どうもその西の樹海の様子がおかしいという報告が上がってきたのだ。」
「樹海の様子がおかしい?それも気になるが、魔獣とはいったい何なのだ?」
どうおかしいと言うのだろうか?そもそも魔獣とはいったい何なのか?俺は魔王に聞いてみた。
「魔獣を知らないのか?魔獣とは、瘴気を吸い込んだ野生動物のことだ。魔獣となった野生動物たちは、凶暴化してしまう。数が増えると魔物と同じように討伐しなくてはならなくなるのだ。」
「その魔獣が増えていると言う事は、瘴気が濃くなっているという事かの?」
「察しが早くて助かる。その通りだ。この情報が入ったのが昨日のことだった。詳しい話は、近衛騎士長のクシュラーデに聞いて欲しい。」
そう言うと、魔王は近衛騎士長のクシュラーデに話を振った。
「皆さんお久しぶりです。今回は西の樹海の件でご足労頂きありがとうございます。実は、ダークエルフの村から来た使者からの報告により、私の姉が族長を務める村が管理している洞窟の1つから、タダならぬ瘴気が噴出し始めているとのことなのです。最初の内は、村の精霊使い達がそれを押さえ込んでいたようだったのですが、それも今では抑えきれぬようになっているとのこと・・・。このままでは、森の動物が全て魔獣となってしまい、狩りで生計を立てているダークエルフ達は、森を離れなければならなくなります。それに加え、魔獣が樹海からあふれ出してしまえば他の村にも危害が及ぶ危険もあります。そこで、皆さんにはダークエルフの村へ向かって貰い、その原因になっている洞窟の調査をして貰いたいのです。」
クシュラーデはそこまで話すと頭を下げた。
「場所の特定は出来ていると言う事か・・・。しかし複数の精霊使いでも抑えきれないほどの瘴気があふれ出して来るというのは、ただ事では無いのう・・・。」
「はい。今でしたらまだ漏れ出す程度で済んでいますが、抑えきれなくなれば、一帯の動物たちが徐々に魔獣化してしまうでしょう・・・。」
「その瘴気はワシ等が触れても影響は無いのか?」
懸念材料としてその瘴気に触れたら俺達も魔物みたいになってしまわないかだ。
「長い年月、高濃度の瘴気に当てられると影響は出てきますが、短い期間であれば問題ありません。我々ダークエルフ達も影響が出ないように、交代しながら瘴気の噴出を押さえていますので。」
「そうか・・・。ならば、魔王殿たっての依頼となれば断る訳にもいくまい。」
そう言って、メンバーの顔を見渡す。久しぶりの冒険に、その顔はやる気に満ちていた。
「おお!引き受けてくれるか!では、ダークエルフの村までの案内は、近衛騎士長のクシュラーデを付けよう。クシュラーデよ、行ってくれるな?」
そう言って、魔王はクシュラーデを見た。
「はっ!この任務、謹んでお引き受け致します!」
クシュラーデは騎士の構えを取り、そう回答したのだった。
そして、出発は翌々日となった。クシュラーデは俺達の屋敷に来るそうだ。
クシュラーデの姉が族長をしていると言う、ダークエルフの村までの道程は約2日。
西の平原を横切る形となる。そして、西の樹海に入って半日ほど行ったところに、ダークエルフの村があると言う。
色々と段取りをして出発の日に備えていたのだったのだが、ティニエがもじもじしながら突然、
「ヨーン様、今回の旅に私も同席させては貰えないでしょうか?」
と、言ってきた。本来は留守番というのが約束なので、本人も言い出し辛そうだったのだが、何か気になる事でもあるのだろうか?
「ティニエ殿がそう言うのには何か訳があるのか?」
「はい。ほんの些細な事なのですが、西の樹海の瘴気が強まっていると言うのが少々・・・。」
俺はどうしたモノかと悩んでいると、
「何か気になる事があるんでしょ?馬車の席は空いているんだから連れて行っても良いんじゃ無い?」
ブリットが、あっけらかんとそう言った。俺は少し悩んだが、結局、
「解った。今回は特別に同行を許そう。」
同行を許可したのだった。
「ヨーン様、ブリットさん、ありがとうございます。」
ティニエも俺だけでは無くブリットにも礼を言ったのだった。
出発日の当日、俺が馬車の状態をチェックしていると、クシュラーデがやって来た。
いつもの騎士の装備では無かった。皮鎧にレイピアと弓を装備している。
まるでエリックのような出で立ちであった。エルフらしいと言ってしまえばそれまでかも知れない・・・。
「おはよう。約束より早いな。」
「ああ。まあ・・・何だ・・・。実は久しぶりの里帰りになるものでな。昨夜は寝付けなかったのだ。」
「ああ、その気持ちは解るぞ。家族に会えるのも楽しみと言ったところか?」
「そうだな。もう里を離れて100年以上になる。何も変わっていないとは思うが、楽しみだ。こんな事を言ってしまうと、不謹慎だと言われてしまうかも知れんがな・・・。」
「どんな理由にせよ、里に帰る事には変わりあるまい。それに里の為に行動するんだ。不謹慎とは言わんよ。」
「そう言って貰えると楽になる。ありがとう。」
「なに、気にするな。皆はまだ屋敷の中だ。お前さんも、屋敷でゆっくりしてくれ。ワシは馬車のチェックがあるからもう少ししたら屋敷に戻る。」
「すまんな。そうさせて貰おう。」
そう言うと、クシュラーデは屋敷の方へ向かって行った。
俺は一通り馬車の確認と馬の健康状態をチェックすると、屋敷に戻った。
そこでは出発前で気持ちが高ぶっているのか、皆賑やかに会話をしていたのだった。
「ほれ。馬車のチェックは完了したぞ?皆も揃っているようだし、出発するとしようか?」
俺は出発するように促すと、ブリットが手首を回し始めた。
「え?あ!そうだね。じゃあいつものアレをやっておこうか?」
「「「「「おう!」」」」」
ブリットがそう言うと、俺達全員が構えを取った。
「じゃあ行くよ!じゃあ~ん・・・けぇ~ん・・・・・・」
「「「「「「ぽんっっ!!!」」」」」」
いつもの御者番じゃんけんだった・・・。
これを知らないティニエとクシュラーデは、目を丸くして驚いていたのが印象的だった。
今回の結果は、ブリット、ヘンリク、エリック、エイナル、ヨーンの順番となった。
俺が最後の御者番は初めてじゃ無かろうか?俺はそんなチョットした感動を覚えていた。
俺達は仲居頭に後を任せ、トトとリリにも剣術の鍛錬と行儀見習いを怠らないようにと言い聞かせ、出発したのだった。
俺達の馬車に初めて乗ったティニエとクシュラーデは、馬車の内装に驚いていた。
まあ、前向きの座席というのも珍しいだろうが、その座席数も多いのだから、馬がその重量を引くことが出来るのか心配なのだろう。
そもそもどうやって14人も1台の馬車で出掛けるのか、疑問に思っていたようだったが、これで納得頂けただろう。
魔王都からダークエルフの村までは街道が整備されていない。
しかし、西の平原が、牧草地として活用されている為、整備はされていなくとも、馬車が通る道はあるのだ。
そこでもティニエとクシュラーデは、この馬車の性能に驚いていた。まあ、初めて乗る者は皆驚くことだろう。
「街道でも無い道を走っているのに揺れが少ない・・・!」
問題は方角なのだが、それは同行してくれているクシュラーデがしっかりサポートしてくれている。
ちょうど西の平原に入った当たりで日が傾き始めた為、この日はそこで野営をすることになった。




